HENTAIと歩く水中遺跡生活
「はっ! そうでした! 助けてください。仲間が捕まってしまったんです!!」
「い、いったい何に・・・・・・」
頭部がマグロのそれとはいえ、ムキムキマッチョのHENTAIである。
これを捕まえる者など想像したくない。
「サメです」
そんなユーマに突き付けられた一言。
サメ。
つまり洋画などで様々な形で登場する海洋系モンスター『Shark』。
サメである。
パニック映画などで筋肉ムキムキのおっさんキャラでもサメに齧られ、一撃で退場することもままある。
「なるほど」
ユーマは深くうなずいた。
海中に没した遺跡的なところにいるのだからサメがいてもおかしくない。
「それは普通のサメか?」
「ええ、普通のサメです」
質問が悪かったことに後で気付くことになる。
しかし、今現在、ユーマが思いついたサメは魚類のサメである。
異世界だからB級映画よろしく空を飛んだり、地上を走ったりするかもしれない。
しかし、サメはサメである。
「勝てる気がするぞ」
根拠はないが、確か魚類相手なら何とかなる気がした。
いま絶賛気絶中の巫女と遁走中の幼女ドラゴンなら。
「おお! 心強いです! ではさっそく」
「いや、なんで助けることになっているんだ?!」
「え!? 助けてくれるんじゃないんですか???」
マグロのまん丸の目がトゥルンと光る。
どう見てもムキムキマッチョの方が強そうである。
全裸である点以外は、一般ピーポーなユーマよりも。
それに、
「そもそも拉致された仲間を探しに来たのに別件にかまっている暇は・・・・・・」
そう言いかけて、ふと考える。
ウリウリたちを攫っていったのは、確かサメである。
隣を歩くマグロの怪物みたいな人間のボディがついたHENTAIだったが。
この全裸マグロに協力するといって、仲間の救出に利用できないだろうか?
ユーマは狡猾な男であった。
「もう一度確認するんだけど、本当に普通のサメか? あんたみたいな体がついてたりしないよな?」
もちろん体とは、ムキムキマッチョの人間ボディのことである。
「ええ。普通のサメですよ」
「自分より背丈はありますが、筋肉とかはほぼ同じでs」
「断る!!!!!」
マグロが言い終わるか終わらないかのタイミングで叫んだ。
思っていたサメと違う。
怪物なサメの方であった。
「モンスターはモンスター同士で何とかしてくれ!! 一般人には荷が重い!!」
浜辺では、ヤケクソで何とかしたが、同じ手が通じるとは思えない。
むしろ乗り込んできてなんだけど、奴らのホームで勝てる見込みが薄い。
「そうですか・・・・・・」
ムキムキマッチョの肩が落ちた。
心なしか艶々した目から光が失われた気がする。
「でも、お連れのお嬢さん・・・・・・彼らの巣窟の方に走り去りましたよ?」
お連れの?
ユーマは背中で気絶しているミズホに視線を向けたあと、後ろを振り返る。
そうだ。
マウスが絶叫して走り去ったんだった。
「いまなんて?」
「小柄なお嬢さん、走っていきましたよね」
「ああ。そう、だったな」
来た方向を引き返していった気もするが、通路がいくつか分かれてはいた。
どうやらうち一つは、モンスターハウスもといHENTAIの巣窟らしいのだ。
「彼らは彼女のような幼子でも容赦しないでしょうね」
不安を煽ってくるマグロ。
まん丸のお目目が迫る。
「わかります。分かりますよ。きっと彼女は強いから大丈夫。そう思ってますよね? でもね、無尽蔵に産み出されるサメの大群にやがて飲み込まれてしまいますよ。さあ、どうしますか? 彼女のあられもない姿を拝むことになりかねないです。さあ、運命をその手で変えてみませんか。大丈夫です。そうならないように」
「うがああああッ!!!」
マグロの精神攻撃に耐えかねたユーマが叫んだ。
なんだこいつ、邪悪すぎるだろ。
ユーマは、熱気を放つボディもともかく股間のキュウリが、いつの間にか大根になっていることにも恐怖した。
「分かった。そっちの仲間を助ける。代わりにこっちも手伝ってくれるか?」
うまい事乗せられた気がする。
「ええ。分かりました! さすがです! やっぱり人間は親切ですね!」
―――。
「カニです」
「どこらへんが?」
曲がり角の先に佇むのは、足の生えたエビだった。
いや、エビに足は生えていて当然だが、人間の足に置き換わっているのである。
「あれはカニの魔人“ササミ”です」
「誰だ、あれを産み出した馬鹿野郎は」
身の丈2mほどの多脚のエビの触角がグルグル回っている。
どう見てもカニではないし、ササミでもない。
「我らが主神です」
「その神さまを殴りたい」
生命への冒涜などと高尚なことは言わないが、せめてどうにか出来たであろう。
何が悲しくて、海洋生物に人間のパーツをくっつけてのか。
狂気の域だ。
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