男4人、ゲテモノを食う
「クレソン! っと、新しい友達かい?」
話の途中で新手がやってくる。
肌黒い顔に赤い刺青を入れた短髪の男。
仕事疲れであろうか、げっそりと痩せこけた長身の男が続く。
「アンソニー、ベルナルド! ああ、彼はニッポォーってところから観光に来たユーマ君だ」
クレソンが親友たちとハグ。
「そうか観光か! いいな! ボクはベルナルド。クレソンと貿易をやってるんだ」
肌黒い男は少し若く、20代だろうか。
白くきれいな歯がキラリと光る。
「アンソニーだ・・・・・・。すまない、寝不足でね・・・・・・」
げっそりした男は30代くらいだろうが、やつれた感じのため40か50代に見えないことも無い。
とりあえず握手を交わしたユーマたちは、何故か一緒のテーブルで昼食を食べることとなった。
ベルナルドは移民の出で社会的に弱い立場にあったらしいが、今では貿易で儲けているらしく地位は安泰だそうだ。
アンソニーは、病に侵されているものの具合が少しでもいい時は貿易商の手伝いをしているらしかった。
「ドラゴンテイルのポタポタ焼き 香味野菜を添えてお待ちどうさまでーす!」
金髪をお団子ヘアーに結った美少女ウェイトレスが料理を運んでくる。
両手に大皿を4つ乗せ、軽やかなステップを踏む彼女はもはや達人であった。
見えそうで見えない短いスカートが風に舞う。
なるほど。
ゲテモノ料理でもかわいい子がいればお客がくるのか。
ユーマは冷静であった。
「それとリキッドワームのモルティ―ネドラゴラソースを添えて! それとぉー、クリムゾンアントのミソ カッパーソース仕立て! ゴリポムチョの丸焼きですね! ご注文は以上でよろしいデスねー?!」
テーブルの上に並ぶ怪異達。
ドラゴンテイルはみたまんま分厚いチャーシューだった。
赤紫の怪しいソースがベッタリと掛かっている。
匂いは、焼き肉のそれだった。
大根サイズのイモムシが乱雑に刻まれ、黄緑色のソースがどっぷり掛けられているのが『リキッドワームのモルティ―ネドラゴラソースを添えて』だ。
絶対マズいヤツだ・・・・・・。
別途、ソースが容器になみなみと注がれている。
きっとワームがクソマズいのだろう。
そもそも見た目からしてゲテモノである。
カラフルなイモムシ、もとい毛の無い毛虫みたいなヤツが香ばしい香りを放っている。
その隣にバスケットボール大の赤いアリの頭が皿に乗っている。
頭部の殻が楕円形に切り取られており、中に脳みそが詰まっていた。
別容器で錆色のソースが添えられている。
これまたゲテモノである。
そして最強のゲテモノ『ゴリポムチョ』。
体長25cmほどの小人というか人型をした何かが、ヤ●チャして倒れたような形のまま、カリっと揚げ物になっていた。
例えるなら小人のから揚げである。
例えなくても小人かもしれない。
オウエエエー、とか言いそうになるユーマ。
『ゴッデスポイント50を消費して視覚フィルターを有効化した』
『ゴッデスポイント50を消費して味覚耐性を付与した』
『臭気耐性を付与した』
『薬物分解を付与した』
『精神洗浄を付与した』
頭の中で立て続けに機械じみた声が聞こえ続ける。
ついに狂ってしまったのかもしれない。
一応は、ここに来て長らく機能していなかったバフが発生しているのだろう。
とりあえず色々付与される内容がおかしかったが。
少し間が空き、ゴリポムチョはでっかい七面鳥に見えるようになり、ワームは巨大ソーセージに、アントの脳みそがプリンに見えるようになった。
なおドラゴンテイルはドラゴンテイルのままだった。
もはや錯覚なのか視覚フィルターなのかはどうでも良いが、ゲテモノを見なくて済むことだけは事実だ。
「さあ、飯にしよう!」
クレソンが掛け声をかけると、みな一斉に食べ・・・・・・はじめていなかった。
切り分けたり、掬ったりするものの口に運ばず、皿の上を右から左に移動するだけ。
ドラゴンテイルを恐る恐る齧るユーマは気付いていなかった。
触感はソーセージ。外側の皮がパリッと仕上がっており、中の肉はほど良い弾力がある。
じゅわっと肉汁が口いっぱいに広がり、正直悪くなかった。
アタリだな、と思う反面、味覚耐性なるものが付与されていたことを思い出す。
「いい食べっぷりだね! そうだ、モルティ―ネドラゴラソースを掛けてみると良いよ! 実はマニアご用達の組み合わせでね」
ユーマの返事を待たずに黄緑色のソースが掛けられていく。
まあ試しにいってみるか。
特に悪い気がしなかったユーマは、黄緑色と赤紫のソースが混ざり合ったテイル肉を齧る。
舌がピリピリ痺れるような感覚がし、突き抜けるような肉の旨味が体中に広がった。
「なんだこれ! すごいな! 肉、焼き肉に満たされているみたいだ!!」
白いご飯があればいいのに、などと思いながらバクバク暴食してゆく。
段々と気分が晴れ渡るような、高揚するような気がしてきて、今なら何でもできそうな、そんな気分に襲われる。
「そうそう。ユーマ君、マハールでは食後にカードゲームで遊ぶ風習があってね。どうだい、君が買ったら食事代全部と賞金をプレゼントしよう!」
気分が高揚しているユーマのわずかな理性が危険信号を発する。
が、
「いいね! やろう!」
割とすんなり乗るポンコツであった。
ユーマの心は燃え滾っていた。
今なら大体なんでもうまく行くような気がする!
とか思・・・・・・いかけたものの薬物分解が機能しているのか、だんだんと冷静になっていく。
さっき会ったばかりで、特に何か親交があったわけでも無い相手の食事代を出した上に賞金までとか胡散臭すぎる。
胡散臭すぎるが、ここはノリノリで対応せねばならないのだ。
視界の隅でクレソンを指差したミズホが謎のジェスチャーを行う。
(そいつです)
(そいつです)
きっとジェスチャーとアイコンタクトは完璧だろう。
ユーマがひそかにうなずいた。
続いてミズホは何かを引き延ばすような手ぶりをし、叩くような動きにシフトする。
(ユーマさん、とにかく時間を稼いでください)
(そいつを引き延ばしてボコボコにしたいです)
なるほど、おとなしそうに見えて過激だな。
ユーマは再びひそかにうなずく。
何かをかき回す、というか括り付けるような手ぶりをし、そっと移動し始めたマウスと七味を指差した。
(たぶんイカサマをしています。マウスちゃんと七味さんが証拠を押さえます!)
(首に縄を掛けて引き回してやる・・・・・・? とマウスと七味が・・・・・・? 野蛮だな、あいつら)
ニュー●イプでも何でもない2人の意志相通は、完璧にダメダメだった。
ダメダメなまま、ユーマは野蛮人たる仲間たちが、クレソンたちを強襲するのを待つため一芝居打つことにした。
元々、そういう流れなのだから予定調和であった。