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彼女の太ももに顔をうずめて

「キミは、これからどこかに戦いに行くんだろう?」

どこか遠く、薄墨色の山々を見つめたまま幼子が口を開いた。

「それは・・・・・・」

成り行きで、というか俗っぽい理由も併せて、そうなる予定であった。

 不本意だが。


「キミは、戦いたくないんだよね」

「めんどくさいとか言っているけれど、本当は誰も死なない、平凡な日常を過ごしたい」

「!」

幼子はどこかから煎餅を取り出すとバリっという音を立てながら一齧りする。

 ユーマは、ゲームならいざ知らず、基本的に争いごとが嫌いだ。

 ムダなエネルギーを消費したくないし、気分も悪くなりたくないのが正直なところだ。


「親しい人が死ぬのもイヤだけど、敵対する人が死ぬのもイヤ。そうだよね?」

傷つけば誰でも痛いし、死ぬことに意義や価値が見出せないのも事実だ。

 でも生きている以上、争いは起こってしまうのだ。

「偽善だと?」

「いいや。偽善で良いと思うよ。それで救われる何かがあるのならば」

「・・・・・・」


 再び沈黙。

 小鳥のさえずりやせせらぎの音、どこか遠くから風に乗るウグイスの声だけが聞こえる。

 ゆるやかな時間だけが流れてゆく。


「でも戦いは起こってしまうんだ。色々理由はあるけど」

「戦って戦って、その先にあるのは何だろう?」

どこか遠くを見つめたまま幼子が呟く。

 遠い昔に思いを馳せるような、そんな感じがした。


「勝つか負けるか?」

泥沼になって引き分けにならない限り、いつかは決着がつくだろう。

 それは早い段階で答えが出るかもしれないし、長い長い間、答えが出ないかもしれない。


「そうだね。じゃあ、その先には?」

茶をすすり肯定する。

 そして、再びユーマに問題を提示した。

「わからない」

「うん。分からない。そうだね」


 勝った負けたの先は何だろう?

 ゲームならリザルトだ。

 でも現実はどうなるのだろう。

 戦後の平和な時代に生まれ育ったユーマには、とんと分からぬ。


「戦って、勝った負けた、その先はさらなる戦いだよ」

「・・・・・・」

親しい人を殺された主人公が復讐のために立ち上がる、なんてドラマやマンガは山のようにある。

 つまりは、そういう事なのだろう。


「キミがここに来た意味、これから忘れないで欲しい事、キミの想いも掬って・・・・・・でも、強要はしないよ。キミが求める未来のために少しだけ助言させてね」

火があるところに煙が立つのだ。

 何かがあって、復讐に立った者を否定もしないし、肯定もしない。

 復讐心に駆られてぶん殴ることを否定しないユーマは俗物であった。


 それでもユーマは、のんべんだらりと過ごすことが好きだ。

 そのためには無駄な流血沙汰は避けたい。


「負の連鎖を起こさないために。キミは、キミならこの世界でできるだろう?」

「また逢おう。異邦人」

この幼子は、どこまで知っていて、何者なのだろう。

 天上の神々の一柱なのだろうか?

 ユーマは思案する。


「君は、だれ?」

縁側から飛び降り、草原の方に歩き出した幼子に尋ねる。


「わたし? わたしは名も無き―――いや、わたしの名は”千代”。遠い日に貰った名前」

幼子は、くるりと振り返ると、草原は大海原のように稲穂が黄金に輝き、風に揺れていた情景に変わる。


 ざぁぁーと風が啼き、桜が舞った。



 やがて、白く光り輝きながら世界は回り、目が覚めるとウリウリの太ももに顔をうずめていた。


 大変不謹慎な絵面である。


 ぬかった!


 眠気のあまり、起きた事態とはいえ、見た者から『HENTAI』の烙印を押されてしまうこと間違い無しである。

 速やかに起き上がるとウリウリが恍惚とした表情を浮かべている。

 他メンバーを見渡すとマウス、七味は相変わらず爆睡していたが、ミズホがゴミを見るような冷たい視線を投げかけてきていた。


「・・・・・・」

「・・・・・・」

目が合ったユーマとミズホが見つめ合う。

 冬場に食べる冷凍庫でカチンコチンになったガリ●リ君より冷たい視線だ。


「ユーマさん・・・・・・公の場でえっちな事はいけないと思います」


 ため息。

 そして目を逸らした。

「仮眠しただけで・・・・・・」

ちょっと倒れ込む向きを間違えただけで、えっちな事では無いはずだ。

「ウリウリさんが、甘い声を出してましたけど?」

勢いよくHENTAIシスターを振り返ると彼女の目が泳いでいた。

 まるでウォータースライダーを駆け抜けるかのように激しく。


「”あッ♡”とか”んゥ♡”とか変な声が聞こえたから、見てみたら、ユーマさん・・・・・・」

「すごい誤解なんだけど!」

「分かります。分かりますけど!! ・・・・・・あ、あのですね! 今度、いいことしてあげますから今は我慢してください!」


 ウリウリが悪ふざけをして、それを見たミズホが盛大に勘違いしたのだ。

 さらに理解を間違えたであろうコスプレ巫女が、顔を真っ赤にして何かトチ狂った事を言い出したのである。

 このまま行くとハーレム男の出来上がりである。

 ユーマは愕然とした。


 なんとかせねばならない。

 ユーマとて健全な男子であるし、えっちな事に興味がないわけでも無い。

 だが、こういう何だかノリと勢いで致すのは、ポリシーに反するのだ。

 ウリウリもHENTAIな点を除けば、美少女であるし、おおいに有りではあるのだ。

 ミズホも多少イノシシすぎるところ以外は、美少女だし気立ても良い。


 違うそうじゃない!

 ユーマは心の中でノリツッコミをする。

 だがしかし!!


 パーティー内とか職場内恋愛とかそういうのをやるとドロドロややこしいことになるのは、バイト時代で体験済みである。

 ここはひとつ話題を逸らすしかあるまい!

 ユーマはヘタレであった。


「変な夢を見た」

割と真剣な顔で言い放つ。

「!!」

恍惚とした表情で両目がスロットのように激しく泳いでいたウリウリが食いつく。

「それって私と言葉にはできないあんなことをしたりする!? ケ、ケダモノ・・・・・・」

自分の体を両手で抱き締めると顔を赤らめるシスターは、やはり残念な脳みそだ。


「ウリウリの頭ん中がケダモノだよ。そういうヤツじゃない」

ハァハァ荒い息をついていたシスターが、突然真顔になり、ぐにゃりと体を折ると荷台に転がった。

「えー・・・・・・そこは肯定してくださいよー。膝枕のお礼だと思って」

「なぜ・・・・・・」

なんでそんな不謹慎な回答をせねばならないのか。

 ユーマは疑問で仕方が無い。

「モチベーションが下がるじゃないですかー・・・・・・」

ああ、そうだ。筋金入りのHENTAIであった。しかもドMの。

 どういう理屈や思考回路でモチベが上がるのか、まったく分からないが、そういうヤツなのだ。ウリウリは。

「あー・・・・・・。うん、ウリウリがゴブリンに捕まるヤツだったよ」

「きゃー♡」

モチベが上がったようだが重傷であった。

次回やっとこメンドクs・・・いえ、ゴブリン戦に突入です。

その後はやらねばならない、読者さんに進路を選んでもらおうキャンペーンを実施予定です。

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