魚人あらわる!!
「はあー・・・・・・」
上の空とはこういう事か。
ユーマは柔らかな感触を思い出していた。
なるほど。
救命行為とはすばらしいものだな。
ユーマの認識が捻じ曲がる。
「これ、ぬしよ! そのまま進むと壁にぶつかるのじゃ」
「ああ、うん」
方向転換。
そのままフラフラと歩み続ける。
「どうしたのじゃ。酸欠でアホになってしまったのかや?」
「ああ、うん?」
なるほど。このフワフワした感じは、酸欠なのか。
人工呼吸をして貰っても酸素が足りないのか、ほへー。
イケない妄想に囚われたユーマは思考力が著しく低下していた。
「すー・・・・・・、はー・・・・・・」
その横でミズホが深く息を吸ったり吐いたりしている。
心乱す煩悩と戦っていた。
「あれは、救命行為。救命行為。ふしだらなことはしてません。ふしだらなことは―――」
どこぞのHENTAIシスターと違い、貞操観念がしっかりしている分、キスだとか口吸いだとか茶化されれば気になって仕方なくなる。
それがミズホという少女であった。
戦闘時には、イノシシ武者のようになってしまうが、繊細な乙女である。
呪文のように「救命行為」と唱え続けるくらいには。
「・・・・・・良かった・・・・・・」
虚ろな目でユーマが呟いた。
視線の先に半魚人みたいなレリーフがあるが、視界には入っていない。
「そ! そうですね!! 良かったです!! 生き返って!!」
びくりと反応したミズホが声を張り上げる。
薄暗く、どこまでも深淵に続くような廊下に反響した。
そうか、死んでいたからマグロに転生したのか。
「ふーん?」
ニヤニヤするマウス。
最近、ウリウリの部屋で薄い本を借りて読む幼女は、色々なものがねじ曲がってきていた。
「そう、これは人助けです!! お兄様も人助けは十徳に入ると―――」
聞いてもいないのに喋り続けるミズホ。
恐らく古き良き日本みたいなところ出身の彼女だ。
道徳とか信心深さとか、そういう方面にしっかりしているのだろう。
「そもそも、人を助ける事とはすなわち―――」
勝手にひとり語り続ける。
目を閉じ、指を立て、手を右に左に動かし、ジェスチャーを交える。
そのまま、足早に突き進み、進路上に立つ人影に気付かず接触。
「あっ、すみません」
我に返ったミズホは、流れるような動きで謝罪。
深々と頭を下げるあたり、育ちが良いのだろう。
「あの、自分も助けてもらっていいですか?」
聞きなれない声。
ハッと顔を上げかけながら目を開いた彼女の視界に飛び込んできたもの。
それは、そそり立つ立派なキュウリ(意味深)であった。
「!!!」
ハッと顔を上げ、相手を見やる。
そこには全裸の男。
「!!!!!!」
ミズホの口から魂が抜けていく。
マウスが恐怖に凍り付く。
上の空だったユーマは反応が遅れる。
「あれ? 聞こえなかったかな?」
全裸で頭部はマグロのそいつが、真ん丸の目を見開く。
股間のキュウリと共にそいつが、一歩前に踏み込んだ。
「―――!!」
ミズホが声にならない悲鳴をあげ、後ろ向けに倒れ込む。
周りの異常に気付いたユーマ。
ハッと我に返ると正面のそれを視界に捉える。
「すみません!! そこの方! 助けてください!!」
マグロが二本足で立っていた。
正しくはマグロの頭部が天を仰ぎ、その下に筋肉ムキムキの全裸ボディがついていたのである。
股間にはそそり立つキュウリ。
目を覆いたくなるような光景。
黒ずんで、べちょべちょした石畳には気絶したミズホ。
「怪物じゃあーーーーーーーーーーーーあああッ!!!!!」
マウスがその場で飛び上がると、一目散に来た道を走り去る。
「ああっ!! なんで逃げるんですか!?」
そそり立つ股間のキュウリが迫る。
「ま、待った!! まずは話をしよう!! 一旦止まってくれ!! 圧がスゴイ!!」
「え、あ、はい。ええと、すみません! 助けてください!!」
筋肉質なボディから漂う熱を感じる。
目と鼻の先に立派なキュウリがあった。
「そのままで」
真後ろに倒れて、白目をむいているミズホを引きずり数歩後ずさる。
「なんで下がるんですか?」
マグロが大きく一歩踏み出す。
「いや、なんで近づいてくんの」
圧がスゴイから下がったのに距離を詰められるという不具合。
「いえ、それは・・・・・・。それより助けてください!」
「こっちが助けて欲しい」
「え」
マグロの新鮮な丸い目が、さらに丸くなる。
「全裸のHENTAIに迫られて困っている。こっちくんな」
言わねばならないこともある。
ユーマは割と毒舌であった。
何が悲しくて全裸の魚人に距離を詰められねばならんのか。
「あ。これは失礼」
マグロが自身の体を見下ろし、気絶しているミズホに視線を移す。
そして、そそり立つキュウリを見たあと謝りながら数歩後ずさった。
「他人の趣味をどうとは言わんが、初対面の相手にその、なんだ・・・・・・剥き出しとかどうかと思うぞ」
「ち〇ぽですね! あ、こりゃ失礼!!」
あえて言葉を濁したユーマに対して、閃いたような真ん丸の目で禁句を口走る。
魚人にデリカシーは無かった。
「ええい、ままならぬ!!」
「いやー面目ありません! パンツ? というものには縁がありませんでして。人間はパンツを被るんですよね」
「被らねえよ。HENTAIかよ」
一難去ってまた一難。
今度はガチめのHENTAIであった。
ノベルピアさんで同じタイトル、内容別物を書いていると「あれ? なろう版ってどこまで進んだっけ?」とか「あのキャラクター……あ、なろう版には出てないぞ」とかセルフ混乱してしまいますな…