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目が覚めたらマグロになっていた件。つぶらな瞳がトゥルンとしてるんだけど

 ゆらゆらと海面が揺らぎ、大きな蓮の葉が波間で揺れる。

 はるかなる天穹からは眩しいほどの陽光が降り注ぐ。

 円柱状の水中都市。

 内部には幾層ものテーブル状の台地があり、石造りの家々が立ち並んでいた。

 そして深く深く、水底には神を祀る神殿があった。

「おい」

 色とりどりの魚たちが、縦横無尽に泳ぎ回る。

「おいって」

 ずっとずっと上の方、ガラス張りの向こう側には青空が広がり、白い雲が流れていく。

「今日はどこに行こうか」

「新しいお店が出来たらしいよ。見に行こうよ」

 キラキラとウロコを煌びやかせ、小魚たちが眼下を通り過ぎてゆく。

「もしかして寝てんの?」

 目の前で一尾の魚が不思議そうな顔をしている。

 そもそも魚の不思議そうな顔なんて判別できないはずだったが、不思議そうな顔、と認識できたのだ。

「え、いや、え?」

 ユーマは自分に話しかけているのだと理解するまで、やや時間を要した。

 だって魚が話しかけてきているのだから。

「おまえ、いっつも眠そうにしてんのな」

「そんなことは無いよ」

 今度は、ユーマでは無い意志が答える。

「ま、いっか。今日は神の座の掃除当番、忘れて無いだろうな?」

「忘れてないって」

 マグロっぽいフォルムの魚が横に並ぶとスイスイと泳いでいく。

 無意識の内にそのあとを追いかける。

 ユーマの意志とは関係なく、まるで映画のように場面が変わっていく。そんな感じだった。

「え」

 両脇に石造りの建物があり、地面はキレイに舗装されている。

 地上の町と同じようにいくつかの店舗が並び、店先に商品が展示されていた。

 その中の一角に美しい装飾で縁取られた姿見があり、たまたま自身の姿が映ったのだ。

「さ、さかなになってるぅー!?」

 姿見の中で皿のようなトゥルンとした目が見開かれている。

 ユーマはマグロになっていた。

「なに言ってんだ。おまえは前から魚だろうがよ」

「いや、人間! え? なんで???」

 記憶が確かならさっきまで仲間たちと海に来て、トロッコ・・・・・・

 トロッコ? なんだっけ?

「マギューン科魔マグロ。俺たちは魚。二つ足の人間になんてなれっこないだろ? だから我らが神様が陸地を沈めて海に変えてくださろうとしてるんだろ」

 相方?のマグロが答える。

 しかもしれっと物騒なことを言っている。

「足生えないかな」

 これはユーマの言葉ではない。

 マグロになってしまった、というよりマグロだった何かの記憶を追体験している。というのが正しいのであろう。

「足生やしてどうすんだよ。水中じゃ邪魔なだけだぜ?」

「陸に上がる! それでこう、人間みたいに飛んだり跳ねたりしてみたいんだ」

 通りを抜け、角を曲がり、下方向に続く縦穴を泳いでゆく。

 どうやらドーム状の円筒区画を中心として、町や都市機能が放射状に広がっているようだ。

 さながらUFOみたいな円盤状なのだろう。

「ふーん。面白いのかね、それって」

 相方の目がトゥルンと輝く。

「おもしろいんだよ。きっと。人間が飛んだり跳ねたりして笑っていたから楽しいんだと思うよ」

 そうなのだろうか、ユーマは首を捻るが、彼らにはそう見えたのかもしれない。

 長い長い巨大な廊下を抜けた先にドーム状の空間が現れる。

 町があった区画と違い、薄暗く、床や壁に使われている石材の随所が赤く光っていた。

 RPGとかで出てきそうな邪神の神殿的な感じである。

 その中心に巨大なタコらしからぬタコが鎮座していた。

 見上げるほどに大きく、腕は8本どころか無数にあり、目なんて8個ついている。

「我らが神よ。本日もご機嫌麗しゅう」

 相方が平伏する。

 とはいえ、ユーマには頭側を少し下げただけにしか見えなかったが。

「大義である。まだ時は満ちぬ。我らが青の世界はまだ来ぬ。今日も励め」

 ぐわんぐわんと音が、声がドーム内で反射する。

 さながらちょっとイイ値段の映画館にいるような感じだ。

「さ、掃除するぞ。円環のすき間は特に注意するんだぞ」

「わかってるよ。骨が詰まったら循環機関に支障が出るんだろ?」

 ミステリーサークル、とでも表現すればいいのだろうか。

 巨大タコを中央の台座に添えて、その周囲がゆっくりと回転していた。

 謎の文字なのか模様なのかが、イルミネーションのごとく点滅する。

「分かってたら結構」

「水流が止まって、息苦しくなったりするもんね」

 何かぐにゃぐにゃしたゴミを取り払う。

「水がよどんだら、俺たち生きていけないから重要だぞ」

「もっとも、都市外縁にある九柱が破損すると機能停止するけどな」

 相方が口で何かの骨をつまみ上げ、円環上から撤去した。

「柱はサメ達が守っているんだろ?」

「ああ。そうだとも。あいつら戦闘民族だからな。任せて安心さ」

 だから自分たちは、神の寝所兼都市の心臓部を掃除する。

 神が台座上で食事をし、ゴミを投げ捨てる。

 結果、円環を定期的に掃除しないといけない。

 なんとだらしない、など口が裂けても言えないけれど、なんせ神様だし。

「頭蓋骨が落ちてる」

 ユーマが追体験しているであろうマグロの視線の先に人骨らしきものが転がっている。

 霊長類っぽい頭の骨。

 よもやよもや人骨であろうか。

「昨日、生贄にされた人間のものだな。さすが我らが神。骨以外キレイに召し上がられる」

 タコみたいなナリをしているが、どっちかと言うと怪物もとい邪神である。

 人肉を貪り食ったっておかしくはない。

 無いけれど、追体験とは言えど気分がよろしくない。

「人間は地上にいるんだよね? なんで?」

 なんで海にいるのか、という意味だろう。

「あいつらは船に乗って海にやってくるんだ。それを捕えるのさ」

 ユーマの脳裏に浮かぶのは、伝聞なんかの挿絵のアレ。

 超巨大なタコとかが船を海中に引きずり込むヤツだ。

 が、どう見てもユーマ命名タコ魔神がご飯を求めて大海原に繰り出すところは想像できない。

 それほどのメタボだった。

「大きな声じゃ言えないけれど、サメたちに禁術を使って生体兵器に変えてるんだってよ」

 隙間に挟まったゴミをほじくり出す仕草をしながら囁く。

 いつの世もサメは改造される運命にあるのだろうか。


 ユーマの脳裏にムキムキマッチョの人間ボディがついたサメの姿がよぎる。

「すべては我らが神がことを成すために必要な事だよ」


 ―――波の間に間に


 ――――――遠く深く、我らの祖国よ


 ―――――――――いずれ至るは青の星


 我らが王エルドゥ・ア・ナッサム


 約束されし日に大海はすべての陸を青く染めよう


 我らが神の御手にて


 讃えよ


 讃えよ


 讃えよ

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