【番外編】そうだ、あいどるになろう
「がおがおアイドル大作戦!? これで行くの」
「え? なんて???」
ある日の昼下がり、チヒロが無い胸を張り宣言した。
「ユーマ、作品の人気を出すためにはどうしたらイイと思う?」
ロリ神がメタ発言。
確かにユーマの書いたものが、どこかで公開され、そこで手に入れた評価がゴッデスポイントなるものに変わっているのは事実だったが。
「そりゃ地道な宣伝活動だろ?」
営業は足で稼ぐ。父親が血走った目で現役時代に語っていた手法だ。
今も通ずるに違いない。
「ぶっぶー! もっといい方法があるの」
スッと指差す先には、黄緑色を基調としたノースリーブ和服に身を包むマウスの姿がある。
ドヤ顔で目を閉じ、腰に手を当てている姿は普段のスク水姿と一線を画す。
「アイドルなの」
「そうなのじゃ! あいどるマウスちゃん様爆誕なのじゃ!!」
カッと目を見開くと暴風が吹き荒れる。
変な能力に目覚めたらしい。
「どうした、食ったコンポタが腐っていたのか?」
「む!」
おいたわしやマウス、と言いかけたユーマのすねにチヒロの蹴りが入る。
悶絶。
「いいの? よく聞くなの! ふりふり付きミニスカートにノースリーブ和服! 腋は魅せるのが通なの! それでいてスカートの中は見られないようにスパッツ! 見えないのがエロスなの!!」
「ぞ、俗物・・・・・・」
チヒロの熱い語りは続く。
隣でマウスちゃん様がくねくねポーズを取り続ける。
ユーマは悩んだ。
ついにイカれてしまった2人にどう接しようかと。
「―――極めつけは、肉球手袋!! 肉球は萌えなの!!」
ドヤ顔で広げられたマウスの手袋の指は4本だった。
「ひとついいか?」
喋り続けるチヒロにユーマが尋ねる。
「どうしたの?」
「なんの動物?」
「はろうぃんも近いからオオカミなの! がおがおなの」
そうか、とユーマは深くうなずいた。
なぜアイドルなのかオオカミ手袋なのか、いまいち腑に落ちない点が多いが、ひとつだけハッキリしていることがあった。
「オオカミの前足は、指5本だ!!!」
「・・・・・・!!!!」
―――、
――――――。
「手直しして、指5本にしたの。これで覇権を取るの」
数日後、チヒロが夜なべして仕立て直したオオカミグローブをはめたマウスが躍っていた。
どうやら歌って踊るアイドルというコンセプトらしい。
ユーマは、どうしようか悩んでいた。
先日、夢枕に天啓があったのである。
寝ている間もずけずけと土足で踏み入ってくる俗物おねえさんことチグサ様からである。
しかし、放置しても仕方が無いのだ。
ユーマは意を決すと重たい口を開いた。
「盛り上がっているところ悪いんだが」
前置きをする。
「そのデザイン、被ってるからボツだって」
ぴたりと動きを止め、凝視する2人。
ふりふりミニスカートもノースリーブ和服もよくあるデザインである。
腋魅せも王道と言えば、王道であるし、ぱんつが見えないようにスパッツなのも最近じゃオーソドックスだ。
つまり、おおむね被る要素満載なのである。
「う」
チヒロが胸を押さえて何かつぶやいた。
「う? ど、どうした?」
見た目、幼女とは言えども自称神である。
ショック死とかはしないであろう。
「―――う、ウソだァァァァァア――――――ッ!!!!!」
親友だと思っていた相手に裏切られたどこかの誰かみたいな顔でチヒロが絶叫。
その場に膝から崩れ落ちた。
「なんて顔してやがる、チヒロぉ」
「だって、だって・・・・・・」
自称ロリ神がぐすんぐすん泣いていた。
よほどの自信作だったのであろう。
「おいたわしや、マイゴッデス・・・・・・」
こうして、がおがおアイドル大作戦!? の野望は潰えたのであった。
数日後、チヒロが見知らぬ誰かを拉致ってくるのは、また別の話である。