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ゴブリン砦攻防戦①

「和気あいあいとするのは結構ですが、これから作戦行動に移ります」

 朝日が辺りを照らすころ、ゴブリン砦から数百メートル手前の岩陰についていた。

 向こうからは死角になって見えない。

 さらに言うとゴブリンは基本昼夜逆転しているそうである。


 こっそり家畜や農作物を奪ったり、警備の少ない時間帯を狙うのなら夜中である。

 結果、昼はスヤスヤ眠り、夜は活動に勤しむのだ。

 朝日が昇ると人間は起き出すが、ゴブリンは眠り出す。

 七味みたいな人里に降りてきているゴブリンは例外である。


「第一目標は城門の破壊。第二目標は人質の救出です」

 シシリーが大まかな砦の見取り図を指し示しながら言葉を紡いでいく。

 ナントカ団のスカウトが、砦の外見から見取り図を作成したらしい。

 伊達では無かった。


「側面の岩山伝いに見張り塔を強襲し占拠する。そこに陣地を構築し、城壁上での戦闘を行おう」

 これは、ヤカンをぶつけられていた人だ。

 ただのギャグ枠かと思ったが、しっかりと指示を出していた。

「強襲は煤の雀団が担当、陣地構築から防御線維持は、我ら騎士団が担当しよう」


 重装甲の騎士団は強襲には向いていない。

 道理である。

 関節部の隙間も極力なくした重装甲。

 バケツのようなヘルメットで、中には鎖かたびらも着込んでいるらしい。


「突入班は、私、そしてウリウリ、八雲の巫女3名で行いましょう。優速を利して早期に目標を達しましょう」


 大丈夫だろうか?

 ユーマは怪訝な顔をした。

 突入班ということは、ゴブリンの巣窟に突撃していく役回りである。

 イマイチ役に立ちそうにないウリウリ、一発大技を出せば戦闘不能になるミズホ。

 いくらシシリーが戦闘ジャンキーであろうとも分が悪いのでは無かろうか。


 それこそウリウリ秘蔵の薄い本展開待った無しである。

「他の者たちは陣地構築を手伝い、突入班が目標を達するまで防戦してください」




 とりあえず今回の攻略戦はこうだ。

 相手のスキをつき、見張り塔の一つ二つを占拠。

 バリケードなどを築き、重装甲の騎士たちを先頭に防衛ラインを作る。

 ライン戦をしている間にシシリーたちが、城門を破壊し、人質を救出するという。

 最後は、乗ってきた馬車に爆薬を満載して突っ込ませ、混乱に乗じて遁走するという大雑把かつ途中から作戦なのかよく分からないものだった。


 ちなみに乗ってきた馬車は教会が買い上げたクレソンたちの馬車らしい。

 商売道具を爆破してしまって良いのだろうか。


「ツメが甘いのでは・・・・・・」

 ユーマは独りごちる。


 占拠している砦が爆発・崩壊すれば、住み着いているゴブリンたちも引っ越していくだろうという楽観的な予想である。

 無駄な流血を避ける配慮と言えばそうとも言えるけれど。


「困ったな」

 困っても神にすがる事とは出来ない。

 いま、すがると無くしたドローンの代金19万円を搾り取られてしまう。

「ええい、ままよ」

 決意を胸に立ち上がった。


「ギィ!」

「グギャ!!」

 城壁の上、見張り塔の辺りから短く高い悲鳴が響く。

 岩山と城壁までの距離は数mほどあるが、射出式なのか投擲式なのかは分からないワイヤーと脚力で飛び越えてゆく。

 ナントカ団の勇士たちが、頭上をハイジャンプする様は人外である。

 異世界だと数mくらいのジャンプは朝飯前なのだろうか。


 まるでハリウッド映画の特撮であった。

 塔の上部に飛び込み、速やかに見張りを排除。


「排除」

「了解」

 塔の上からヒラヒラと手が振られると騎士たちが返答する。

 重装甲のままどこから行くのかと思いきや、塔の上から投げられたロープを昇るという強行手段である。


 少なくとも云十㎏、どころか下手すると3桁くらいの重量の騎士が、ロープを伝ってロッククライミングを敢行するというのである。

 アホであった。

 どこかのドアを蹴破っていけ、などと口出しするわけにもいかない。


「ゴブリンと格闘♪ ゴブリンと格闘♪」

 1人、また1人と昇っていくアホたちを見上げながら、目覚めたマウスがステップを踏む。

 この幼女はゴブリンと格闘したいだけであった。

「マウス、ステイ!」

「なんじゃユーマよ。ゴブリンと本気でヤれるんじゃぞ!? ワクワクせんのか」

「しない」

 今回は遊びでは無く、刃物でブッ刺してくるような危険な相手である。

 戦闘ジャンキーでは無いユーマはワクワクしなかった。

 むしろ、外から眺めていたい。

「皆々方、注意されよ。ゴブリン族は蛮刀の他に飛刀、弓矢、薬玉(目潰しの粉末が飛び散るらしい)などあらゆるモノを使う」

「毒とかも?」

 RPGなどでは毒の矢などを撃ってくるなんてのもあるので聞いてみる。

「然り。神経毒、即効性の致死毒などは当たり前のように使いますな」

 騎士が昇り終えるまでは、何をするでも無い。

 とりあえず周囲を警戒しつつ、相手の手口を共有してゆく。

「まるでシノビですね。忍ばない系の」

 エセ日本の八雲にも当然のようにシノビがいるそうだ。

 この世界のシノビはソシャゲで見掛けるようなビジュアル重視のシノビらしい。


 それはシノビというのであろうか?

 頭上に?が浮かんでは虚空に消えていく気がする。


 ―――

 ――――――



「気付かれたぞ! 防御態勢!」

 ガタガタとタワーシールドを通路上に立て、重装甲の騎士たちが立ちふさがる。


 見張り塔を2か所奪い、木箱や持ち込んだ盾でバリケードを作っている最中。

 異変に気付いたゴブリンたちが襲い掛かってきたのである。

 幅2mも無いスペースで防戦するとぎゅうぎゅうである。

 攻め込むわけでは無く、ただ防戦して時間稼ぎをするだけなので、正直動けなくても良いのだろう。


「つまらんのじゃーーー!」

 マウスが支給された鍋蓋みたいな円形盾をシンバルみたい叩く。

 ガンガンという激しい音が、戦意高揚の楽器のようだ。


「つ・ま・ら・ん・の・じ・ゃ・ぁ・ぁ・ぁ・ぁ・-------ッ!!!」

 もう一声叫ぶ。

 彼女の中では、うおーっと攻め込み、ぶわーっと蹴散らし蹴散らされというイメージだったのだろう。

「素人は下がってな」などとナントカ団のおっさんに言われ、見張り塔の跳ね戸監視の仕事を押し付けられたのである。

 床に設置された跳ね戸の上に木箱が乗っている。

 四方2mくらいの木箱の上に座れば、下から強襲されないという事らしい。

 ユーマは、割と平和で良かったが、七味とマウスはソワソワしている。


「女子を戦いの中に送り、自らは安穏としているなど武人としてあるまじき―――」

「そういう作戦らしいからね」

「某も戦線に加わ・・・・・・」

「見分けがつかなくなるからね」

「くッ! なんたる失態!!」

 ゴブリンの群れの中にゴブリンの味方が飛び込んだら、何が何だか分からなくなること必至である。

 それにそういう作戦では無いのだ。

 走り出してもらっては困る。


「我も・・・・・・我も混ぜてたもれ・・・・・・」

「言葉遣いがおかしくなっている」

「我の頭がおかしくなりそうなのじゃ」

「元々おかしい気がする」

「ムキーッ!!!」

 勝手に走り出さないくらいには、自制心が芽生えたマウスを褒めてやらないでもない。

 だが褒めた途端、気分が盛り上がって突撃しかねない。

 ゆえにユーマにはディスることしかできなかった。


 そんなこんなしている間に爆音が響き、砦が地震に見舞われたみたいに激しく揺れる。

 もうもうと黒煙が街道を塞いでいる門あたりから立ち昇り始めていた。

「教会の割にやる事が、爆破て・・・・・・」


 破壊するとは言っていたが、まさか爆破するとか教会としてどうなんだろう。

 ユーマは、城壁の外を見やり首を捻った。

 黒焦げになったまま、火がくすぶる城門の残骸が転がっている。


 と、城壁の側面を登ってきているゴブリン2体と目が合う。

 見つめ合うユーマとゴブリンとゴブリン。

 キラキラした不思議空間が広がることも無いし、愛が芽生えることも無い。

「ガオ―ッ!!」

「オマエ! シンニュウシャ!!」

「ぎゃーーーッ!!!」

 ゴブリンたちが叫びながら城壁を爆走してくる。

 まるで映画のようである。

 ユーマは悲鳴を上げながら一目散にマウスたちのもとに戻っていく。


「な、なんじゃ!? どうしたのじゃ!?」

 お餅のように顔を膨らませて遊んでいたマウスがビックリした声をあげる。

「側面からゴブリン!」

「なんですと!?」

 七味が木箱から飛び降り駈け出した。

「我に任せるのじゃ!!」

 パッとヒマワリが咲いたみたいな表情のマウスも駆け出していった。

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