放置アニバーサリー1周年の儀
「・・・・・・」
ユーマが目を開けると見慣れた天井が視界に入る。
「・・・・・・んん?」
なんだ、自宅か。
いや、自宅?
ユーマは目覚め切っていない頭で思考する。
ええと、なんだったろうか。つい先日のような気がするものの、だいぶ前だった気がする。
あれだ、目が覚めたては夢の記憶をしっかりと覚えているのに、少し経つと霞が晴れるみたいに霧散していく感じ。
「おかしいな」
何がおかしいのかよく分からないが、おかしい気がする。
確かトイレと一緒に異世界へ・・・・・・。
ああ、そうだ。トイレに行ったら異世界に行ったんだ。
いや、そんなことある? とか思ったが、夢だったのかもしれない。
荒唐無稽な展開、夢ならありえる話だ。
そうそう、それでゲームに出てくるようなシスターに出会ったり、スク水を着た擬人化したドラゴン幼女に絡まれたり、挙句は武士みたいな口調のゴブリンと冒険をするのだ。
「へっ。まあ、なんつー変な展開」
ベッドから起き上がるとリビングを突き抜け、トイレに向かう。
始まりの場所トイレ。
いや、普通のトイレだ。
一応便座に座ってみたものの、何の変哲もない。
水を流して、手を洗い、恐る恐るドアを開けても中世ヨーロッパ風の街並みは広がっていなかった。
「ま、そんなもんだよな」
カレンダーを見る。
土曜日、休日だ。
冷蔵庫を開けると記憶にない野菜たち。
「さやえんどう、唐辛子・・・・・・なんだこれ? ウド、か?」
とてもじゃないが、朝食に向いていない食材だらけだ。
というか調理をそれほどしないユーマにとって、プレーンな野菜がいっぱいあっても仕方ないのだ。
「仕方ない。コンビニでも行くか」
財布を取りに部屋の中を歩く。
向かうと先には電源が切れているパソコンと無駄に整理された机があった。
あれ? 昨日、パソコン切ったか? 机の上に何かあったような。
何か違和感を覚えるが、些細なことではない。
寝落ちなんて当たり前だし、もしかしたら寝る前に片付けたのかもしれない。
スニーカーをはいて、町に繰り出すとまっすぐにコンビニに向かう。
文明の利器コンビニ様は現代社会の魔法みたいなもんだ。
自動でドアは開くし、店内は程よく冷えていて夏場には憩いの場としても最高の環境だ。
あれ? いま、夏だったか?
少し首をかしげながらコンビニ弁当を手に取る。
「イカとマグロの揚げ物定食・・・・・・? なんだこれ、新作か」
まぁいいや。というかそれしか在庫が無い。
選択肢が無いなら仕方ない。口に入るなら食べ物だ。
支払いを済ませ、コンビニを後にする。
店員さん、かわいかったな、などとヤボな思考が働く。
黒髪をポニーテールにした清楚系美少女。なんだか既視感がある。
「あ、あのお客さん。忘れ物です」などと追いかけられなければ、完全に記憶の彼方に消え去るところだった。
夢の中に出てきたミズホという巫女っぽい女の子そっくりだった。
というかむしろ
「そろそろ起きてください。ユーマさん。1年寝てますよ?」
などと意味不明のことを口走られなければ、永遠に夢の中にいたかもしれない。
「はっ!?」
「ぎゃお!!!」
勢いよく飛び起きると目の前で覗き込んでいた幼女にヘッドバットをぶちかます格好になった。
おでことおでこが正面衝突。
幼女は頭を抱えて、石の廊下を転げまわる。
ユーマも目から火花が飛び散るような錯覚と強烈な痛みで目が覚める。
「やや! 目覚めの時という奴ですね?!」
次に視界に飛び込んできたのは、マグロだった。
いや、マグロがムキムキマッチョのボディに乗ったHENTAIである。
「ああ、あっちが夢でこっちが現実か・・・・・・」
おかしいと思ったんだよ。などとグチるが目の前の奇妙な面々は変わらない。
ドラゴンが擬人化したスク水幼女は野太い声を上げながら床を転げまわり、なんかヌルヌルした液体まみれになっている黒髪ポニテの美少女ミズホ、暇そうにあくびをしている自称女神で狐のような尾っぽが生えている幼女チヒロ。
そして、何故かいるマグロ男。
「はぁ!? 尊い犠牲になったんじゃ!?」
確かサメの怪人たちの前に立ちはだかり、ここは任せろ的な死亡フラグを立てていたような。
「ふふ。このマグローネ、あの程度のサメの大群など敵ではありませんな!」
ガハハと笑うマグロ男。
その尻には、サメっぽい歯形がくっきりと残されていた。
いや、つーかアンタ名前、マグローネって言うんだ!?
再開しました!!!