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【外伝】セイヤの祝福をあなたに

「セイヤッ!! そいそいそい!!」

 全裸の男女が熱き血潮を滾らせ舞い踊る。

「セイヤッ!!」

 色気もクソもないムキムキマッチョボディから湯気のように立ち上るのは闘気か何かだろうか。

「・・・・・・バカなのか?」

 ユーマは首を大きく傾げた。

「あ、あぁぁああぁぁあああ~・・・・・・」

 顔を真っ赤に染めたミズホが悶えた。

 純真無垢な彼女には悪夢のような光景だ。

 巫女服の朱色と赤面した顔が同じように見える。

 まるで赤鼻のトナカイ。

 顔を覆った両手の指の隙間からチラチラ見ては悶えている。


「聖夜の祭りって言わなかったっけ?」

 ユーマは満面の笑みを浮かべるシスターウリウリを見やる。

 整った顔立ちにサラサラの金髪を持つ美少女シスターの顔も赤かった。

 こっちは興奮のあまり。

「ええ! 言いましたよ! セイヤのお祭りですって! どうですか、迫力あるでしょう」

「意思疎通に難あり!!」


 ある日、唐突に自宅のトイレごと異世界に転送されたユーマは、いわゆる異世界人である。

 不思議な力で言語は通じるが、どうにも誤解が生じやすい。

「くっ、ネタにはなるが・・・・・・」

 ユーマを召喚した神々に物語を提供して楽しませることで生活費を得ている状況だった。

 つまり平凡ではない状況こそユーマの意思はともかく、望ましい展開ではある。

「楽しい祭りだと聞いて、遠路はるばる5日もかけて得られたものはッ!」

「全裸の男女が黒ミサやってる現場だったなんて!!」

 嘆く言葉は誰にも届かない。


「素晴らしいですね! すべてをさらけ出して、ありのままの姿で男女仲睦まじく、激しい夜を過ごす!」

「むふーっ!!」

 深々と入ったスリットから生足が大胆にも見えるドスケベシスターは大興奮していた。

 ユーマの言葉など耳にも入らない。


「ふむぅ。寒くないのかや?」

 目と鼻の先で躍動する肉体を見つめる幼女が真剣なまなざしで、当たり前の言葉を口にした。

 昨日降り積もった雪が月の光と松明に照らされる。

 そこを全裸の男女が躍動しているのである。

「マウス、おまえがそれを言うのか・・・・・・」

「なんじゃ?」

 ユーマは隣の幼女に視線を向けるとつぶやいた。

 そこには、スクール水着姿一枚で冬空の下に佇むマウスの姿がある。


 彼女は、見た目こそ身長150cmくらいで童顔の幼女だが、その実、人化のなんかを使っているドラゴンである。

 トカゲって変温動物では・・・・・・?

 ユーマは記憶を手繰り寄せ、遠い昔、生物の授業で聞いたことを思い出していた。

「ははーん? 我が薄着をしておって心配しておるのじゃな?」

「案ずるでないぞ。今年の我は一味違うのじゃ! 年齢制限に引っかからねば我も参加しておったというに」

「やめろ。やめてください。重大事故になってしまう」

 ムキムキマッチョの男女だから色気は無いが、いい感じにスケベなフォルムをしているマウスが参加すると途端にダメな感じになってしまう。


「セイヤッセイヤッ!! はああああッ!!!」

 変なポーズを取りながら列をなす全裸の集団が進む先は天まで届くような大聖堂である。

 ひとりまた一人と大聖堂のまばゆい光の中に消えてゆく。

 ウリウリ曰く、過酷な環境の中、自らのすべてをさらけ出すことでセイヤの祝福が得られるとかなんとか。


 そのためだけに全裸になり、沿道でみなが見つめる中、掛け声を発しながら寒空のもと苦行する。

 異世界のクリスマスは、だいぶイカレていた。

 そのイカレた光景のなか、ユーマは見てはいけないものを見てしまう。

「セイヤッ! セイヤッ!!」

 肌色の波が続く中、混じる緑色の全裸と寒ブリもとい寒マグロ。

 あろうことかHENTAI的な祭りに身内が参加していたのである。


 躍動する150cmくらいの緑色。

 ゴブリンの七味である。

 一糸まとわぬ産まれたままの姿でヤケクソっぽい掛け声を発する小さな巨人の筋肉がぷるぷる震えていた。

 それに続くのは人間のボディに首から上がマグロのHENJIN。

 文字通り首から上にマグロが載っているかのように生えている、いわゆるキメラである。

「セイヤッセイヤッァァァ!!!」

 霜がついた魚体の口が半開きになったままセイヤの祈りを叫び続ける。

 まん丸のお目目は死んだ魚のそれだった。


「バカなのか?」

 ユーマは改めてつぶやいた。

 この奇祭の参加者は、毎年5000人くらいらしい。

 そして、祭りの最中に星になり、永遠に目覚めないものもいるという。


 彼らは自らの限界に挑み、神からの寵愛を受けるための聖なる儀式としているらしい。

 しかし現代人のユーマからすると寒中水泳なみの苦行である。


 同時に居住しているロッテンハイマー市が普通であることに安堵した。

 まあ、ハロウィンとかはゾンビ撲殺キャンペーンだが、一つ二つおかしなところがあるくらいは仕方ない。

 異世界だもの。


 年の瀬が迫る中、ユーマは寒空を仰ぎ見る。

 来年も異世界アラドから帰れないだろう。



お久しぶりです。

とりあえず生存しています……が、いやぁ、ちょっと異世界を救った弊害で利き腕をやられましてね。

痺れが永続デバフってるんですよ。

困りましたね。

いや、たぶん腱鞘炎ってヤツだと思われますが。

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