ぼくらの夏休み〜異世界より〜①
「うーーーーーーーーーーーみーーーーーーーーーーーーーぃーーーーーーーーーーーーじゃぁァぁああァァァァぁぁァアアアァ----------------------------------ッ!!!!!!」
「じゃーーーーーーーーーーーーー・・・・・・」
「じゃーーーーーーーー・・・・・・」
「じゃーーーー・・・・・・」
白い砂浜にドラゴンの咆哮が轟く。
衝撃波が砂を巻き上げ、スコールに見舞われたかのようにザアザアとビーチに降り注いだ。
パラソルをかざすウリウリとミズホの周りには、7人の男女がひしめく。
「あああーーーーーッ!!!」
傘からはみ出したアンソニーが断末魔をあげる。
「お、おじさぁぁぁん!!」
ミズホの悲痛な叫び。
白い砂のカーテンの向こうに消えていくおじさん。
パラソル広しと言えど、ガタイのいいおじさん達は入りきらない。
一方、低身長なチヒロとサイボーグなゴブリンはみんなの間に挟まって無事であった。
「おチビちゃんうるさいなの」
「まあまあ」
チヒロが眉をひそめる。
「分かるぜぇ。初めて海に来た時は叫びたくなるもんだ」
クレソンが右半身砂まみれになりながら唸った。
そう、ご所望の海に来たのである。
しかも孤島である。
漁船がウロウロしてないし、河口から流れ込む何かもないし、他の誰かがいるわけでも無い独占できる海である。
テンションが上がるのも無理のない話である。
さかのぼること数時間前。
「朝ですよー」
「まだ、朝では・・・・・・な・・・・・・」
ユーマの体内時計が朝では無いと告げている。
「朝ですよー!」
「もう一杯・・・・・・」
どこかから声が聞こえる。
「うーん?」
「ぐぅ」
きっと夢なのだろう。
うん、まだ起きる時間では無い。
「・・・・・・せーの! ほわぁぁぁっちゃーーーーーッ!!!」
声の主は、むんずと掛け布団を掴み、一思いに引っぺがした。
「うう・・・・・・むむむ・・・・・・」
急にひんやりとした空気に晒されるが、この程度で起きるユーマでは無かった。
なぜか二度寝は至福なのである。
「ちょ!」
目を閉じたまま手を伸ばす。
記憶が確かなら近くに抱き枕が転がっているはずだった。
さらりとした手触り。
うんうん、これこれ。とばかりに引っ張ると少し重みがあった。
「ユーマさん」
目と鼻の先で声がする。
「ほわい」
適当な返事。
「朝です」
ミズホの声である。
「そうか」
またもや適当な返事。
「ちなみにそこはあたしの胸です」
「そうか。シルクのような・・・・・・ん?」
うっすらと目を開けると抱き枕の代わりにミズホをハグしていた。
「うん。夢か」
目の前に困った顔のミズホ。
まだ外が薄暗い中、眠い目をこすり擦り、ミズホに引きずられ裏庭に連れていかれる。
「なぜ裏庭」
さてはアクシデントで胸を撫でたことで永眠させられるのだろうか。
あまりにもヒドイ話である。
「ユーマさん、まだ寝ぼけているんですか?」
「いや、うん?」
寝ぼけてるかと言われれば、寝ぼけているかもしれない。
何故なら裏庭にドラゴンがウンコ座りしていたのである。
見間違いか。
「裏庭にドラゴンが!!!」
ばっちり目が覚めた。
見間違いでは無かった。
たまに野生の怪獣が裏庭に迷い込むことは数回あったが、見上げるほどのドラゴンが迷い込んだ例は無い。
「ウンコしようとしているッ!!!!」
ユーマには、迷い込んだドラゴンが露天風呂にウンコをしようとしているように見えたのである。
何としても阻止せねばならない。
「我は野グソなど垂れんのじゃ。失敬じゃな」
声が空から降り注ぐ。
「マウス!?」
「そこはトイレじゃない! 風呂だ!!」
「クソなどせんと言うとるではないか!!」
「ご近所迷惑ですよ」
木箱を抱き抱え運ぶシスターが口をとがらせる。
シスター服はどこへやらノースリーブのトップス姿というラフな格好であった。
「そうそう。ちゃっちゃと積み込んで、朝日が昇る前に出掛けんぞ」
続いてヒモで括られたパラソル2本を担ぐクレソン。
他の面々も箱に詰められた荷物をマウスの足元に並べてゆく。
「はて? なんだっけ?」
目は覚めたが、頭はローディング中だ。
「海に行くのですぞ!」
「海・・・・・・」
ああ、そうそう。海に行くんだった。
先日、女子だけで水着とかいろんなものを買いに行ったのだった。
男性陣の水着も女子一同が勝手にチョイスしたのである。
「海、楽シミダ」
「なぜゴブリンが増えているんだ・・・・・・」
片腕が白銀の輝きを放つゴブリンも荷物を運んでいた。
いや、記憶にないヤツでは無い。
数日前、マウスとチンパンバトル再戦のために押し掛けてきたヤツだ。
名前はまだ無い。
「これで全部かな」
アンソニーが積まれた箱をペシペシ叩きながらマウスを見上げる。
「ふむ。結構あるのじゃな」
ロープで数珠つなぎになった箱が8箱。
パラソルが2本だった。
それらを巨大な両手で抱えるように持つ。
「早う、乗るのじゃ」
「なんだって?」
「我が運んでやるのじゃ」
マンガやアニメでドラゴンに乗って空を駆ける、というシーンがある。
なんかとても楽しそうな絵面だが、一定速度以下の場合に限る。
そう、なんというかスポーツカー並みの速度とかですっ飛ばされた日には、文字通りすさまじい風当たりなのである。
景色を楽しむとか風と一体になる感覚を、なんて余裕は無い。無かった。
「うぼぼぼぼぼぼっーーーーーーーッ!!!」
ビュービュー吹き付ける風を顔に受けて唇がぶるんぶるん揺れた。
横を見やるとみんな吹き付ける風で変顔になっていた。
眼下をみどり色の草原がビュンビュン飛び去る。
アマゾン川もビックリサイズの川もビュンビュン飛び去っていく。
馬車なんか目じゃないくらい速いのだ。
いうなら客席剥き出しの飛行機である。
みんなマウスのウロコや背びれにしがみ付いていた。
「海! 海ー!」
軽快な声で謎のメロディにのせて口ずさむのはマウスしかいない。
彼女の視線の先には海が見えていた。
クトゥア島。
ロッテンハイマー沿いに流れるグヌッフ河が海に流れ出したその先にある孤島である。
白い砂浜と適度な自然、ダイビングポイントには古代遺跡となかなかレジャー向けの場所であるという。
名前以外は・・・・・・。
(半魚人とか出ないよな?)
出発前に聞いてみたけど、そんなのいないという事であった。
(本当か?)
期待と不安を胸に島に降り立つのであった。
「海の水は塩っからいという」
「ナルホド。魚、焼ケバ最初カラ塩味」
「いやいや、それは無い」