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触手と巫女と

「行ってください、と言われたが、どこに行けば」

「分かりません!」

 ピシャピシャたまった水たまりを蹴り、長く暗い回廊を疾走する。

 迫りくるサメの大群にひとり立ちはだかったマグロ。

 “行ってください”

 ムキムキマッチョの背中には鬼が宿っていた。

 そのあとも何か言っていた気がするが、脱兎のごとく駆け出していたユーマ達の耳には届かなかった。

 重要なことだったろうか?


「まあいいや」

 相槌とも独り言ともとれる一言を呟き、最初の目的に立ち返ろうとする。


 元々、サメのHENTAIどもに連れ去られた仲間たちを探しに来たのだ。

 ところが股間丸出しのHENTAIに遭遇し、それが原因でマウスはトンズラしてしまい、戦力が減少したわけでもある。

「そもそも探す人数が増えたのは、さっきのムキムキマッチョのせいでは」

「ああ、そ、そうかも」

 そっと視線を逸らす。

 そういえば、ミズホは見たくもない股間の大根を見せられたのだ。

 純真無垢な彼女の心が受けたダメージは、気絶という結果につながっている。


 これ以上、身内に心にゆがみを持つ女子を作ってはいけない。

 HENTAIはシスターウリウリだけで充分である。


 薄暗い回廊を駆け抜ける。

 今どこにいるのかとかどこに向かっているのかとか分からぬ。

 ただ、幸か不幸か若干のカーブはあるものの直線なのだ。


 脇道もないそこをひたすら走った。

「同じところを、ずっと、走ってませんか!?」

 強靭な体力を持つミズホがゼェハァ、ゼェハァ荒い息をつきながら問いかける。

「ここは、すり鉢、みたいな、なんか、そんな感じに」

 当然、体力は一般ピーポーであるユーマの方が無い。

 ぜーぜー言いながらも応えかけるが、死にそうだった。


 元々は海水で満たされていて、魚介類が住民だった。

 人間が構内を走り回る事を考慮されていないため、はるか上方、手の届かないような位置に横道がついている。

 そこが、彼らの通路なのだ。


「底まで、行けば、いいんです、ね!?」

「たぶん」

 白昼夢だったのかは分からないが、マグロになった夢のような中で都市の底に重要区画みたいなものがあったはずだ。

 辿り着けば何かあるのか、というと分からないが、何かヒントはあるに違いない。


 その時である。

 正面の通路上に人影もとい怪物の影が見えたのは。

 今度は、人型のムキムキマッチョでも頭部が魚体のヤツではない。

「敵です!」

 急制動を掛けてミズホが止まる。

 ユーマは盛大に滑り、後頭部をしたたかにぶつけた。

 目から火花が飛び散る錯覚に陥るが、絶叫なんてしたら怪物が走ってくるかもしれない。

「~~~っ!!」

 声にならない悲鳴をあげ、のたうち回った。


 一方、ミズホは薙刀を構えようとして、手元に何もないことに気付く。

「あ、あれ?!」

 元々もってきてたっけ???

 そもそも水着姿であった。

 丸腰のミズホの額に冷や汗が浮かぶ。

「徒手空拳、得意じゃないんだけど・・・・・・」

 コスプレみたいな巫女だが、巫女である。

 格闘家でもない彼女はごちた。

 できれば、気付かないでどっか行ってほしい―――。



「んぅ! むぅうぅっ!! んんっ!!」

 後頭部が割れて死ぬかと思った。

 だが、人間の頭部は意外と頑丈であった。

 ようやく痛みがマシになったところで、顔をあげたユーマの視界にとんでもないものが飛び込んでくる。


 地球比百億倍、は言いすぎだが、大の大人の三倍はありそうな巨大なイソギンチャクだ。

 無数の触手をくねらせたそいつがミズホを捕らえ、四肢を拘束し、言葉で言い表したらダメな感じに責め立てていた。

「んんんっ! むぅううっ!! んんんーーーーっ!!」

 うめき声なのか何なのか。

 スケベな感じの声が絞り出される彼女の口には触手がずっぽりとおさまっている。


「わ、わぁ・・・・・・」

 ユーマの頭上で繰り広げられる卑猥な光景。

 イソギンチャクの触手から滲み出す粘液がすこぶるエロい。

 必死にもがいて、拘束を振りほどこうとするもどんどん巻き取られていく。

 こういう時、かっこよく助けるべきであろう。


 しかし、むっつりスケベのユーマは劣情に駆られていた。

 いわゆる、“もう少し様子を見ていよう”というヤツである。

(決して、エロい目で見ているわけではない!)

 心の中で言い訳をする。

(これは、そう。敵の弱点を探るための)


 巨大イソギンチャクの本体から触手が生えている。

 うん、ここまではでかいだけで普通だ。

 だが、その本体を支えるパーツ、つまり足に当たる部分だ。

(なんでダックスフントの足なんだ!?)

 四本の短くて、力強い短足が本体を支えている。

 薄茶色の毛並みは、粘液でべちょべちょである。


 そして、うっすら透けて見えるイソギンチャクボディの中に取り込まれているのはマウスだった。

 こちらも触手でエビぞりみたいな恰好をさせられているのである。

(どうしたらいいんだ!)


 刃物でぶすりとやれば良さそうだが、そんなものは無い。

「掻っ捌けば、すべて解決するの」

 刹那、上方の空間がねじれると、そこから巫女服というか陰陽師服というか、きちんとした装束に身を包んだロリが現出する。


 置き去りになったはずのチヒロだった。

「ユーマ、へんたい」

 ジト目の彼女が、さらにジトっとした視線を投げた。

「ちょ、違!」

 別にスケベな目で、いや、見てたか。

 ユーマは途中で口をつぐむ。

 チヒロが、腰を低く落とすと腰の刀に手を伸ばす。

「神の御前なの。滅殺」

 そして、白刃がきらめくと触手が切り飛ばされた。

 そのまま返す手で二度三度、白光がきらめく。


「おわり」

 パチンと鞘に刀を戻す音が聞こえると同時に、イソギンチャクが木端微塵にはじけ飛んだ。


 そう文字通り、ゲームの演出のような感じで。

「きゃ!」

「ぐえーっ!」

 直後、粘液まみれになったミズホは、ユーマの上に落下し、ユーマは再び後頭部に打撃を受けるのだった。


ケンゼンダヨ

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