寝ても覚めてもマグロな件(改稿)
「むう」
こぽこぽと口からバブルリングが出ては、海面に向かって上っていった。
先日、マグロになってしまったユーマは、夜、静かに眠りについた。
目が覚めたら人間になっていることを祈りながら。
「マグロのままだ」
小魚たちがショッピングモールと呼ぶ姿見のある建物前で唸る。
姿見にトゥルンとした、まあるい目玉のついた魚が映っている。
ユーマもといUMAである。
「いつになったら戻るんだ・・・・・・」
夏の休暇ということで海に来たユーマたち。
どんちゃん騒ぎの翌日、全裸のムキムキマッチョボディを持つサメたちに仲間を誘拐された。
うん。記憶が今日はクリアだ。
追い掛けた先には座礁?した古代の遺跡みたいな何か。
走るトロッコ、超エキサイティング!!
「ええと、それから?」
それから・・・・・・そうそう、頭上を見上げて思い出す。
レールが途中で切れていたのだ。
I can fry、空も飛べるはず。
滑空したトロッコは湖底にある汚水吸引塔の近くに墜落したのだ。
「とはいえ、今が過去なのか誰かが見ている夢なのかサッパリ分からないが」
なんせトロッコが爆走したレールも無ければ、レールがあった場所は水中なのだから。
それにキラキラ眩いばかりにウロコを翻して泳ぎ回る魚たちも、あの時はいなかった。
「いとおかし」
実に奇怪である。
ユーマの前世はマグロだったのであろうか。
あるいは、マグロがユーマを呼んだのであろうか。
「難しい」
「なにが?」
届かぬヒレで必死に腕組みをしようともがきながら唸る。
そんなマグロを見つめる人影もとい魚影。
「なんというか(現在の)在りようについて?」
昨日の相方マグロだとばっかり思い、振り向かずに答える。
「ふーん、哲学的魚心ってヤツだね?」
「なにそれ?」
魚の心と書いて、魚心という。
という事であろうか。
そこで、初めて振り返ったユーマは恐怖で心臓が止まりかけた。
「サ! サメだ!!!!!」
「ああ、うん? サメだね?」
体長5mほどのサメが不思議そうに小首を傾げていた。
まごう事なきサメではあるが、手足が生えていないノーマルサメだ。
「それよりこんなところで見惚れてていいのかい?」
やたらフレンドリーな感じのサメの鋭利な歯が顔の横で上下する。
喰われる・・・・・・!?
ユーマ(マグロ)の第六感が警鐘を鳴らした。
フレンドリーなフリをして、油断したら頭からボリボリやられてしまうのだ。
「いいわけ、ないね・・・・・・! そ、掃除に、い、行かなきゃぁ~・・・・・・」
もしかすると友人かもしれないが、マグロの友達事情なんて知ったところでは無い。
ユーマは、小首を傾げ続けるサメを置き去りに、昨日の神の座に向かう事にした。
いくら何でも仲間同士で殺し合い、というよりは頭から丸かじりを神が容認しないであろう。
別に掃除当番かどうかは知らないし、違うかもしれない。
だが、脅威から離れたくなる気持ちは理解して頂きたい。サメに。
「今日は相方はやすみかー」
わざとらしくボヤキ、昨日の道順を辿る。
チラッ。
こういう時、マグロアイは便利だ。
顔の横についているから振り返らずに背後を確認できる。
サメの姿は無し。
どうやら付いてくることは無いようだ。
「念には念を」
疑り深いユーマは角を曲がると細道に入る。
積み上げられた建築物と建築物の間。
魚で無ければ、水が満たされていなければ辿り着けない中空の場所。
「追跡無し」
そっと顔を出し、両通路を確認。
なんだったのだろう。
やっぱり友人的なサメだったのだろうか。
とりあえず鉄火丼になることは無かった。
さて、どうしたものか。
掃除しなきゃーと言ったが、掃除当番かどうか分からない。
むしろ道を間違えたようで、現在地が分からない。
迷子ならぬ迷マグロである。
「しかもかなり暗い」
主要な通路や区画は、外から取り入れた光を反射したりして、隅々まで照らし出されている。
一方、狭隘路(魚基準なのでかなり狭い)に至ってはほぼ暗黒の世界であった。
「そしてくさい」
水中で鼻が利くのか、とか魚に嗅覚があるのか? とか聞かれても分からない。
ただ【くさい】と認識したのだ。
何と言うかナマモノが腐ったニオイ。
ふと脳裏に浮かぶのは、死んだ魚はどこにいくのかだった。
海なら微生物とかが分解するのだろう。
だが、ここは水中都市てきなヤツだ。
興味に駆られ、深く深く潜ってゆく。
「マグロの体も悪くないな」
顔がなんとも言えないけれど、水中を自由自在に泳げるのだ。
プールの中を自由に泳ぐ感覚に似ている。
しかもゴーグルが必要ない。
マグロボディの楽しさに目覚める頃、水底に辿り着いた。
赤々と光る床というよりも剥き出しの鉱石の山、鉱脈というべきか。
その赤々とした鉱脈が脈打つ。
まるで心臓の鼓動のように。
見たことがある。
マグロの記憶では無く、ユーマが最近見たものだ。
「サメの怪物の中身?」
手足の生えたサメ。
アレが爆散した時に溢れ、こぼれ落ちた赤い石だった。
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