ユーマ、使い魔という名のドローンを持ち出す
「どうみる?」
急にそれっぽいセリフを吐いて仲間二人の意見を求める。
少なくともウリウリはHENTAIでドM気質だが、戦闘大好きの狂人ではない。
同じく走り出したら爆発するまで止まらないミズホだが、こちらも戦闘ジャンキーでは無いのだ。
まともな意見が得られれば・・・・・・いいなぁという淡い期待を込める。
「そうですね。十中八九砦の中には数十倍のゴブリンがいると思います」
「正面切って戦うのは無理ですよ、ユーマさん」
割とまともな意見である。
そもそも正面から圧し潰せるとしたら数で圧倒できている場合だろう。
ネトゲでも少人数で正面から切り込んで勝てたためしがない。
しかもゲームとは違って異世界と言えどリアルなのだ。
ちょっと試しで突撃するわけにもいかないし、何よりそんな戦力は無いのだ。
「そうだな。よし、残念だが俺たちの手には負えない。以上。撤退」
とりあえず偵察に来た理由は、断るための口実を作るためだ。
シシリーの言うような明確な被害なんて現状、誰かが死亡する未来しか見えない。
「もう少し内情を確認してからにしませんか? シシリー先輩、納得しないと思います」
恐らく一番シスターシシリーという人物を知るウリウリの視線が泳ぐ。
あ、こいつ絶対そういう言い訳をして、ちょっとスリルを求めているな?
だんだん取り扱いに慣れてきた気がするユーマの直感が囁く。
だがしかし、納得しないだろうというのはあながち間違いでも無さそうだ。
なんとなくだが、根拠を示さないと納得しないタイプ。
「内情と言っても侵入するわけにもいかないだろうし・・・・・・」
「実は私、潜入のプロなんです」
ウリウリの目がらんらんと輝いている。
「なるほど。じゃあ音を立てずに歩くには?」
ウソだな。潜入とか言ってスリルを味わいに行くに決まっている。
もしかしたらベッドの下に隠してあった薄い本みたいな展開を期待しているのかもしれない。
HENTAIなのだ。油断ならない。
「それは、つま先からそっと接地して、滑るように動くんです。ええっと秘技なので詳しくは言えません」
昭和の泥棒みたいな絵面が浮かぶ。
ちなみにほぼ無音で歩こうと思ったら小指側から接地し親指までを徐々につけるのだ。
情報元は伊賀忍びの里の夏休み体験。
「うん。やめておこう。ウリウリがゴブリンたちに捕まってしまう気しかしない」
「そうですね。ウリウリさんの歩法じゃ音が出ない以前に足を攣りますよ」
ユーマとミズホの波状攻撃を受けたウリウリが沈黙する。
そういえばミズホの歩き方って忍びの歩き方だろうか。
では帰るか、と思わなくないが説得材料が欲しい。
どうする?
ユーマは考えた。
うんと考えた。
頭から湯気が出そうになるが、限界突破して考えた。
ピキューン!
そして閃いた。
(ハ●ーン様、ハ●ーン様。カメラ付きのドローンが欲しいです)
文明の利器を活用すべきである。
というか注文して送られてくるのだろうか?
ママチャリは送られてきたし、カニ鍋セットですら送ってもらえたのだ。
ダメだったら次の手を考えるまでである。
(ただいま呼び出しています。しばらくお待ちください)
聞きなれない、というかコールセンターなどに電話した時に聞こえる音声が脳裏に響く。
時間的に寝ている頃合いだったのだろうか?
・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
(何事だ? 何時だと思っている)
やや、どころかそこそこ待たされた後に不機嫌そうな声が脳裏に響く。
何時なんだろう? そもそもアラドに持ち運び可能な時計は無いのではなかろうか。
頼りは教会の鐘だけだが、当然ながら夜は鳴らない。
(緊急です。ハ●ーン様)
緊急と付けると大体言い訳になるのだ。たぶん。
(ほう、緊急だと? 夜中の2時過ぎにか)
神(?)の世界では夜中の2時らしい。
というか神の世界も時間の概念があるのか、と変な方向で感心する。
(ワケあってゴブリンに占領された砦を攻略しないといけなくなりました)
(ほう、それはなかなかに楽しめそうでは無いか? 余すことなく出来事を記すのだぞ)
軽く状況を伝えると不機嫌そうにしていた声色が色めき立つ。
ややウキウキとした声色は、冒険譚を期待する気配がひしひしと伝わってきた。
(ですが、ゴブリン砦を攻略、したくは無いのでドローンで偵察したいです)
(・・・・・・攻略、したくない・・・・・・?)
きっぱりハッキリと意見を伝えることは大切だ。
話を聞かない戦闘民族相手では、なぁなぁになりがちだが、会話が成立する相手に限ってはユーマは遠慮が無かった。
最近、というかこの世界に来てから流されっぱなし、例えると濁流の中でもがくようなありさまだ。
(ゴブリンなんて言う戦闘モンキー、じゃなかった二足歩行ブルドッグの相手なんてしたくないです)
まだコレが廃墟となった砦のどこかに落としたペンダントを探すだとかドコかに生えている薬草を取ってくるとかなら大歓迎Welcomeなのに、とか思わない事も無い。
一般ピーポーに命のやり取りをするような現場は過酷である。
(・・・・・・ほう、冒険しないと?)
あくまでも死地に出向いて現地リポートせよという圧力を感じる。
だが、冒険譚を書くにしても命あっての物種であった。
ブラック上司の無茶振りに応じる必要は無いのである。
そもそも上司じゃないが。
(ドローンが欲しいです! ドローンが冒険します!!)
冒険では無く偵察であり、断る口実を作るのが目的だが、そこはそこ。これはこれ。
言わなくてもいい事は言わなくても良いのだ。
ユーマは狡猾であった。
(それは冒険とは言わない。・・・・・・だが、まあ、よかろう)
納得の上、というよりは渋々のような感じの返事があり、闇夜を切り裂き金色の光と共に―――
(あ、ゴブリンの歩哨にバレるので光らないで)
(む・・・・・・)
注文したアイテムは総じて、厳かな光と共に空から降ってくるのだ。
いまキンキラキンに光ながら送られても困る。
少し間を置き、ユーマの目の前の空間が歪むと中から白磁のように白くスラリとした手が出てくる。
手には剥き出しのドローンとコントローラーらしきものが握られていた。
「なんですか、それ」
ミズホとウリウリには神の手は見えないようだった。
見えたら見えたで、何もない空間から白い手が伸びているホラーな絵面に絶叫待ったなしである。
なんですか、の矛先はユーマの手の上に”突如出現した”ドローンの事である。
注文しといてなんだが、ドローンも注文できるのか。
世界の因果律とかどうなっているのだろう、とユーマは心の中で首を捻る。
「これは・・・・・・使い魔だ!!」
静かに、かつハッキリ堂々と言い放つユーマはウソつきであった。
どう見ても有機的要素が無い。
無機質なそれを使い魔とかのたまうくらいは嘘も方便ではある。
「使い魔!? 召喚術も嗜んでらっしゃるんですね」
ミズホが信じ込んだ。
やっぱりチョロインである。
「アイちゃんにしましょう! かわいいですね!」
ウリウリがうきうきしだす。
無駄のないムーブで名前を付けるとドローンに笑いかける姿に罪悪感を覚えるくらいには、ユーマに人の心が残っていた。
いまさら機械です。使い魔はウソです、など言いづらい。
(良いか、貸し出しは無料にしておいてやる。少しでも壊してみろ。ゴッデスポイント1900を貰い受ける!!)
1900ポイント? つまりは
190,000円!? たっか!!
ユーマの手がプルプル震える。
ドローンってそんなに高いんだ!?
実際のところドローンを買ったことが無いユーマには分からぬ。