【番外編】スライムンの呪い(一部センシティブな表現があります。R15)
「ダルダルなのじゃ・・・・・・」
「めんどくさい。何もかもがめんどくさい・・・・・・」
ザアザアと雨が降り注ぐのを横目に見ながら七味のダメになるクッションでマウスがだらける。
その横には虚ろな瞳のユーマが無造作に転がっている。
木の床のぬくもりを感じるが錯覚だ。
「なんというかアレじゃ」
ボンヤリ窓の外に広がる灰色の空を見つめ、ぼそぼそとつぶやく。
「「動きたくない」」
バラバラと降り注ぐ雨。
どうしてこうもやる気が出ないのか。
2人の声が重なり合う。
「ユーマ殿! マウス殿!? 如何された!?」
部屋の主、ゴブリン族の闘士 七味はドアを開けるや否や惨状を目の当たりにし叫ぶ。
それもそうか。こんな姿、初めて見るもんな。とユーマは目線だけ七味に向ける。
「いやぁ雨の日ってやる気が出ないよね・・・・・・」
「やる気が出ないとスライムみたいになるとは面妖な!!」
七味が異常に焦っている。
まあ、それもそうか。
だらけるユーマとマウスの体が液体もしくはスライムのようになっているのだ。
「あー、そうじゃなー・・・・・・たぶん、何かに呪いを掛けられたんじゃろうなー・・・・・・」
寒色系のマウススライムがプルプル揺れる。
まるでメロンソーダゼリーのような見た目だ。
「呪い!? ウリウリ殿をお呼びしましょう!?」
ドタバタ派手な足音を立てながら七味が廊下を駆け抜けていった。
「あらあら・・・・・・スライムンの呪いですね」
ものの数分後、ハイネックの縦セーターに深いスリットの入ったロングスカート姿のウリウリがやって来た。
選べるギフトカタログで手に入れた衣装だ。
最近はクエストに出掛けたりするとき以外は教会の法衣を着なくなり、ただの美人のお姉さんと化している。
初夏とは言え、屋敷の中は割と風通りも良く、涼しいのだ。
ヒラヒラの青い法衣は薄手らしく中にタイツを着ててもそれなりに寒いらしい。
「スライムン!? なんですかな、その美味しそうな響きのものは!?」
「スラームの泉に生息するという無色透明のスライムのことですよ。おしっこを掛けたりすると呪ってくるんですけど・・・・・・」
ちらりと横目でユーマとマウスを見つめる。
「あー、ユーマと連れションしたときにいたあやつが、スライムンってやつだったのじゃなー。なるほどのう」
マウスがやや誤解を招きそうなことを口走る。
幼女といえど女の子である。
いい年こいたユーマ(青年)と幼女が連れションと聞いたら・・・・・・
「え! そんなエッ・・・・・・!」
ほら、ダメシスターの頭が壊れてしまった。
顔を真っ赤にして、口元を押さえた手が期待にわなわな震えている。
知っている。
怒りとかそういう俗っぽい理由では無いことくらい。
「いや、なんじゃ。こう、ムラムラっと来てのう。外で足場も悪かったゆえにな。ユーマに後ろから(抱えてもらって)の」
「や、野外で後ろから!!?」
いけない。
レーティングにひっかる。
「いや、違う。あのままだと(漏らして)ベショベショになりそうだったから仕方なく、だ」
「ベショベショに!? そ、そんなに・・・・・・!?」
目がギラギラ輝きを増した気がする。
「ん? 梅雨時だし、外だし、なにより汚れるだろ?」
「ほ、ほわああ・・・・・・。し、七味さん・・・・・・わたし・・・・・・わたくし・・・・・・」
「ど、どうなされたウリウリ殿!?」
ヘニャヘニャと腰が抜けたように床にペッタン座りをするウリウリの顔が赤い。
なんだったら湯気が出ているようにも見える。
「す、少し、立ち眩みが・・・・・・。すみません、状況を聞いて欲しいです・・・・・・」
暑い吐息を吐きながらウリウリが七味にしなだれかかる。
ムキムキの胸筋の上をシスターの細指がツゥーっと線を描く。
「う、ウリウリどの・・・・・・」
七味が生暖かい視線を送る。
シスターの頬が紅潮し、暑い吐息が断続的に漏れる。
重傷であった。
―――。
――――――。
「風邪ですね」
60過ぎくらいのお医者がズバリと言い放った。
「風邪」
うふふふ、と不気味な笑いを浮かべながら真っ赤な顔で喘いでいるウリウリ。
ときどき、「ユーマ様・・・・・・そんな後ろからなんて・・・・・・」だとか「マウスちゃん・・・・・・大胆・・・・・・」だとか口走っていて不気味である。
全身汗だくで目玉焼きでも焼けそうなおでこ。
熱い吐息にあえぐ様は、何故か煽情的。
「体を冷やしたまま長い時間過ごしたとか極度の薄着であったとか、不摂生な生活をしていたとか心当たりは?」
おじちゃん医者のメガネがキラリと光る。
うんうん、心当たりしかないなぁとユーマは回想する。
スライム退治で湖に行ったら足を踏み外したウリウリがドボンした。
全身びしょびしょのまま一日中過ごしたのだ。
おまけにスライムに取り込まれてベトベトにされるおまけ付きである。
「気持ちッイイですぅ♡♡♡」とか何か口走っていた気がするが、尿意に襲われてそれどころでは無かった。
まあ、マウスが尿意に襲われたわけだが。
ついでに最近蒸れるから、とかいう理由で素肌の上に法衣を着るという奇行に走っているウリウリさんである。
肌に擦れて気持ちいいらしい。
なにが?
「ありすぎますね」
「いけませんね。お薬の処方箋出しますので、最寄りの薬師に配合してもらってください」
「ありがとうございます。ところで・・・・・・」
「普通の風邪ですよ」
何かを察した医者が言葉を遮った。
ユーマは渋い顔をしていた。
そういう事では無く、感染るのか聞きたかったのだが。
あとはスライムン病? に効く薬があるのかもだ。
「あ、あと、これは・・・・・・」
スライムボディをぷるんと揺らして尋ねる。
「スライムンの呪いですね」
うん、知ってる。
さっき聞いた。
「治療薬は無いです」
医者がくいっとメガネを上げる。
「な、なんじゃとおおおーーーーッ!?」
寒色系の軟体がプルプル揺れる。
「このままでは! 美少女すぎる我が!! ぷるぷるのプニカワマスコットになってしまうではないかぁーーーーーッ!!!」
「時が解決してくれますよ。たぶん」
医者が二ッと白い歯を見せて笑う。
「バカ者―――――――――ッ!!!!!」
「ぐほぁッ!!!!!!」
野生の猿もといドラゴン幼女に歯茎を見せる事は危険である。
彼ら彼女たちにとって敵対行動だからだ。などと注意する間も無く、マウスライムの音速を超える体当たりを受け、医者の体が吹っ飛ぶ。
ドーン!
医者の体は壁にドン、いわゆる壁ドンすると断末魔をあげ、そして死んだ。
「おい、死んだぞ」
ちゅるちゅると倒れ伏した医者の側に行くとユーマは叫んだ。
まさか自宅が殺人現場になろうとは夢にも思わない。
「なんと! 某、裏山に捨ててまいる!!」
血相を変えた七味は医者の両足を掴むと、裏口のドアを蹴飛ばし駆け抜けていった。
まさに神速。
疾風迅雷とはこのことか。
「悪は滅びたのじゃ」
寒色系のスライムがプルプル揺れていた。
たぶんドヤ顔をしているのであろう。
「なんてこった!! スライムンの呪いヤバすぎる!!!」
名もなき医者が尊い犠牲となってしまった。
スライム化したことでユーマの知能は著しく低下していた。
もはや、呪いなのかなんなのか分からない。
とりあえず医者は死んだ。
「という夢を見たんです」
ウリウリがうわ言を言っている。
全身から珠のような汗が吹き出し、衣服がお肌にピッタリ張り付く。
「のう。こやつスケベすぎぬか?」
同じくピッチリスク水を身にまとうマウスが首をかしげた。
プロポーションが良いせいでウリウリの方がスケベであることは否定できない。
「そして、私にもスライムンの魔の手が迫ります・・・・・・」
「だ、だめです! そんな、あっ♡」
知能の低下したマウスとユーマの軟体が手短な生体、そうウリウリの体にまとわりつく。
「ここから入れるのじゃ」
マウスライムが彼女の太ももをヌメヌメと這い上がる。
そして、その先にはお尻のあな―――、
「ぬしよ」
「某か」
「台所に行ってネギを取ってきてたもれ」
「心得た」
センシティブすぎるうわ言を呟くHENTAIを見下ろし、マウスが感情を失った声を出す。
応じた七味が、台所にすっ飛んでいくと一息つく前に帰還。
「お、おい・・・・・・そのネギをどうする気だ」
ユーマが戸惑いの声を上げると幼女が残忍な笑みを浮かべる。
「ユーマよ。いがくしょ、とやらにネギを尻にさすと良いとあったのじゃ」
スラリと抜き放たれたネギは、まるで新品の鋼の剣のようだ。
法衣をめくると桃のような尻が露出する。
シスターは本当にパンツを履いていなかった。
「迷信だ! よせぇぇぇ!!」
ユーマが止めるよりも早く、ネギがウリウリの尻に刺さる。
「んんんんッ!!!!! あ、ああぁーーーーーーッ!!!?」
臥せって、たわ言を呟いている口から黄色い悲鳴というか嬌声があふれ出した。
なんということでしょう。
少女のお尻はネギによって初めてを奪われてしまった。
「なんて酷いことを」
「グヒヒヒヒッ!!!」
高笑いする幼女とビクンビクンと痙攣するシスター。
―――高熱を出し、うなされるユーマは悪夢を見ていた。
その隣で、うなされるマウスとウリウリ。
「揃いも揃って、情けない」
「不摂生ですね。お薬は、一日二瓶。朝日が昇るころと日が沈むころ。お間違いなく」
医者が診断を終えると七味がポーションを受け取る。
【風邪用】と書かれたラベルが貼ってあった。
本編がマグロになっているので進捗がよろしく無く()