目のやり場に困るとき
ぺったんぺったん
「ぬしよ」
「ん?」
「我を舐めまわすように見るでない」
「いや、そこまで見てないぞ」
ぺったんぺったん
粘液まみれになったマウスが歩くたび、床に吸い付くような音がして気が散る。
チラチラと彼女を見るたびに目が合う。
「ぬしよ」
「見てないぞ」
「見られている側は視線に気付くものじゃぞ。我くらいの大人のレディにもなろうものなら特に―――」
だそうである。
とはいえ、見ていないと言えばウソになるが、決して舐めまわすようには見ていない。
イソギンチャクに捕食? されていた時間が長かったのか頭のてっぺんから足の先まで、ねっとりとした粘液まみれになっている。
ポニーテールがうなじにへばりつき、お肌もねちょねちょしていて、まるでドブに落ちたネズミのようである。
唯一、機能を果たしているのが、スク水だった。
べっとりと濡れた水着が水着である意味を果たしていた。
ぴったりと張り付き、ボディラインが強調されてしまっていること以外は。
「ところで、あのイソギンチャクみたいなやつはどこから来たんだ?」
こういう時は話題を変えればいいのだ。
「ここの突き当りをどっちかに曲がったところでバッタリ出会ったのじゃ」
「ほほう。徘徊していたと」
「うむ」
マウスは深々とうなずき、そして語りだす。
「出会い頭に襲い掛かってきた彼の野蛮なウネウネ、我は当然迎え撃つ」
即落ちでもしたのだろうか。
一歩後ろを恥ずかしそうに歩くミズホみたいに。
粘液まみれで極めて卑猥な感じに肌がテカっている。
うん、こっちは見たらダメだと思う。
「襲い来るウネウネの大群。結構奮闘したのじゃ。しかし数で勝る奴らに死角から縛められ、あれよあれよという間に丸呑みされてしまったのじゃ。無念なのじゃ・・・・・・」
「え、いっぱいいたの?」
「10体くらいは、ぶっ飛ばしたのじゃ」
ふふんと自慢げに張ったお胸がわずかな膨らみを強調している。
そっと視線を逸らすとべちょべちょのミズホが視界に入る。
ぬちょぬちょ
「ユーマさん」
「なんですか」
「ジロジロ見ないでください。・・・・・・えっち」
何かがへばりつく足音のする女ミズホが頬を膨らませる。
「理不尽だ」
じゃあ、どっちを向けばいいと言うのだ。
半歩先にはべちょべちょマウスが、一歩後ろはべちょべちょミズホが。
横には白い目で見つめるチヒロの姿があった。
ぬちょぬちょ
「チヒロ」
「やーなの」
まだ何も言ってないし、伝えてもない。
「まだ何も言っていない」
「どうせロクなことじゃないの」
一体なんだと思っているんだ、と問い詰めたい衝動に駆られるが、今はただただメンドくさい。
さっさと他の仲間たちを回収して帰りたい。
世界の危機なのか海の危機なのかマグロの生態系の危機なのか。
そんなことはどうでもいい。
ユーマにとって大事なのは平穏であった。
「ゴッデスポイントを使う。おいしい水大量、それとマウス、ミズホ用に新しい服を」
「ふーん。そういう事」
「このままでは(俺の理性が)ヤバい。色々問題しかない気がする。だから」
だから、とりあえずスケベじゃない格好になってもらおう。
あとべちょべちょしたままだと戦力として役に立たなそうだからだ。
ユーマは狡猾な男である。
いかに自分が戦わずに高みの見物を決め込めるかを最優先に考えていた。
「ユーマ。じゃあ、水代でポイント500、コスプレ衣装に500。引いとくからね」
顎に手をあて、しばらく思案していたチヒロが顔をあげると言い放った。
それはそれは悪そうな笑みを浮かべながら。
「まてまて、なんだコスプレ衣装って!?」
「安心するとイイの。目のやり場に困ってたんでしょ? イイ感じの見繕ってあげたの」
「普通のヤツで―――」
言い終わらないうちに空中にキラキラとした輪が出現し、木箱が飛び出してくる。
「もう遅いの」
「ああー・・・・・・。いったい何が・・・・・・」
コスプレとかいうからには、コスプレなのだろう。
パーティーグッズ的な見るからに一回着たらご臨終になりそうな。
「それと水はユーマの手のひらから出るようにしといたの」
「え」
「せっかくだから魔法みたいな感じで水が出るの! やったね!」
「やったねじゃねぇわ」
おいしい水といったが、飲むためではない。
粘液まみれになった女子二人の洗体に使ってもらうつもりだったのだ。
それが、手から水流が出る異能などになってしまったおかげで。
おかげで、素っ裸の女子二人を見ることになってしまおうとは!!
「なんて邪悪な神なんだ・・・・・・」
チヒロの口元がいやらしく歪んでいた。
いつも閲覧ありがとうございます!
本作ですが、プロット見直しに伴い、出だしからジワジワと内容を書き換えていく予定です。