サメ怪人が攻めてきたぞッ!
爽やかな朝日が海面に反射し、キラキラと宝石のように輝く。
蒼い海、青い空、白い入道雲。
波打ち際を走るユーマの足元でパシャパシャ海水が弾ける。
「マテー――――ッ」
その後ろから駆けてくる影がふたつ。
まるで青春ドラマのような一コマだ、ったらどんなに平和であったろう。
「マテー―――ッ!!」
片手に銛みたいな槍を持ったサメの頭部に全裸のムキムキマッチョマンだ。
そのサメ怪人2体が追い掛けてきているのである。
怖い。
とりあえず何だか分からないが怖い絵面であった。
うふふふー、捕まえてごらんなさい―なんて煽る余裕は無い。
割と全力疾走であった。
波打ち際では無く、もう少し内陸部を走れば良い、と思わない事も無いけれどユーマは素足だった。
目覚めた時点で素足だったので、よく思い出せない昨晩に何かあったのだろう。
よって足元の安全が確認できる波打ち際を走っているのだ。
「トマレ――――ッ!!」
「エモノ―――――ッ!!」
どう見ても友好的ではない。
連れ去られた仲間たちを奪取せねばならない。
ならないが、今すぐどうこうできそうにはなかった。
ユーマが駈け出したときには、ぐったりとしたまま小脇に抱えられていたウリウリ、七味、ベルナルドが見て取れた。
他メンバーは未確認だが、連れ去られた可能性の方が高い。
「ぬおおおおお――――――ッ!!!」
ユーマは走った。
ロマンチックな浜辺を全力で。
徐々にサメ怪人との間がひらいていく。
口々に叫ぶサメ頭がやがて見えなくなるくらいに走った。
「面倒ごとの方から―――――ッ!!!」
やがて島を一周したユーマは、元の場所に戻ってくる。
「やってくるなァァァァ――――ッ!!!」
置き去りになった荷物とサメ怪人3体に囲まれているミズホの姿。
どうやら攫われる前に目覚めて抵抗している真っ最中のようである。
真っ二つに折れた木片片手に追い詰められてゆく。
「うがぁああああーーーーーッ!!!」
全力疾走の勢いのまま、怒りの飛び蹴り。
休暇に来たのに面倒ごとの方から追い掛けてくる理不尽に怒りが爆発した。
休日なのに「ちょっと人いないからシフト入って」とか言って、安息をぶち壊されたときを思い出す。
「Gyaaaaaaaaa―――――――ッ!!!」
風を切ってユーマの飛び蹴りがクリーンヒットする。
一体目の脇腹、というよりは感触的に腰骨を砕く一撃に断末魔がこだまする。
「Gyaaaaaaaaa―――――――ッ!!!!」
そのまま勢いあまり、隣のサメ怪人も巻き込まれ、断末魔が響く。
「ユーマさん!?」
急変した事態に驚くのは一瞬。
刹那、ミズホが振り下ろした木材の角がサメ頭の鼻の頭にクリーンヒット。
「――――――!!!」
声にならない悲鳴をあげ、仰向けに倒れたサメ怪人が爆散。
赤い宝石を撒き散らしながら文字通り「爆散」したのである。
「召喚生物?!」
「なんだって?」
ゴロゴロと浜辺に転がりだす赤い宝石みたいな何かを拾い上げ、ミズホが呟く。
「魔石を媒体にした召喚生物です」
飛び散った赤い魔石がボロボロと崩壊してゆく。
「サメの割に噛みつこうとせずに捕まえようとしてきました。背後に召喚士にあたる何者かがいるに違いありません!」
「召喚獣ってヤツか? だけど、なんのために?」
体の砂を払い落しながらミズホに尋ねる。
誰かの恨みを買った覚えは無いし、狙われる理由もよく分からない。
「分かりません。ただ、みんな連れ去られてしまいましたし・・・・・・ユーマさん! 助けに行きましょう!!」
壊れた木箱から巫女服をひっぱり出すが、キレイに上衣は裂けてしまっていた。
ミニハカマというよりミニスカートだけ無事であった。
「・・・・・・無いより、マシ・・・・・・ですね」
水着の上からミニスカートを穿いてもパレオにしか見えないし、それで何か変わるのか男のユーマには理解できなかった。
「よし! 武器がありませんから現地調達しましょう!!」
―――
――――――。
「みんなカマボコにしてやるの」
完全無傷で巫女服のチヒロがシュッシュッと拳を繰り出す。
「みなの弔い合戦なのじゃ!」
「まて。死んだ前提にすな」
ウリウリの法衣を適当に裂き(!!)、自分用に仕立てたマウスが復讐に燃える。
その両手には、昨晩見た気がする松明っぽい棍棒が握られていた。
「チヒロちゃんにマウスちゃんが無事でよかったですね!」
ミズホ以外、拉致されたと思っていたら内陸部の木々の合間で交戦していた2人を見つけたのであった。
サメ怪人は、幼女2人にボコボコにされ、カマボコにメガシンカを遂げてしまった。
もちろん爆散してしまったけれど。
「結局、他の面々は拉致されてしまったわけで」
「はい・・・・・・。恐らく、アレ、ですよね」
4人が見つめる先には、海上に現出した見るからに古代遺跡的なナニカ。
海底奇岩城が浮上してきたようなソレは、どう見ても異質なもの。
「まずは偵察といきましょう!」
引き潮も相まってか海上に出ている構造物は、海藻にまみれていた。
メキシコとかの遺跡にありそうなよく分からない壁画が少しだけ見て取れる。
「元は地上に合ったのか。はたまた元々、水没してたのか・・・・・・」
ユーマは遺跡のことはとんと分からぬ。
マウスとミズホが興味に駆られ、隙間から中を覗き込む。
陽の光に照らされて確認できる範囲は、黒々とした石畳、フジツボみたいな何かがビッシリこびりついた壁面一色である。
廊下的なもの、と言えば、その一言で理解できる。