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ゲテモノと珍味は紙一重

「旅行者は大体ここのお店を紹介されてやってくるんです。珍味が安価で食べられる良識的なお店だって・・・・・・」

「珍味どころかゲテモノ」

恐らくそのゲテモノを食べてしまったであろうミズホの視線が泳ぐ。

 すかさず思った事が口に出てしまうユーマは、クサさで心が荒れていた。

「ここでゲテ・・・・・・珍味を食べていたら男たちがやってきたんです」

「・・・・・・」

「親切そうに話しかけてきて、この国で流行っているゲームをしようって誘ってくれて」

「・・・・・・」

「ゲームに勝てば食事代を奢ってくれて賞金もくれるって」

「・・・・・・」

「お断りしようとしたんですけど、グイグイ押されて、気付いたら多額の借金が・・・・・・」

「・・・・・・犯罪の香りがする」

どこかで見たような雑な手口だ。

 やはりミズホはチョロインであったようだ。

「常駐してるわけでも無さそうです・・・・・・」


 どうやら件の連中はカモがいないと現れないらしい。

「なるほどの。つまりは誰かが囮で食事をせねばならんということなのじゃ!」

 

 なんだと・・・・・・!?

 ユーマをはじめ、全員に衝撃が走る。


 ごくり。


 誰かが生つばを飲み込む。

 間違っても美味しそうだからとかいう意味合いでは無いだろう。

「私はダメですね・・・・・・当事者なので顔が割れています」

ミズホの先制攻撃。

 一抜けたがさく裂した。


 変装すれば行けるだろ、とか誰も突っ込まない。

「某もダメであろう。ゴブリンが飯を食っていて寄ってくるとは思えませんな」

もはや早押し状態である。

 七味が逃げ出した。

 もっともらしい理由を付けて。


「我もダメじゃな―。こんな美少女が1人でいたら拉致されてしまうからのー」

流れるようなムーブでマウスが離脱する。

 自分で美少女とか言い出すあたり、ちょっとアレであった。


 見つめ合う目と目。

 ウリウリの澄んだ瞳とユーマのメンドくさそうな視線が交差する。



 きっと4抜けたをかましたいのだろう。

 何かを訴えるような澄んだ視線にユーマはうんざりとした。

 何が悲しくてゲテモノを食わねばならないのか。

 イヤだなーと思った矢先、ウリウリが口を開く。


「その大役! 是非、私が!!」


 驚きに満ちた全員の視線が注がれる。

 視線の先には、怖いもの見たさというか異次元への挑戦心に燃えるHENTAIの姿があった。


 そうだ、そうだった。

 すっかり忘れていたが、ウリウリというシスターはHENTAIというかドM思考だったのだ。

「先輩・・・・・・ッ!」

ミズホがキラキラした目でウリウリを拝み始める。

 先輩ってなんだ。


「さすがウリウリ殿・・・・・・すさまじい自己犠牲・・・・・・」

七味がよろよろと後ずさる。

 自己犠牲って!!

 本音が溢れるほどに七味は驚愕していた。


「やめるのじゃ! 死んでしまうぞウリウリ!!」

涼しげな顔をして知らんぷりを決め込んでいたマウスも顔色を変える。

 みんなの本音が駄々洩れていた。

 店の中からゴリラのような人相の店主が怖い顔で視線を投げかけてくる。


「よせ! 絶対だまくらかされて借金が増えるだろ、これ!」

別の意味で心配し、待ったをかける。


 人の良さスペック的に事故が起こる可能性に満ち溢れていた。

 異世界に来てから金にがめつくなったユーマは、思わず叫んでいた。


 残念そうな表情のウリウリ。

 じゃあ誰が囮を、と誰ともなく呟き、ユーマを一斉に見つめた。

「・・・・・・」


 ウリウリかユーマしか候補がいない状態で待ったを掛けたのである。

 当然というか当然、候補はユーマしかいなくなっていた。


 ゴリラフェイス店主の眉間にシワが寄る。

 かなり離れているはずが、肌で殺気を感じる。

(オマエ ヲ リョウリ シテヤロウカ?)

刺すような視線と共に殺意の波動がユーマを襲う。


 注がれるみんなの視線。

「仕方がない・・・・・・。これも運命か」

天を仰ぎ見ると店の天井から首の無いニワトリっぽい何かが逆さ吊りにされていた。

(ハ●ーン様助けて)

都合の良い時は神に頼る俗物。

 しかし神からの応答は無かった。

「ええいままよ!! これも話のタネになるな!!」


   -+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-


 謎のプレートにメニューが記載されている。

 ギトギトした何かがべったりと付いたメニューを指でつまみあげる。

 汚くて、すでに食欲とかそういうものは戦死した後だった。


★今日のおすすめメニュー★


 ・クリムゾンアントのミソ カッパーソース仕立て 6シルバー


 ・デスワームの蒸し焼き 絶品グリーンソースを絡めて 8シルバー


 ・ポイズントードのあぶり焼き 香味野菜とともに 5シルバー


 ・モンキーヘッドの姿焼き ミソスープ添え 9シルバー


 ・ミステリー丼 真理開闢 12シルバー


 ・キノコのソテー 4シルバー


 地獄だ。


 背中から変な汗が噴き出す。

 オススメメニューを見ただけでまともそうなのが一つしかない。

 しかも値段が下は4000円、上は12000円とランチにしては高すぎた。

 まるで赤坂の高級料亭である。値段だけ。


「ど、どれにしようかなー・・・・・・」

今はどこか田舎からやってきた観光客を装わねばならない。

 物珍しい料理を見て、ワクワクしている感を出さねばならないのだ。

 うわずった声は若干震えていた。


 店の奥の方で仲間たちが様子をうかがっている。

 ウリウリが小さくガッツポーズを送ってくる。


 ・ゴリポムチョのバターモキュキュカレー 3シルバー


 ・採れたてトウゾクの丸焼き 15シルバー


 トウゾク・・・・・・盗賊?

 丸焼き?

 憲兵に捕まった盗賊が断末魔をあげながら火炙りにされる様が目に浮かぶ。

 野蛮過ぎる!!


 両手がカタカタ震え出す。

 明らかにまともそうな料理が無い。

 これはマズい・・・・・・。


「にいさん観光?」

変な汗がダラダラと流れるユーマに声を掛ける男が1人。

 振り返ると人の良さそうな30代くらいのおじさんが立っていた。

 件の不審者か?! と舐め回すように観察するが、どうみても普通のピーポーである。

「ああ、物珍しいものが食べられるって聞いて」

咄嗟に田舎から出てきた観光客を装うユーマは演者であった。

「ほう! で、どれにしようか悩んでるってとこかな!?」

横の席に腰掛けると親し気に笑いかける。

 手元のメニューを一瞥するとひとつの料理名を指差す。

「こいつが今は旬だぜ」


 ・ドラゴンテイルのポタポタ焼き 香味野菜を添えて 9シルバー


 まともなのだろうか。

 他がおかしな食材ばかりなので、まともに見えないことも無い。

 ドラゴンテイルというとそのままの意味だとドラゴンの尻尾である。

 マウスのプリティなお尻が浮かぶ。


「じゃあ、これにしようかな」

このままでは、この世の終わりみたいなメニューを見続けるハメになる。

 ダメもとで人の良さそうなおじさんに賭けてみたのだ。

「ところで、ええと?」

親し気に接してくるおっさんの名前を聞いていなかった。

「ああ、悪い悪い。オレはクレソンっていうんだ。貿易商をやっていてね。珍味にも詳しいんだ」

ガハハと笑うおっさんは野菜みたいな名前だった。

「ユーマ。ユーマ・トワイライトだ。ニッポンってところから来たんだ」

「ニッポォー? ほう、聞かん地名だな。まあ、よろしくな」


 何でも珍味の虜になってしまったらしく、週に一度は食べないと落ち着かないらしい。

 クレソンも怪しい料理を注文し、たわいない話に花を咲かせる。

 幼いころに流行り病で両親を亡くし、教会のお世話になったあと商人になった。

 そこから少しずつ成功を重ね、今やっと”西側諸国”との貿易で儲かってきているという事だった。

 同じ仕事をする仲間が2人ほどいて、今日は珍味の店で落ち合う事になっているという。

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