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シスター、ぱんつ履いてない

 ゴトゴト揺れる荷台の上でユーマは、満天の夜空を見上げていた。

 地球で見えるような星座がこれっぽちも見当たらなくて、何座なのか分からない星々が瞬いていた。

 とりあえず目的地に着くまで、仮眠しようと思ったのだ。

 だって夜通し活動したので、頭が働かないのだから仕方ない。


「イテッ!」

ゴトンと荷台が揺れる度にモロに衝撃が後頭部を襲う。

 馬車に快適性を求めるのは間違っているのだろうか、などと口走りたくなる衝動に駆られる。


 そもそも馬車の荷台なんて寝るためのスペースでは無いのだ。

 サスペンションも無く、木の車輪が剥き出しのまま、地面を転がるのだ。

 当然といえば当然、頭ないしお尻が痛くなる。

「グォーー! ガガァーーーーッ!!」

「ずぴー、ずぴーーッ!!」

憂鬱になる中、マウスと七味は爆睡し続けていた。

 2人のいびきがヒドイ。


「さぁさぁ、お姉さんが膝枕してあげますよ」

そんなユーマに救いの手を差し伸べる女神もといHENTAIシスターの姿。

 自分の膝小僧をペシペシ叩きながら、肌色が眩しい膝枕を提供してくる。

「んん? タイツは?」

別にユーマに黒タイツ属性があるわけでは無い。

 提供された膝枕が艶めかしい肌色だったからだ。

 とても背徳的な膝枕がそこにあった。

「汗だくになったから脱ぎました! もしや・・・・・・」

「違うからな」

何となく想像がついたユーマは、ウリウリの言葉を遮る。

「では遠慮せずにお姉さんの膝枕を堪能しましょ!」


 ゴトン!

 何度目かの衝撃が後頭部を襲う。

「仕方ない」

「そういう事にしときましょう」


 背に腹は代えられぬ。

 ユーマはやむなく、ウリウリの太ももの上に頭を落ち着ける。

 何とも童心に帰った気分になるが、間違ってもママンのお膝では無いのだ。

 少しスケベな気持ちになるユーマは健全だった。

 程よい温かさが後頭部にぬくもりを伝える。


 これは、至福・・・・・・。


 微かに野に咲く花のような少しだけ甘い香りがする。

 心穏やかに快眠を・・・・・・


「実ははいてないんですよ」

小さく小さくウリウリが呟く声が聞こえた。

「!!」

法衣を一枚挟んだ先にあって然るべきものが無いらしい、という情報が大嵐になって襲い掛かってきた。

 イケない妄想が心の中で鎌首をもたげる。

 眠気が吹っ飛んで行方不明になってしまう。


 必死に羊の数を数えて眠ろうとするが、暴風に巻き上げられた羊たちが、空の藻屑となっていく。


 チラッと薄目を開けてみるとウリウリがニマニマしていた。


 おのれ!! 謀ったな!!

 心の中で叫ぶが、言葉には出さない。

「・・・・・・見たいですよね? いいですよー?」

またも耳元に響くHENTAIシスターの魔の誘い。

「ね、眠れん!」

カッと目を見開くと飛び起きる。

 快眠の手助けをしてくれるのかと思いきや、スケベな誘惑攻撃である。

「ふふふふ・・・・・・ユーマ様かあいいですねー。さぁどうぞー♡」

ニマニマするシスターが法衣をめくるとそこには、ぱんつなど無く・・・・・・


「じゃじゃーん! スパッツでした!」

紫色のスパッツに覆われた下腹部が晒された。

 ようはタイツが短くなっただけ、と考えれば今まで通り、変わりは無いのだ。

「ああ、そうなんだ」

急速に妄想から解き放たれたユーマはウリウリの太ももの上に倒れ込む。

 猛烈な眠気が雪崩のように押し寄せ、ユーマは抗うことなく眠りに落ちていった。

 絵面的には、うつ伏せで太ももに顔をうずめる非道徳的な状態であった。

「和ませようとしたのにー! もう!!」

頭上でウリウリの声が聞こえたような気がした。


 ―――・・・・・・


 小川のせせらぎが聞こえる。

 道中、小川なんてあっただろうかとユーマは首を捻った。


「ねんねーころりやーねんねこねーニャー」

「ねんねこにゃー、ねこねこにゃー」

うっすらと目を開けるとそこは、水墨画のような景色が広がっていた。

 どこかから鈴のような声で子守唄もどきが聞こえる。

 確かゴブリン砦攻略のため、馬車の荷台にいたはずだ。

 そして、ウリウリの膝枕・・・・・・じゃない。

 太ももに顔をうずめて寝た・・・・・・?

 いやいや、どうだったろうか。

 いまいち記憶に無い。

「マズい・・・・・・顔をうずめて寝たとしたらクンカクンカしてるみたいな絵面になる・・・・・・!?」

少なくともウリウリ以外に見られてはいけない絵面だ。

 早く目覚めて素知らぬフリをせねばならぬ。


 だが、どうだろう。

 今、目が覚めているのだろうか?

 少なくとも知らない間に水墨画みたいな世界に迷い込んだクサいのだ。

 いつぞの南の孤島っぽいアレが脳裏をよぎる。


「どういった状態だ?」

元々、どこにいたのかすら分からぬ。

 ユーマは白黒の世界を歩き始める。

 墨のようなものが流れる川、白黒の雲、薄墨のような山々。

 ひらひらと舞うチョウチョも薄墨色だ。


 その中で一際鮮やかな色彩の一角が目に入った。

 昔話の絵本にあるような藁ぶきの平屋に野花が咲く若草色の丘、小さなお地蔵様、さらさらと流れる小川。

 どこかから来て、どこかへ続くあぜ道。

 そこには、山吹色の着物を纏った幼子が子守唄を口ずさんでいる。

 肩までのボブカットの銀髪が風に揺れた。


「驚いた! ここに人間が来るなんて」

やがて面を上げた幼子は、金色の目を真ん丸にしてユーマを見つめる。

 胸元がなだらかな曲線を描いているところを見るに少女のようであった。

「すみません、ここは・・・・・・?」

「どこでもない場所。どこにも無い場所」

少女はにっこりと笑いながら、空中からあずき色の座布団を二枚取り出した。

 それらは、ふよふよと平屋の縁側に飛んでいき、少女が後を追う。

 座布団からは、お日様の柔らかな香りが漂っていた。

「一体どういうことです?」

ユーマは自然と少女の後を追い掛けると、その後ろ姿に問いかける。

 異世界から異世界に飛んだことはあるが、異世界から異次元に飛んだのは初めてである。

 どこでも無くて、どこにも無いという事は異次元という事だろう。

「キミが考えている通りさ」



「少しキミの話をしよう」

よっこいしょっと掛け声を掛けながら座布団に座ると、またも何も無い空間から湯呑を取り出す。

 ほかほかと湯気が立ち昇り、香ばしいお茶葉の香りが揺蕩う。

「さあ、どうぞ」

片方の座布団をポンポンと叩き、招くとお茶をすすった。




 遠くに薄墨色の雲が流れる。

 遠い昔、田舎のばあちゃんの家から見た事のある風景に似ていた。

 どこまでも続くような棚田、緑あふれる山々、いま見える世界は白黒だけど日本の原風景のようなものが広がっていた。

 マウスよりは年上だろうか。

 ノースリーブだとかミニスカ袴だとかの改造和服では無く、しっかりとした作りの山吹色の着物と若草色の帯、軒先に並べられた草鞋。

 幼子がおいしそうに茶をすする。


 つられて茶をすすると摘みたて、炒りたての茶葉の味が口いっぱいに広がった。

 ほのかな甘みと香ばしい香り、茶葉のスイーツを食している気分だ。

 普段なら”こんなことをしている場合ではない!”などと思ったりしないでもないユーマであったが、ぶっちゃけ今回は、このまま茶をしばいていたい気分である。

 ゆっくりと流れる雲にときどき吹く柔らかな風、草木の擦れる音がどこかから聞こえ、小川のせせらぎも耳に入る。

「良いところだな」

「そうだね。何もない、ただゆっくりと時が流れてゆく。平凡な日々こそ幸せっていうんだろうね」


 鳥のさえずりが風に乗る。

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