【外伝】帰ってきたゴブリンマン
ある日、ゴブリンがやってきた。
「オマエ、ト、ケッチャク、ツケニ キタ!」
「だ、誰じゃ!?」
玄関の呼び鈴が鳴り、ドアを開けると赤いボロマントを羽織ったゴブリンが立っていた。
男子が好きそうなダメージマントである。
スッと指を指した先には、エプロン姿のマウス。
手にしたおたまからジャガイモスープが床に垂れる。
おたまを持ったままウロウロしないでもらいたい。
「ギーヨンバレン!! ガッガッ!!」
赤マントのゴブリンが一礼する。
「お、おぬしは!?」
手にしたおたまが床に転がった。
「知っているのかマウス!?」
「いつぞ戦ったゴブリン!」
「いつだ?!」
ゴブリンと戦った記憶をたどる。
ああ、そうだ。
マハール近くの砦でやりあったっけ。
ユーマはピコリンと閃くが、あの時、マウスがチンパンバトルをしたゴブリンは死んだのでは無かっただろうか。
「我の涙を返せ!」
短い殴り合いの中で親近感が湧き、死んだと思ってボロ泣きしたマウス。
今になって赤面する。
頭から蒸気のようなものが噴き出す幻覚が見える。
バサッ!
ゴブリンが赤マントを芝生の上に脱ぎ捨てると銀色の輝きを放つものがそこにあった。
「おお! なんじゃそれ!! カッコいいのじゃ!! ユーマよ、我もアレが欲しい!!!」
一転、目を輝かせ、廊下からすっ飛んできたマウスが素足のまま外に飛び出す。
一目散に駆け寄った先には、銀色に輝くゴブリンの義手があった。
オートメナントカではない。
腕だけアイアンマンである。
「どんな顔すれば良いのか分からないよ」
「顔はいいのじゃ! 我も銀ピカの腕が欲しいのじゃ!!!」
確かマウスをかばったゴブリンは腕を寸断された。
大量出血しながら倒れたあと、どうなったか見ていない。
どうやら生きていたらしい。
「ガルガンチュアノ技術ハ世界一」
「ゴブリンがサイボーグになって帰ってくるなんて・・・・・・どうなってんだ、この世界は」
自慢気に鼻息荒く喋るゴブリン。
目をキラキラさせているマウス。
きっと今日は修羅場だ。
―――。
――――――。
ロッテンハイマーの町がオレンジ色に染まる中、すっぽんぽんのマウスとゴブリンが、生キズをたくさんこさえて露天風呂に浸かっていた。
「よい試合じゃった!」
「オマエ、強イ! 気二入ッタ!! マタ闘イニクル!!」
ち〇ちんもぱ〇いぱいもおっぽり出した戦闘民族同士、ゲラゲラ笑っていた。
その様を横目に吹き飛んだ芝生を悲しい目で見つめるユーマ。
庭の土はえぐれ、芝生はハゲあがっている。
「はぁ、厄日だ」
黄昏るユーマが呟いた。
「おお、ならばおぬしも住めば良いのじゃ!!」
「カタジケナイ!」
「え!? なんだって!?」
風呂場からなんか聞こえた。
気のせいだろうか。
ゴブリンの住民が増えるって!?
バカな!? なんで?
「まてまて!! なんだそれは!!」
ユーマは走った。
彼の邪知暴虐の幼女を止めねばならぬ。
気休め程度の衝立のカーテンをめくると風呂場に踊り込んだ。
「きゃあああああああーーーーーーーーーッ!!! ヘンタイなのじゃぁぁあああああヘンタイなのじゃぁぁあぁぁあぁぁああぁあッ!!!!」
マウスが女の子っぽい黄色い悲鳴をあげ、おたまを投擲。
ゴブリン(♂)と混浴しているクセにユーマはダメらしい。
音速の壁をブチ破ったおたまが、ユーマの顔面に理不尽な一撃を加える。
血のように赤いのは、夕陽だろうか。
ユーマの鼻血だろうか。
世界がぐるぐるっと回ったような気がした。
「厄災、だ・・・・・・」
目が覚めたときは、何故かウリウリの太ももの上だったのは、また別の話。