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結局そうなる

「イヤじゃ! イヤじゃァァァァアアあぁぁああああーーーーーッ!!」

イスの上でキラキラしながら何かを期待していたマウスが吠えた。

「我は! ゴブリンを千切っては投げ! 千切っては投げしたいのじゃァぁァああああぁぁあーーーーーっ!!!!」

地団太踏み出すロリ破壊神。

 戦慄した七味の口からゴリポムチョの足らしきものが飛び出す。

 ベショっという音とたて、床にへばりつく様は千切って投げられたゴブリンの残骸を暗示しているかのようだ。


「いやいや、それはダメ! ほら、七味が怖がってる!!」

ユーマはマウスを嗜めようとするが、幼女は止まらない。

「七味は友達じゃから引き千切ったりせんのじゃぁぁぁーーーーっ!! 悪いゴブリンを千切って投げたいのじゃあああああーーーー!!!」

戦闘民族なのにこれといって戦闘できていない弊害であろうか。

 ストレスが溜まっているのかもしれない。

 だが今は遠慮して欲しかった。


「街道の砦占拠の件は教会としても認識はしています。しかし明確な被害報告があがって来ないため介入できないのが現状です」

今の今まで静観していたシシリーが一歩踏み出す。

 イスに座ろうとして汚さに眉をひそめる。

「依頼金が無いのであれば教会で出しましょう。そして明確な被害が確認できれば」

ずいっと上半身を乗り出すシスターからジャスミンぽいイイ香りがする。

「アウスティリア正統中央教会として介入いたします!」

燃えるような赤い瞳が闘争を求めていた。

 やっぱり戦闘民族じゃないか! ユーマは嘆いた。

 それは今に始まったことでは無いが、もっと気になることを言ったぞ? ”明確な被害が確認できれば”?

「明確な被害って? つまりどういう・・・・・・」

「それはもちろん貴方たちがゴブリンに襲われ、何らかの被害が出る。ということですよ?」

「いや、いやいや、待て待て」

冗談では無い。

 何が悲しくてゴブリンから被害を被られに行かねばならんのか。


 確かに話のネタになるような出来事があった方が望ましい。

 望ましいとはいえ案件は選びたい。

 それなら異界へ跳躍しました、ここはどこですかの方が無難だと思える。たぶん。

 ゴブリン砦など完全に死地では無いか。


 それに別にシシリーに武力介入して欲しくないし、なんだったらユーマにとって何の利益も無いのだ。

 正義感に溢れるマンガの主人公みたいな人物ではない。

「元々そのつもりでお話をされに来たという話ではありませんでしたか?」

疑いの眼が向く。

 ああ、そうだった。そんな感じの話にしたんだった。

 ウソをつくと更にウソをつくことになり、その内わけわからんことになる。

 大きくため息をつくと面々を見渡し、仕方なく立ちかけたイスに腰を下ろすのだった。



+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+


「うむ・・・・・・でかいな」

見上げるほどに巨大な砦は12階建てくらいのマンションを彷彿させる。

 大体5階くらいの高さまでは絶壁と言っても過言ではない防壁がそびえ、それに囲まれるように本丸に当たる部分など家屋部分があるのだ。

 で、そんな砦の下を街道が突き抜けている。

 街道上をアーチ状になった砦が跨いでいるという感じだ。

 そして街道を封鎖するように重厚そうな木造の扉が閉じている。

 ファンタジーで城門とかに付いているアレだ。


 マハールから徒歩で6時間ほどのところにあるゴブリン砦(仮)だ。

 道の両側は完全なる荒れ地だったり崖だったりして馬車は当然ながら、徒歩で移動するのもしんどそうだった。

 しかも一本道なので、どうあっても砦に辿り着くのだ。


 逆に砦付近から観察する際には荒れ地の岩の影が重宝する。

「塀の上にガイコツが・・・・・・」

ひそひそ声でミズホが指さす先には、黒々とした鉄串に串刺しにされているっぽい感じでドクロと肋骨が突き刺さっていた。

 左腕は後ろに回した状態で、右腕が肩から脱落、腰だったであろう辺りで縄で括られている。

「被害者でしょうか・・・・・・」

岩の影からウリウリが覗き、囁いた。

 無人の砦ならオブジェの名残かもしれないが、ゴブリンの巣窟になっているのだ。

「そうだろうなぁ」

そんなことを言いながら観察していると防壁上の歩き回る緑色っぽい何か。

 まあゴブリンであろう。

 七味がいないのと夜であること、かなり遠巻きに見ていることが重なり確証は得られない。

 ユーマ、ミズホ、ウリウリで現地視察もとい偵察に来ているのだ。

 奇声をあげながら突っ込んでいきかねないマウス、七味はお留守番。

 勝手に走り出さないという点では、女性2人は安心できる。

 結局、ゴブリン砦攻略をせざるを得なくなってしまったのだ。

 ひたすら断り続けるという手も無くは無かったけれど命の保証が無かった。

 それなら仕方が無いということで、とりあえず現場の下見だけでもしてみよう、と夜闇に乗じて偵察に来たわけだ。

 ぬかりの無いユーマは、事前にゴブリン砦攻略に挑んだ人たちの情報を手に入れていた。

 6ヶ月よりも前に6人の傭兵を雇った商人が攻略しにマハールを出て行方不明。

 4カ月前に若い冒険者の男女5人が向かったっきり未帰還。

 2カ月前にも3人組の冒険者の男女が向かい、それっきり姿を見た者はいないということであった。


 ことごとく全滅してる気しかしない。

 防壁上のガイコツは行方不明者の誰かのものだろうか。

 いつくらいのガイコツで、性別年齢が分かるようなスゴ技は持っていない。

 とりあえず茶ばんでいる。下半身パーツは脱落して行方不明、とだけしか分からない。

「ゴブリンかな?」

「ゴブリン・・・・・・ですね」

「あれが野良ゴブリン」

緑色の生物らしきものをよく見ようと目を細める。

 同じく目を細めたウリウリが正体を断定する。

 ミズホも目を細め、初めて見る”野良”ゴブリンに興味津々であった。


 七味よりも小柄だろうか。

 歩きスマホをしている人のような猫背&視線がやや下向けだった。

 姿勢が悪い。

「夜は活動時間帯だそうですよ」

ウリウリが岩肌に身を隠すと囁いた。

「七味は夜行性じゃないけど・・・・・・?」

少し前に夜、部屋を訪れるとダメになるクッションの上で大の字になって爆睡していたのだ。

 声を掛けても触れてみても起きることは無かった。

「七味さんは生活改善に成功したんです! 健康的です!」

むんっと両の拳を握りしめ、ミズホがいい顔をしていた。

 生活改善、なのだろうか。

 まあ、そういう事にしておこう。

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