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走れトロッコ

「ああああああああッ!!」

 ビュゴ――――ッという風切る音。

 今にも脱線しそうなほど揺れる車内。

「行くのじゃーーーーーーーーーーーッ!!!!!」

 マウスが嬉々として叫ぶ。

「ああああああああああああァァァァァァァァアアァァアァアアアアアーーーーーーーーッ!!!!!」

 ユーマとミズホの叫び声が暗闇に響き渡る。

 一寸先はペシャンコになって、全身を強く打った(隠語)3人が宙を舞っていることだろう。

 最期のひと時を感じる間もなく壁に接触。


 バッキャアアアアアアッ!!!


 車体が大きく揺れ、壁をブチ破る音。

 腐食して脆くなっていた木の板と、ほんの少しだけ補強してあったであろうレンガ状の石くれが宙を舞う。

 一気に視界が開け、まばゆいばかりの光に3人の目はくらんだ。

 ブチ破った壁の残骸がクルクル宙を舞い、遥か数百メートルはありそうな底に落ちていった。

「きゃあああああああッ!!! なんですか!? 黄泉の国ですか!? 死んじゃいましたか!???!」

 ミズホが錯乱して悲鳴をあげている。

「にゃあああああああああああッーーーーーーーーーーーー!!!!???」

 マウスが奇声をあげている。

 その目はぐるぐる渦を巻いていた。

「・・・・・・」

 こういう時は焦ったら負け。

 負け? なにに負けるのか。

「・・・・・・」

 ユーマの理性の針は振り切れていた。

 恐慌状態を通り越して、逆に冷静さを取り戻している。

 いまだレール上を走り続けているトロッコ。

 数十メートル上にはドーム状の天井があり、真夏の太陽らしきものが輝いている。

 材質は分からないが、ガラスのような透明度の高い天蓋だ。

 そして、お向かいの壁まで数百メートルもしくは2㎞くらいあるだろうかという円柱状の空間。

 その中をレールが設置されているのだ。

「なんだここ」

 揺れも風切る音もユーマには届かない。

 ただ底がどうなっているか確認する度胸は無かった。

 恐怖を乗り越えたと言っても正気を保っているわけでは無い。

 思考が追いつかなくて、固まっている、というのが正しい。


「ギャわぁぁァァァァァアああああァァァァアァァァァァアあああぁぁァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!」

「アばばばっばばっばっばばばばばばばばばばばぁァァァァァアァァァァアアァァァァアああァァァァアーーーーーーーーッ!!!!!」

 ブレーキバーを失ったトロッコが爆走する。

 魔のヘアピンカーブで激しく火花が舞い散った。

 同乗者2名が絶叫しながらしがみ付いてくる。


「よどみなく静かなる水面は鏡のごとく、流れゆく清流のごとき思考に曇りなし」

「明鏡止水、清流の型―――」

 正気を失ったユーマは中二病全開であった。

 左手には折れたブレーキバー、右手はトロッコの淵を掴む。

 脅威の体幹。

 右に左にぶん回るかのごとく爆走するトロッコの中で仁王立ち。

「揺ぎ無き力、それは不動の構え―――」

 うっすらと目を開け、明々後日の方を見ているユーマは現実逃避中であった。

 ただ一点、絶叫しながら抱き着いてくるおっぱいとちっぱいの感触だけは、人一倍敏感であった。

 絶対、作業用のレールじゃないだろ、と思うようなヘアピンカーブの連続に激しいアップダウン。

「キャぁあああああああああああああああああああぁぁぁあぁぁァあぁぁーーーーーーーーーーーッッ!!!!!」

 ミズホのおっぱい。

「鎮まれ我が魔剣よ―――」

 鎮まらない心の高揚感。

「ひいいぃぃぃぃぃぃいいぃいぃぃいぃいいぃいいいいーーーーーーーーーーーーーッッ!!!!!」

 マウスののちっぱい。むしろ撫でまわしたいお腹。

「我が内なる魔竜よ。その魔爪を治め給え―――」

 荒ぶる内なる何かが、鎌首をもたげる。

 それに合わせるかのようにトロッコが激しく上下に揺れる。

 悪魔のアップテンポゾーンだ。

 色んなものが揺れたあと登りレールを爆走。


 徐々に底に向かって爆走しているが、あちこちに張り出すように設けられたテーブル状の大地。

 古い町並みらしきものが、植物らしき緑に埋もれていた。

 それを回避するためか、レールが急カーブしたり、アップダウン激しめに引かれているのである。


 一瞬、アップを登り切ったトロッコに謎の浮遊感が生まれる。

 無重力。

 まるであらゆる苦難から解き放たれるような、そんな錯覚を覚えるユーマの処理能力は限界に達していた。

「ぴやゥッ!!?」

 誰かが変な声を出した。

 ガタガタ揺れていたトロッコはレールという束縛から解き放たれる。


 脱線。


 むしろレールの先が無かった。


 宙を舞うトロッコ(想い)。

 届かぬレールに想いを馳せて、

 僕らは行くよ、自由な空へ。


 誰かの歌声が聞こえる。

 自由落下する中、口ずさんでいるのは自分だと気付いたユーマ。


 ズボォォォン!!


 ズボォォォォォォォン!!!


 間奏の代わりに巨大植物のハスの葉みたいなものをブチ破る。

 破れる音が気持ちイイ。


 快感に打ち震える。

「走り出した僕らの青春は止まらない」

「まだ見ぬ未来(明日)を掴むために」

「伸ばしたその手で掴めイェイイェイ」

「輝く未来、僕と君とで綴る未来(明日)」

 もう止まれない。

 止まらない。

 意味不明の歌詞を口ずさむ中、トロッコはぐんぐん底に近付いていく。

 もうすぐフィナーレだ。

「うぉううぉう!! イエーイイエイ!!」


 ガガンッッ!!!


 船着き場のような桟橋に落下したトロッコが木片を巻き上げながら滑っていく。

 迫る湖。


 ゴッ!!!!


「ぎゃう!!!」

「きゃああッ!!!」

 途中で何かに引っ掛かったトロッコが前のめりに吹っ飛ぶ。

「届かぬ想い―――ウェーーーーーーーーー・・・・・・」


 ドボーーーーーーーーンッ!!!


 ブレーキバーを掴んだまま、左の拳を突き上げたユーマの体が弾丸のように飛翔する。

 そして12mほど放物線を描きながら飛んだあと。


 着水。


 沈んでいく彼の手に握られたブレーキバーがサムズアップのようであった。

「目が、目がああ・・・・・・!!」

 もうもうと舞うホコリが目に入ったマウスが仰向けに倒れ、両目を押さえてのたうち回っていた。

 そのまま桟橋から湖にドボン。

 ぶくぶく泡を立てながら沈んで行き着底。

 透明度の高い湖底にユーマとマウスが沈んでいる。

「ユーマさぁん、マウスちゃぁん・・・・・・」

 目がぐるぐる回ったままのミズホの伸ばした手が空を切る。


 ぱたり


 そのまま力尽きた。

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