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報告、そして出撃

 ユーマ達は走った。

 夜風を切りながらひたすらに。

 荒涼とした大地がビュンビュンと背後に飛び去ってゆく。

 きっと夜風が気持ちいいのだろう。

 だが爆速で駆け抜ける3人は燃え上がるような暑さに見舞われていた。


「はっ、はっ、はっ!」

短く荒い息を吐きながら先頭を走るのはミズホである。

 珠のような汗が額から噴き出し、スラリと伸びた手足が華麗なフォームを保つ。

 野山を駆け抜けるシカを彷彿させるような軽やかな動きだ。


「ぜっ、ぜぇ、ぜっ、ぜぇ!」

二頭身ほど離れて追走するのはユーマであった。

 異世界アラドに来る前は、新聞配達をはじめ、夜勤や重いものを運ぶ系などパワー系のバイトに勤しんだユーマである。

 戦闘民族では無いが、それなりに体力には自信があった。

 が、息が上がって死にそうであった。

 ミズホほど軽やかなフォームでは無いが、まるで陸上部の選手のようである。

 わりとサマになっていた。


「ひっ、ひっ、ふっ! ひっ、ひっ、ふっ! はっ、ぜぇ、ぜっ、ぜぇ!」

数分前から明らかに遅れが目立ち始めたシスターウリウリ。

 呼吸は乱れ、汗で濡れた髪も乱れ、まるでオニババのようである。

 深いスリットの入った法衣が風にひらひらとなびき、見えてはいけないところが見えているが、誰も振り返ることは無いのでセーフである。

 手に包丁でも持っていたら逃げる2人を追跡するやまんばさながらであった。

 華麗なフォームなどとは無縁である。


 迅速迅雷。

 お急ぎ便、速達、何でもいいがとりあえず急ぎである。

 何としてでもパクられたドローンを回収せねばならない。

 そのためには、頼れる仲間たちもとい暴力系シスターのパゥワーが必要である。

 片道徒歩で6時間の距離を約2時間ほどで駆け抜けた。

 一説によると人間の分速は80mらしい、というのを遠い昔に雑学本で読んだことがあるような無いような気がした。




「ぜーひぃー、ぜぇひぃぃー!!」

まだ夜が空けていない夜空を見上げながらどうでもいい事を考えながらユーマは喘ぐ。

 ざっくりとした距離は29kmほどだろうか。

 それを約2時間で駆け抜けたのだ。

 爆速であった。


「・・・・・・ひゅー、ひゅー・・・・・・」

マハール市街中心部近くの教会前の路上でウリウリが虫の息で行き倒れている。

 ユーマとウリウリは石畳のひんやりとした冷たさを全身で堪能する。

 もう石畳と結婚したくなるほど火照った体と相性が良い。

 ユーマはともかくウリウリの法衣は放送禁止レベルまで乱れていた。


「はぁっ、はぁっ・・・・・・ふー・・・・・・よし!」

一方コスプレ巫女もといミズホは、息切れして中腰になっていたものの、即座に呼吸を整えると着衣を整え教会の戸を叩く。


 ドンドン


 反応なし。


「あ、あれ・・・・・・? もしかして就寝中?」

真夜中であると言えば真夜中である。

 当然と言えば当然、就寝中なのが正常である。

「戦の前とは思えません」

引き続き頑丈そうな木製ドアを叩いたり、引っ張ったりするミズホ。

 微動だにしないドアを悲しそうな目で見つめる彼女がガックリと肩を落としかけた、その時であった。


「帰ってきましたね! 割と早かったですね!!」

月を背負い、大通りで仁王立ちする数人の影。

「その声は!?」

ユーマは石畳に伏したまま、お決まりっぽいセリフを吐く。

 何となく言った方が良いような気がしただけだった。

 腕組みをしたシスターシシリーと完全武装のその他大勢が次々に名乗りを挙げる。


「アウスティリア正統中央教会 メギア方面支部長シシリー・C・チェチェン!」

「我ら中央教会僧騎士隊!」

「金で雇われたゴロt・・・・・・げほん! フリーの傭兵団 煤の雀団!!」

実際は爆発していないが、彼らの背後で大爆発が起こった気がした。

 まるで戦隊ヒーローである。


「うるさい!!!」

民家の2階の鎧戸が勢いよく開くと近隣住民の苦情が飛ぶ。

 一緒に飛んできたヤカンが煤の雀団のひとりの後頭部にクリーンヒットする。

「テメェ! はっ倒すぞゴラァ!!」

さすがゴロツキ、光の速さで立ち直ると近隣住民に怒鳴り返す。


「お静かに」

シシリーが一睨みするとゴロツキの動きが止まる。

 微笑を浮かべる彼女の顔が怖い。

 うっすらと開いている目から死線を感じる。

 ゴロツキの顔に冷や汗だろうか、輝く水滴がいくつも見えた。

「は、はい・・・・・・あねさん・・・・・・」


 姐さんなのか。

 ユーマはまたもいらない知識を身に着けた。


「だいぶ急いで戻ってきたという事は、そういう事ですね?」

シシリーの口元が三日月のように歪む。

「いいんですよ。敵に捕まりかけて、衣服を引き裂かれた、とかでも・・・・・・」

そして、ミズホ、ユーマ、ウリウリの順に舐め回すような視線を投げかけた。


 ミズホ、汗だくになっているけど異常無し。

 シシリーの口元が横線に変わる。


 息が切れているけれど被害無しのユーマ。

 シシリーの眉間にシワが寄る。


 衣服が乱れて大変不健全な姿のウリウリ。

 石畳に転がる彼女を見下ろし、大きなため息。


「・・・・・・明確な被害が、ありませんね・・・・・・? ウリウリ、あなたのはだけた服装は走ったからですね?」

チッという舌打ちのような音が聞こえた気がしたが気のせいかもしれない。

「あ、あの! 砦に捕まっている人がいました! 頭のてっぺんが月明りを反射していたので見間違いではありません!」

視力とかいうよりも一瞬のうちに、ハゲた全裸の誰かが捕まっていることを認識したミズホは凄かった。

「ほう? 捕まっている人がいたと?」

素早く反応したシシリーは大変うれしそうであった。

 やはり危険人物である。


「その話kwsk」

「え?」

「失礼。状況を詳しく教えていただけますか? 八雲の巫女よ」

今、大変俗っぽい単語が聞こえた気がした。

 まさかコイツも転移してきた系の? とユーマは勘繰るが実態は不明であった。


「ええと、誰かは分かりません。ただ男性の方で、頭がハゲて月明りを反射していたんです。あの、ええと、その、全裸でして・・・・・・ゴブリンの乗り物にされてました」

確かドローンが横切ったのは一瞬である。

 その時間長くて2秒。

 え、マジで?! みたいな顔でミズホを見ると顔が真っ赤であった。

 ああ、股間のゾウさんとか見えたのね。とユーマはそっとしておくことにする。

 紳士はくだらない股間のゾウさんの話題になど触れないのだ。


「なるほど。その人物は行方不明の商人でしょうね。とすれば、他の冒険者も幽閉されている可能性があります」

踵を返すと目で騎士の一人に合図をする。

 ゴロツキもとい傭兵の男が2人、教会に入っていった。

 ややあって爆睡するマウスと七味を小脇に抱えて出てくる様は、まるで誘拐犯である。

「姐さん! 起きません!」

「良いでしょう。そのまま積みなさい」

荷物扱いかよ。と思いつつ、自分たちは爆睡していたのか、いいなぁとか複雑な思いが渦巻いていた。



大変お待たせいたしました。

ちびちび再開していきます。

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