Theババ抜き~イカサマたっぷり~
「い、いかん・・・・・・勝てない・・・・・・だと?」
流行りのカードゲームとは名ばかりのいわゆるババ抜きである。
何かもっとこう、モンスターの絵札とかを出すと幻影的なヤツで疑似的に実体化するとか、そういうヤツを期待していたユーマはがっかりする。
もちろん気分が高揚して、アホな絵面を装いながらだ。
それはそうとユーマの手元にやたらとババが回ってきていた。
両目の位置がそれぞれおかしな方向を見ているファンシーなババアのイラストが煽ってくる錯覚に囚われる。
このババア、既に10回近く見ている気がする。
とにかく何だか知らないが、ババアが高確率で手元にやってくるのだ。
クレソンたち3人は徐々に手札が減っていくのに対して、ユーマの手札がロクに減らない。
手札にババアが回ってきて、ババアが相手の手札のどこかに返っていき、またババアが手元にやってくる。
まるでデイサービスに通うような絵面だ。
気のせいだろうか、とも思ったが、ババアのカードは全部同じイラストだ。
そっくりババアが何度か来ても同じババアか違うババアか判断に困る。
そんなこんなで既に負け越し5回目である。
とりあえずは、無駄に高いテンションの演技のまま、駄々をこねまくり、練習ということにしてもらっている。
いる。
「ユーマ君、そろそろ練習は終わりで良いかな?」
クレソンの眉間がピクピク動いている。
遅滞戦術も限界のようだった。
「ああ、そうだな! バシッと決めさせてもらうぜ!!」
謎のハイテンションを装ったまま人差し指を突き出し、マンガのようなカッコいいポーズを決める。
さながらどこかの決闘者のようであった。
「それじゃあ始めようか」
クレソンが配ったカードを各自手に取る。
特に小細工があるようには見えないカード。
こっそり裏側に何かマーキングでもされているのかと観察してみたが何も目立つものは無い。
まあ、そんなに単純な事はしてないだろうな。
ドラゴン幼女やゴブリンがいる世界なのだ。
きっと魔法的な何かでだまくらかされているのだろう。
一方、音もなくクレソンたちの背後に忍び寄る2人。
中盤まではそれぞれの手札が少しずつ減っていく。
ババアが回ってくることなく順調だ。
ところが、お互いの手札が5枚を切り始めた辺りで、ババアのデイサービスが開始される。
アンソニーの手札をベルナルドが取り、ベルナルドの手札をクレソンが取る。
そしてユーマがクレソンの手札を取り、アンソニーがユーマの手札を・・・・・・という感じに回っているはずだが、やたらクレソンの手札からババアが襲来するのだ。
気配が無いのか遮断しているのかクレソンたちの背後から手札を覗く幼女とゴブリン。
さらにミズホが例の謎の歩法で滑るように接近してくるのが見える。
「おっと! ボクは上がりだね!」
ベルナルドが空になった両手を万歳して笑顔を見せる。
マウスと七味がそれぞれアンソニーとクレソンの手元を凝視していた。
「ほほう? その第三の手はどこで売っておるのじゃ?」
クレソンが手札を持つ右手の袖を指差すマウス。
ユーマ側からは死角になっていて見ることが出来ない位置だった。
「カシュカシュしてて面白いですな。袖からカードが出てくるとは面妖な」
同じくアンソニーの袖口に手を伸ばす七味。
無遠慮なゴブリンの手がアンソニーの隠し腕をガッシリと掴んでいた。
おもちゃ屋に売っていそうなマジックハンドをスマートにしたみたいなソレが、ババアのカードを手札に供給している真っ最中であった。
「な、なんだい!? キミたちは!?」
アンソニーとクレソンが同時に叫ぶ。
悲鳴にも似たその声は完全に裏返っている。
「ふふん! 刮目せよ! マウスちゃん様じゃ!!」
「マウスちゃん様!?」
スク水少女は空いているイスの上に立つと無い胸を目いっぱい張り、声高らかに名乗りを挙げていた。
イカサマしているところを押さえられたとはいえ、一体マウスちゃん様とは何なのか、何をしに現れたのか。クレソンたちには皆目検討が付かず混乱していた。
とりあえず、ユーマはやれやれという表情をし、七味はアンソニーの隠し腕をもぎ取り、イスの上で仁王立ちするマウスちゃん様はキラキラ輝いている。
そして、クレソンの視界にいつぞに騙した異国の少女が目に入る。
「あ」
クレソンが間の抜けた声をあげる。
「こんにちは。そういう事です」
ミズホがクレソンの肩をガッシリと掴むと微笑んだ。
ああ、これから凄惨な事件現場が生まれるのか、とユーマは目を逸らす。
「ああ、そういう・・・・・・はぁ。何もうまく行かないな」
開き直ったり暴れるのかと思いきや、手札をテーブルに捨てた彼らは色々と諦めていた。
「イカサマしてたんですね」
「ああ、そうだよ。悪かったね」
「ボクが提案したんだ」
静かに問いかけるミズホに対して、おじさん3人が素直にイカサマを認めていた。
逃げようと思えば逃げられる位置にいるベルナルドも口を開く。
「何故ですか?」
いつグーパンチを繰り出すのかユーマがハラハラする中、ミズホが言葉を続ける。
「交易が出来なくなったん・・・・・・」
「それは言い訳だよ。アンソニー」
「しかし・・・・・・。いや、悪い。そうだな。金が無かったんだ」
ああ、そういえば西側の街道をふさぐ形で存在する砦だか要塞だかが野良ゴブリンに占拠されたんだったっけか。
ユーマは何となく聞いたような聞かなかったようなうろ覚えの記憶を手繰り寄せる。
「分かりました。じゃあ許します!」
腰に手を当てて仁王立ちしたミズホが声高らかに宣言した。
「「「「え!?」」」」
ほぼ全員が素っ頓狂な声をあげ、そして何故かドヤ顔で鼻息を荒くしている少女を凝視する。
このコスプレっぽいミニスカ巫女は何を狂ってしまったのだろう。
ユーマは首を斜め45度に傾げ、そのまま60度くらい傾けかけた。
あと素っ頓狂な声をあげたのは、クレソン、アンソニー、ベルナルドの3人だった。
5千万だったか5百万だったか適当に借用書を作ったため不確かだが、確かでたらめな借金を負わせたはずである。
それを許すと言ったぞ? とでも言わんばかりのおじさんズは全員が真ん丸のお月様みたいな目でミズホを見つめる。
「いや、許してもらえるのはありがたいが、金は返せないぞ・・・・・・。交易路も絶たれているし・・・・・・」
アンソニーの視線が泳ぐ。
「いいです! 本当の悪人さんじゃなかったので許します!」
それに、と言葉を続けるミズホの熱い、キラキラした視線がユーマを見つめる。
イヤな予感がする。
謎の直感がユーマを襲う。
「こちらにいらっしゃる方をどなたと心得ますか!?」
どことなく芝居がかった口調でユーマを指差すミズホはどこかの御老公一行のセリフみたいなものを口にする。
「観光客のにいちゃん?」
ベルナルドが答えるとミズホは、ドヤ顔のまま首を横に振った。
「ユーマ・トワイライトさん! 困っている人を助ける凄い人です!!」
「いや別に困ってい」
「ふふふ、そうじゃとも! このマウスちゃん様のぱーてぃーに掛かれば、お主らの問題など指先ひとつで解決じゃ!!」
絶対面倒ごとに巻き込まれるヤツだ!
瞬時に判断したユーマが否定しようとしたところにマウスちゃん様が言葉をかぶせてくる。
「安心召されよ。同じゴブリンとして狼藉を働く輩を野放しにはいたしませんぞ」
アンソニーの右肩にもたれかかるようにしたドヤ顔をする七味が不敵に笑う。
おまえもか。