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過激な秩序の番人チェチェリア・C・シシリー

「ふふふ、久々の冒険じゃ! 血肉沸き踊るとはこのことじゃな!」

なんか違うセリフを吐く幼女は椅子の上で高笑いしていた。

 行儀の悪い幼女をゴリラフェイスの店主が睨む。


「あれ、解決したんですか?」

そこにやってきたのは、いつの間にか姿が見えなくなっていたウリウリだった。

 普段の法衣と黒タイツだけの姿を痴j・・・・・・ではなく普段着だと言うなら今の恰好は戦闘服だ。

 法衣の上から白銀の胸当て、膝までの白銀のレッグアーマー、メタリックレッドのガントレットを付け、鋭いトゲトゲの生えたモーニングスターを携えている。

 どこから持ってきたのか見当が付かないが、まさかマハールの超価格のものを買ってきたのか!?

 ユーマは戦慄し、財布の所在を確認する。


 無い。


 とりあえず持っていた財布が無い。

 見るからに高そうな武具だ。

 ロッテンハイマーの武具屋で見た事があるけど、似たようなガントレットがひとつ20万円くらいしていた。

 で、マハールの物価はロッテンハイマーの約10倍である。

 絶望に支配されたユーマは目の前が真っ黒になった気がした。


「ごきげんよう。アウスティリア正統中央教会シスターシシリーです。こちらで不審な方々が悪事を働いているとお伺いしまして」

戦闘型ウリウリの後ろに控えていた栗毛を三つ編みにした美少女シスターが爽やかに笑った。

「ひえ! 暴力教会・・・・・・」

クレソンの小声が震える。


 にっこり。

 美少女シスターは可愛らしい微笑みを向ける。

 汚らしい食堂に咲く、一凛の可憐なる花、ではなく彼女の赤い瞳は笑っていなかった。

 危ない人の目だ。

 そんな気がする。

 悪人なら息を吸うようにコロしてしまいそうなオーラを放つ彼女は、ウリウリが所属している教会の関係者のようだ。


 神の教えのもとにヤバいことでも平然とやりそうだった。

 絶望の淵にたたずむユーマの第六感が危険信号を発する。


「なんというか、その、ちょっとした文化の違いから? 手違いというか勘違いというかそういう行き違いがありまして」

何となく凄惨な事件現場が生まれる未来が見えたユーマは適当に言葉を紡ぐ。

 財布がどうとかもアレだが、その前に迫る危機があるのだ。

 ぶっちゃけ、クレソンたちおじさんズがどうなろうともどうでも良いのだが、どうにもこうにも巻き込まれる気がしてならない。


 本件の被害者ミズホは許すと言ったのだ。

 だいぶ対処が甘い気はしたが、今はそういう事にしておいた方が無難だと判断する。

 狡猾なユーマは抜かりが無い。たぶん。

「なるほど?」

危ない方のシスターことシシリーなる少女は怪訝そうな顔を向ける。


 クレソンたちは固唾を飲んで見守り、イスの上のマウスは”お、ヤるのか?!”という期待に満ちた目で見つめていた。

 軽く拳をシュッシュッと繰り出す戦闘民族。

 やめていただきたい。マジで。

 一方、七味は素知らぬ顔でくすねたゴリポムチョを齧っていた。

 七面鳥に見えるソレの食いカスがぽろぽろ床に落ちる。

 キレイに食べて欲しい。マジで。


 このシシリーとかいうシスターは、町の警備でもしているのだろうか。

 ウリウリにアイコンタクトで ”何、この危なそうな人?” と問いかける。

 ”ついて来ちゃったんです!” 何となくそんな感じのコンタクトが返ってくる。

「せ、先輩。ほ、ほら大した事じゃ無かったでしょ。ね、ね?」

危ない人はウリウリの先輩であった。

 どうしてこの先輩とやらがウリウリに付いてきたのか、とんと分からぬが、まあ町中でガチ武装している後輩を見かけたらあり得んことでは無いな、と思う。


「本当に?」

「はい、もちろん!」

疑い深いのか、シシリーと名乗ったシスターが追及する。

 ミズホは澱みない答えを返した。

「本当の本当ですね?」

「ああ。ほ、本当だとも」

アンソニーが追撃を受けるが、回避に成功する。


「・・・・・・」

「その、アレだ。西側の街道を占拠しているゴブリンの対策の話をしていたんすよ」

シシリーの赤い眼光がユーマに向けられると、とりあえずそれっぽい話題を出してみる。

 了承はしていないが、そういう話が出たのだ。

 ウソではない。

 やるかやらないかで言うとやりたくない、が本音であった。


 生真面目というか堅物というか融通が利かないというか、行き過ぎた正義を振りかざしそうなシスターの鋭い視線が一同を見回す。

「なるほど。装備を借りに来たのはそういう事でしたか。失礼しました」

鵜呑みにしてくれた、というわけでも無さそうだったが、一旦刺すような視線から解き放たれる。


 装備を借りに来た。


 つまり高そうな武具の類は購入品では無かったのだ。

 絶望のどん底の真っ暗闇を引き裂く希望の光。

 現金なユーマは立ち直りが早かった。

 だが、武具を借りに行ったら危なそうな先輩シスターが付いてきた。という事だ。

 とんだとばっちりである。


「どうぞ続けてください」

「なにを?」

刺すような視線を解除したシシリーは何かを促す。

 クレソンが首を傾げた。

「街道のゴブリンの件でしょう? そういう話をされていたのでは?」

ジロリと周りを見渡す危険人物。

「ああ、そうそう! そうだった! ということで僕らとしては交易路を通れなくて困っているんだ。キミたちが名のある冒険者だって彼女から聞いてるよ。ええと?」

「ミズホです。おじさま」

流れるようなムーブで、息を吐くようにそれっぽい話題を展開するクレソンは役者だった。

 何故か名のある冒険者設定になっている。

 しかし今はシスターシシリーとかいう危険人物にお引き取り頂けねばならなかった。

 なぜこうも! 問題の方からトレインしてやってくるのか。

 ユーマは、この世界の運命を呪う。

「フフフ・・・・・・このマウスちゃん様がサクッと解決してやるのじゃ!」

「おお、さすが神祖! 格が違う」

マウスは平常運転。

 おじさん達が意味不明のセリフで崇め奉る。


 一向に話が進まず停滞し、どうでもいいようなやり取りが繰り広げられる中、ゴブリン砦攻略などしたくないユーマは思案する。

 なんとかして、それっぽくこの話をご破算にせねばならない。

 で、本題であるミズホの借用書を墓場に送らねば、何をしにマハールくんだりまで来たのか分からなくなる。


 ゴブリンというと七味みたいな緑色で、毛の生えてない獰猛そうなブルドッグみたいな感じのなんかだろう。

 マンガで見るような醜悪な見た目だと思っていたら、七味みたいなムキムキマッチョマンの生き物がゴブリンだったのだ。

 さもありなん。


 ユーマは幼いころ、ブルドッグにお尻を噛まれたことがある。

 故にブルドッグが苦手であった。

 というか嫌いだった。


 そんなブルドッグみたいな狂暴そうな亜人が巣食う砦。

 なんだったら知恵があり、二足歩行だったり、マンガの読みすぎかもしれないが不健全なことが大好きそうな奴らだ。

 汚らしい場所で、金品や捕まえた人間を囲って高笑いしている絵面が浮かぶ。


(・・・・・・―――!!)

 突然の閃き。

 ピキューンという音が脳内に響いた気がした。

 錯覚であったが。


「おおむね理解した。だが、依頼金が無いと言っていたな」

急に態度が大きくなったユーマは一際低い声で喋り出す。

(そういう展開か)

(ああ、見せてもらおうか。アンタの役者っぷりを)

 クレソンと目が合う。

 おっさんと完全なるアイコンタクトが成立した瞬間であった。

 ユーマはとっととお家に帰りたい。

 クレソンたちは適当にシシリーを巻いて帰りたい。

 交易が出来ないのは前からだ。一旦それは置いておく。

 目の前の利害が一致した瞬間である。


「ああ・・・・・・。そう、だな。今は金が無い。後払いでは、やはり信用ならないよな」

自然な動きで懐から取り出す証書。

「そうだな。せっかく証書を作ってもらったが」

(後払いの証書という設定か)

 ユーマは脳裏で語り掛ける。

(そういう事にした方が良い)

 クレソンの意志が伝わってくる。・・・・・・気がした。

「冒険者と言っても報酬が無ければ仕事はできない。特にゴブリン砦なんて何人も行方不明者が出ているだろう?」

それっぽい事を言ってみるが、適当な内容だった。

 実際はどうなのか知らない。


 ビリビリィ


 クレソンが証書を破るとポケットにねじ込む。

「すまない。わざわざ遠くまですまなかった」

(ということにしよう)

(そうしとこう)

 そっと目線を交わし、席を立つ。

 何となく依頼が不成立した感じだ。


 七味は知らんぷりのままゴリポムチョを平らげ、指を舐めている最中だし、ミズホは無の表情で成り行きを見守っている。

 ウリウリはすまなさそうな顔で縮こまっている。

 うんうん、このまま立ち去ってしまえば、万事うまくいくはずだ。

また危なさそうな人が登場です。

そしてユーマ×おじさんの禁断の(略)


※ 本作品はバラが咲き誇ることはありません。ご安心ください。


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