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ぼくらの夏休み〜異世界より〜③

 月の光に照らし出される浜辺が白く輝く。

 静かに打ち寄せる波。

 静寂を引き裂く奇声。

「ギャギャギャ!! ギャギャァ!!!」

「ギャッギャッ!! ギャギャアア!!!」

 理性と知性を失った緑色の亜人たちが、右手に盃、左手にボウボウと燃え盛る松明を持ち舞い踊っていた。

 七味とその他ゴブリンである。

 半開きになった口元からドバドバ涎が溢れ、焦点の合わない目がぎゅんぎゅん蠢いている様は、不気味の一言に尽きる。

「・・・・・・なんてこった」

 ユーマは少し離れたところから覗き見ながら嘆いた。

 彼らの足元には、うつ伏せで大の字に倒れ伏すチヒロの無残な姿が見て取れた。

 水着の腰あたりから飛び出しているキツネの尻尾が、クシャクシャになっているし全身砂まみれ。

「・・・・・・こいつはヒドイ・・・・・・」

 視線を移せば、少し離れたところで折り重なるようになっているのは、ウリウリとミズホである。

 ピクリとも動かない2人。

 衣服、もとい水着がはだけて、大変けしからんことになっているので、迂闊に近づけなかった。

 荒ぶるゴブリンたちによって、狂乱の宴の肴になったわけではない。

 30分ほど前にクレソンたちが持ってきた「旨い飲み物」を景気良く開け、阿鼻叫喚の地獄が出来上がったのだ。

 ぶっ倒れている面々は暗黒盆踊りの脱落者たちの成れの果てだ。たぶん。


「なんてこった」

 ユーマの足元に転がる、枕大の樽。

 カッコいいワイバーンが描かれたラベル。

 ゴッデスポイントで得た翻訳能力によるとアルコール度数65%のドラゴンブレスとかいうお酒という事が判明した。

 ワイバーン柄なのにドラゴンとはこれ如何に?! などと思わない事も無い。

「うええーーーい!!」

 などと誰かが奇声をあげて、ズンドコ踊り出して、初めて気付いた。

 もはや手遅れであった。


「もっと早く気が付いていれば!!」

 ウリウリが獲ってきたイカみたいなヤツのかば焼きに夢中になっていた自分を悔やむ。

「これはダメじゃな」

 倒木の影からひょっこり顔を出したマウスが嘆息。

「うぼぉあーーーーッ!」

「ぐぼあぁーーーーッ!」

「ベルナルドォォォォッ!! クレソンんんッ!!」

 視線の先には、月の光に照らされて、マーライオンのようにキラキラ光るものを吐き続ける別の地獄があった。

「ダメだな・・・・・・」

 お酒慣れしてそうなおじさん達がゲロゲロするのである。

 旨いを通り越して、劇薬である。

「実にダメじゃ、んぐ! ゴクゴクゴクッ・・・・・!! ぷはぁ!! ・・・・・・病みつきになる」

 ゴクゴクと喉を鳴らす音に気付いたユーマが振り返る。

「うおおおい!!」

 あろうことか、カッコいいワイバーンのラベルのついた樽をラッパ飲みしているマウスの姿であった。

 未成年、では無いはずだが、ユーマが知りうる限り、酒に強いドラゴンなんて見た事も聞いたことも無い。

 かの伝説のヤマタノオロチですら、ぐでんぐでんになっている間に首を落とされたという。

 唯一、理性と知性を手放していなかった幼女を救出したというのに即堕ちである。

「ぐふふふ・・・・・・。なんじゃ、ゆーまよ・・・・・・。ほほう・・・・・・世界はまわっておるのじゃ」

「回っているのは首だ! 大丈夫じゃないだろ!!」

 右に左にマウスの首が揺れる。

 まるで起き上がりこぼし、もといメトロノーム状態。

「なんにょ事はにゃいのじゃ。わりぇとて、お子様ではにゃいのじゃにょ?」

 もはや呂律すら回らなくなったマウスが千鳥足で迫る。

 そして、自分の足に引っ掛かって転倒した。

「グワーッ!!」

 酒くさい吐息と共にマウスが倒れ込む。

「ぎゃー! 息クサッ!!」

 受け止めかけて、鼻先に吐息がかかり、思わず力を抜いたユーマの上にマウスが馬乗りになる形となる。

 完全なる交通事故。

 絵面的にもセンシティブ待った無し。

 誰かに見られようものなら犯罪的な光景である。

「おわーッ! どいてくれー!!」

 どこを持って押しのけよう?

 へそ出しビキニ姿の幼女は、極めて布面積が狭い。

 考える間も無く、幼女の怪しい笑みが迫る。

「にゃんにゃて? ほほう、ぬしもにょみちゃかっちゃのやら? どりゃどりゃ・・・・・・ふふふふ・・・・・・」

 グフフフと下品な笑いを浮かべた拍子に涎がドパドパ溢れ、ユーマの上半身を濡らしてゆく。

 完全に目の前の幼女はデキあがっていた。

 酔っ払いのそれである。

 片手に持った酒を豪快に煽ったあと、目が笑った。

 いや嗤った。

 ダメな感じのマウスが一思いに覆いかぶさる。

「ッ」

 実に0.5秒くらい。

 マウスのマウスが、ユーマのマウスにフタをする。

 柔らかくて、ほんのり温かい。

 次の瞬間、口移しで舌がビリビリ痺れるような液体が流れ込む。

 お酒ドラゴンブレスを強制的に呑まされたユーマの意識は深淵に沈んでいった。

 星空がぐるぐる回る。

 正しくはユーマの視界がぐるぐる回っているだけだった。

 枕大サイズの酒樽を持ったマウスが笑う姿がグニャァアと歪む。

「げえぇぇふっ!」

 マウスのげっぷ。






 ざざーん!


 ざーん。


 ザザ――ン。


 ザ―ン。


「・・・・・・」

 朝日が雲の隙間から降り注ぐ。

 天使たちの通り道、なんて言ったらロマンチストだろうか。

「なんだったっけ・・・・・・」

 記憶が無い。

 昨日、海に来て、泳いで食べて・・・・・・。

「なんで波打ち際で寝てるんだ」

 ひんやりとした波が足先を撫でていた。

 ゆっくりと起き上がり、周りを見渡しかけ、固まった。

「・・・・・・夢、か」

 サメの頭部、というべきだろうか。

 とりあえず、筋肉ムキムキマッチョマンのカラダに頭部だけがサメのHENTAIが浜辺を闊歩していた。

 しかも全裸で、右手には銛のような槍みたいな武器を持つ蛮族である。

「ひどいB級の夢だな・・・・・・」

 目をこすりながらほっぺをつねってみる。

 痛い。

「ゆ、夢じゃない・・・・・・!?」

 ハッと我に返る。

 夢じゃないとすると目の前でウリウリや七味たちを担いで波打ち際に去っていくのも現実であった。

「ひ、人さらいのヘンタイだ―――――ッ!!!」

 とりあえず大声を張り上げてみる。

 ビクリと反応したサメ怪人(仮)たち総勢9人の熱いまなざしが注がれる。

「あ、やべ」

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