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服を着ましょう

「装備を、主に衣服を整えよう」

一夜明けて、職業案内所の飲食スペース。

 4人が顔を突き合わせていた。


「なぜじゃ? 我はこのままでも問題ないぞ」

マウスが不思議そうな顔をする。

 今日も変わらず、ユニタードタイプのスク水みたいな恰好だ。


「某もさして問題は感じないが・・・・・・」

顎に手を当て、同じく不思議そうな表情のゴブリン闘士の七味。

 相変わらず腰蓑に上半身は裸という出で立ち。


「いけませんよ2人とも! 半裸に裸足! 何かあってからでは遅いのです」

青い法衣姿のウリウリさんがまともな事を言っている。

 くどくどと防具に関しての講義が始まった。

 言ってはいるが、異常に深いスリットから生足が激しく存在を主張している。

 むしろ腰骨辺りまで見えていて、パンツの紐らしきものが見えない。

 

 まさかな、ユーマは横目でチラチラ見ていた。


「なるほど。一理あるな。某、持ち合わせは無いが、如何する?」

「我も金など持っておらぬぞ」

すんなりと納得したものの無銭だという衝撃が襲い掛かる。

「困りましたね。私も持ち合わせがありません・・・・・・」


愁いを帯びた上目遣いのシスター。


「なぜ・・・・・・」

なぜこいつらは金を持っていないのか。

 ユーマは困惑した。

 そしてそっと有償ゴッデスポイントの残高を確認する。

『残高は900ポイントじゃ』

オーキ●博士風の声が脳裏に響く。


 先日500ポイントを家賃、光熱費用に使用し、100ポイントで装備品を購入したのだ。

 獣革を重ね合わせ、中に鎖帷子を縫い込んだハードレザーアーマーと厚底のコンバットブーツ、指ぬきグローブしめて金貨10枚。

 安いのか高いのかユーマには分からぬ。

 異世界に来て、初めてのまとめ買い。正直ボラれた気がしないでもないが、人一倍安全性には敏感であった。

 仮に3人分の装備代を立替えるとして300ポイント。

「わ、分かった・・・・・・1人金貨10枚。立替えるよ」

ユーマは打算的だった。

 前衛っぽい2名を強化しないと非戦闘員の自分が被弾し、回復職っぽいシスターの防御力を改善しないと万一の時、大変なことになる。


「かたじけない!」

「恩に着るのじゃ!」

「ユーマ様!」

愁いを帯びた目で見つめていた皆の顔がパッと明るくなる。


 かくして各自、装備を整えるために町へ散っていったのだ。


 2時間ほど経ったころ、最初に戻ってきたのはシスターのウリウリだった。


「なぜ・・・・・・」

ユーマは絶句した。

 想像していたものとは全然違ったからだ。


 装備を整えようと言って、本人も防具の重要性を説いていたはずだ。

 胸甲とかガントレットとかそういうものの形は無く、

「ふふん、ばっちりです!」

法衣の前をキワドイところまで捲って魅惑の足を見せつける。

 それは黒タイツでピッチリ覆われていた。

 腰骨の辺りにはやっぱりパンツの紐が見えない。

 レオタード的な下着かもしれない、と思うことにしよう。


 問題はそこじゃない。


 変わったところと言えば生足から黒タイツになったこと、そして小ぶりな錫杖だけだった武器が大玉スイカ3個分くらいのハンマーが追加された2点だけだ。

「法衣の下に鎖帷子とか着てるんだよね?」

ユーマが恐る恐る尋ねる。

 そうだ、きっと中に何か着込んでいるから見た目があまり変わらないのだろう。

「? いいえ。法衣の下は素肌ですよ」

きょとんとして首をかしげるシスター。

 ガッデム! 防御力!

「あ、なるほど。ユーマ様エッチですね! んーんーんー? ムリヤリ系なら仕方ないですねー」

はたと手を打つとニマニマした表情でオカシナ事を言い出す聖職者。

 スススと近寄り、耳元で乱暴なの興味あるんですよね、とか言い出した。

 やばい、性食者だ。ヘンタイだ。

 ユーマは戦慄した。


「ウリウリ殿、もう帰られていたのですな」

そこにゴブリン闘士の帰還である。

「なぜ・・・・・・」

ユーマは再び絶句した。


 明らかな前衛である彼はシスターから防具について重要性を説かれたはずだ。

「これが流行りのスタイルと聞きましてな」

獣皮でできたジャケットを前開きで羽織り、隙間からはたくましい肌がチラチラ見えている。

 そして黒いサングラスに金色のブレスレット。

 ただし下は腰蓑。

「防具ぅぅぅー」

ユーマが嘆き崩れ落ちる。


「我が部族には格言が言い伝えられていましてな『当たらなければどうということは無い』」

どこかで聞いたことのあるセリフだ。

 赤い人が言ってた気がするが、あいにくゴブリン闘士は緑だ。

 死ぬのかお前・・・・・・。


「なんじゃ、みな軽装じゃな」

ガシャガシャと甲高い金属音を立てながらそれは現れた。

 明らかにサイズが合っていない全身フルプレートのそれの尻付近からはウロコに覆われた尻尾が出ていた。


 マウスだった。


 顔も見えない鉄仮面の下からくぐもった声が響く。

 不気味だ。

「おすすめされたが、我もこのような塊イヤじゃ」

おもむろに鉄仮面を取るとテーブルに置く。

 ドンっという大きな音が響き、テーブルが軋んだ。

 次々に甲冑を脱ぎ捨てると結局、元のユニタードっぽい格好に戻る幼女。

 変わったところは、素足からサンダルに、ヒラヒラフリルが付いているフレアスカートが増えただけだ。

 あとは無造作だった髪がアップのポニーテールにまとめられている。


 足元には誰も着ようとはしない甲冑がバラバラ死体のごとく散乱していた。


「なぜ・・・・・・」

ユーマは三度崩れ落ちた。


 さらに渡した金貨10枚を各々使い切ったという事実に震える。

 これはヤバい。

 討伐系のクエストとか行ったら誰か死ぬ。

 むしろ怪我して治療費とかで金銭的に死ぬ。

 ユーマは、依頼掲示板から危険度の少ない下水の掃除をチョイスした。


「堅実に、行かねば・・・・・・」

面白さなどない下水の清掃だ。

 仕方ない、ユーマは自らに言い聞かせると仲間たちの待つテーブルに戻るのだった。

ファンタジーだと防具は必須だけど、現実的に考えたら超重装甲鎧とか装備したら動けなくないか?

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