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ぼくらの夏休み〜異世界より〜②

「いやあ福眼福眼」

「ふふふ・・・・・・どうですか。私のセンスは」

 白い浜辺に突き刺さったパラソルの下、ユーマの隣でアンソニーが鼻の下を伸ばし、ウリウリがニヤニヤしていた。

 視線の先には、おじさん達と海ではしゃぐ女子一同。

 健康的なおっさんたちの肌が眩しい。

 そして、女子たちも魅惑的であった。

「ウリウリちゃん、センスがいいねぇ」

 女子一同の水着はウリウリチョイスらしい。

 以前は土色だった顔は、今日はイキイキとした輝きを放っていた。

「もちろんです!」

 黒いビキニに麦わら帽子姿のウリウリがこぶしを握り込む。

 白い肌にアクセントが効いている。


 普段着やせするタイプであろうか。

 このHENTAIシスター、割とスケベボディであった。

 きめ細やかな白い肌にふわっとしたお胸に整った顔立ち。

 そんなヤツの口元から「ぐふふふ」などという異音がしているのである。


「中身おっさんとまんまオッサンでは無いか」

 ユーマは、下品に笑いあうHENJINどもを眺めてため息をついた。

「ユーマ様も心の魔獣を解き放っていいんですよ?」

「心の魔獣ってなんだ。そんなの飼ってないよ」

「えー、またまた」

 またまたとか言われてもユーマは紳士であった。

 へそ出しで布面積が小さいものを見せられても動揺しない鋼の心を持っていた。


 むしろツッコミどころは、男子たちの水着である。

 クレソンは黒光りするブーメランパンツだし、ベルナルドは赤のブーメランパンツ、アンソニーだけトランクスタイプの水着である。

 ちなみにユーマのはハーフパンツのようなスパッツ水着であった。

 ゴブリン2名もブーメランパンツ。

「チョイスした奴が2人いるな?」

「はい! ウリウリさんと2人で選びました!」

 独り言のつもりで呟いたらにゅっと脇から沸いてくるミズホ。

 なるほど、ブーメランパンツはウリウリで、それ以外はミズホであろう。

 趣向的に。

「理解」

「ウリウリさんの無難な選択と攻めのあたしチョイスどっちが良いですか?!」

 攻めのチョイスと言って指差す先にはブーメランパンツのおじさん達がいた。

 おまえだったのかミズホ。

「みんな違ってみんなイイ」

 とてつもなく優柔不断なセリフを吐くと熱々の砂浜に腰を下ろす。

 尻が燃える錯覚にとらわれる。

 水着は交易品として海の彼方から入ってくるのに、なぜサンダルに当たるものが無いのか。

「げせぬ」

 砂浜に立っているだけで足裏に熱という名のスリップダメージが入り続ける。

 他にも解せぬものがある。

 お隣のコスプレ巫女がさらにヒドイことになっていたのである。

「水着なのか着物だった何かなのか、はたまたコスプレなのか・・・・・・」

「水着ですよ!」

 ムンと拳を握るその姿は、白い競泳水着っぽい格好にハカマっぽい赤いミニスカート、用途不明な振り袖だけが腕に纏われている。

「その袖は一体何のために・・・・・・」

 ミニスカートは、「なんかそういうパーツ」として納得するとしても、丈50㎝ほどの袖に関しては理解不能である。

 海に入る時にただ邪魔なのでは無いだろうか。

「よくぞ聞いてくれました! いつ、いかなる時も襲撃に備えているんです! 薙刀を持ってきていませんので」

 ごそごそと袂を漁ると札が数枚出てくる。

 マンガとかで陰陽師が持っているアレな感じの札であった。

 どう見ても紙製である。

「それは濡れると破れるのでは?」

「はうぁ!!」

 どうにも詰めが甘い。

 すごすごと振袖を脱ぎ、木箱に仕舞うミズホ。


「いけーッ! マウスちゃん号、全速前進なのじゃー!!!」

「合点承知! お嬢ちゃんたち、吹き飛ばされんじゃねぇぞ!!」

 海ではバナナボートでは無い、みどり色のサヤエンドウみたいなものに跨るマウスとチヒロの姿があった。

『バルーンビーン』とかいう異世界特有な謎植物である。

 長さ80㎝ほどのそれは、成長過程において名前の通りぐんぐん膨らむ。

 さらには衝撃を受けると膨張し続け、限度を超えると爆裂し、種を撒き散らすそうである。


 吹き飛ばされる、とはそういう事だろう。

 何かの衝撃で、ボートというかバルーン代わりにしている物体が大爆発するのである。

「いつ爆発するかも分からないバルーンに乗るなど正気では無い・・・・・・」

「あー、あれか。爆発するとオモシロいんだよ」

 アンソニーが笑う。

 乗ってるバルーンボートが爆発して面白いと?


 存外、体のつくりが違うのかもしれない。主に耐久的な面で。

「おお、アレはビリビリクラゲ。触るとビリビリす・・・・・・いててててて!!」

「ベルナルドォォォォーーーーーッ!!!」

「なるほど、危険じゃな」

「生きる教材なの」

 バルーンをけん引して泳いでいたベルナルドが触雷。

 悶絶するのが見える。

 耐久面は普通だったようだ。


「さて! 私たちはお昼ご飯の用意をしましょう!」

 グフフフと下品な笑みを浮かべていたシスターが真顔になると木箱の中から巨大な網を取り出した。

 それを石で囲った簡易かまど?の上に置く。

「網? 何を焼くんだ?」

 アンソニーが期待に目を輝かせる。

「それはこれから獲るんですよ」

「待って。ウリウリ、現地調達なの?」

 何故かドヤ顔のウリウリ。

「ふふふ、ユーマ殿。海産物は鮮度が命。つまりは現地調達こそ真髄というもの!」

 波打ち際で遊んでいた七味が拾ったハマグリっぽい何かをかざしながら舞い戻る。

 ハマグリっぽい形はしているが、色は鮮やかな赤色である。

「毒々しい!」

「コレ美味イ。生デモ食エル」

 アイアンクローで貝をこじ開け、即消費するゴブリンその2。

 焼くって言ってんだ。ユーマは心の中でツッコんだ。

 口に出さなかったのは、生の貝に食らいつく絵面が怖かったからだ。

 七味たちにツッコむみたいにツッコんで噛みつかれない保証はない。


「アウスティリア正統中央教会では泳ぎに潜水も教練にありますから!!」

「任せてくださいッ!」

 麦わら帽子をパラソルの下に投げ、髪の毛をお団子状に結び直す。

 ウリウリが普段の10倍増しくらい美少女だ。

「とうッ!!」

 そのまま海に向かって走り出し、岩場から少し深そうなところに飛び込んでいった。

 まるでしなやかなフォームはイルカのようである。


「任せておこう」

 そっと海の中に狩りに行ったシスターを横目に波打ち際に近寄る。

 足元をさらさらと砂が流れ、ひんやりとした海水が心地良い。

 日本の海では無く、太平洋のナンチャラ諸島とかのような透き通った水面。

「海なんていつ振りだろう?」

 独り言だ。

 本当にいつ振りだろうか。

 いつぞに異世界の南の島に飛ばされた一件は置いておいて。

「泳ぐか! それとも獲るか!?」

 イキイキとしたアンソニーが横に立つ。

「遊びましょう!!」

 ユーマを挟んで反対側にミズホが仁王立ち。

「そうだな。遊ぼう。何でもいいし」

 とりあえず海に来たのだ。

 泳いでおいて損は無い。

 何だったらプカプカ浮かぶだけでも楽しいかもしれない。

 キラキラと光る海、白い砂浜、透明度が高く六芒星型の貝が埋もれている。

 爽やかな風が吹き抜ける中、ひんやりとした水が熱した体を冷やしてゆく。

「夏かぁ」

 青い空に白い入道雲が立ち昇っていた。

「夏ですね」

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