大乱闘の果て
「ソロソロ時間ダ! 最高ノ イチゲキヲ見セテミロ!!」
仁王立ちした巨人がふんぞり返り、ユーマ達を煽った。
「分かりました!! 一番! ミズホ行っきまーす!!」
あ、その技は服がビリビリになるヤツ!
ユーマはぎょっとすると同時に止めようとしたが、間に合わなかった。
薙刀を斜め下に構えたミズホが宙に舞い、空中静止。
からの
「はあああぁぁーーーーっ!!! 月下紫電!!」
なんか知らないが、技名が付いていた。
そのまま巨人に突っ込むと大爆発。
轟音と爆風が、草原を駆け抜ける。
巻き上がる土の塊と砂ぼこり。
バラバラと降り注ぐ残骸の中、悠然と巨人が仁王立ちしていた。
「クハハハハ!! 愉快、実二愉快!!」
残念、犠牲の割に無傷であった。
その足元にヤ●チャみたいになったミズホが目を回して倒れている。
短い袴が破れ、さらに短くなり、見えてもいいパンツことスパッツがビリビリに破れていた。
ユーマはガックリと首を垂れる。
町を発ってわずか1日と5時間くらいで人目をはばかる格好になってしまうとは。
何たる失態! 万死に値・・・・・・はしない。
「フフフ、ぬしよ。我は一味も二味も違うぞ」
腕組みをし、両足を肩幅に開き、上半身を斜め15度くらいに逸らした幼女が不敵に笑う。
マウスは体にパリパリと金色の電光を纏っていた。
さながらサ●ヤ人の変身前のようである。
「掛カッテ来イ!!」
のしのしと前進するとマウスと相対する。
「ユーマよ!! 行くぞ!!」
巻き込まれるユーマは嘆いた。
ドラゴンと巨人のガチバトルに強制参加させられたのである。
マウス相手基準で巨人からカウンターを頂けば、一般ピーポーなユーマは木の葉のように吹き飛ぶであろう。
「いやいや待て待て!」
制止を聞かない幼女の背中からドラゴンっぽい翼が生えると飛翔する。
「必殺のぉ!! アトミックゥゥゥゥ爆★砕★砲ォ!!! なのじゃーーーーッ!!!!」
こちらもダサい技名を叫び、繰り出されたのは、いつぞのキノコおじさんを消し飛ばしたブレス攻撃だった。
ブレス攻撃だが、両胸の前に構えた手のひらから青白い雷電を伴うビームが照射される。
「グワアアアアアアアーーーーーッ!!!」
仁王立ちしたままの巨人が閃光に消えていく。
ユーマの保有ゴッデスポイントがガクッと減ってしまった。
「あああああーーーーー・・・・・・ッ!!!」
ユーマの嘆き声が巨人の声と合わさり、何とも言えぬハーモニーを奏でる。
一種の芸術である。
そう、何の因果か幼女がブレス攻撃を使うとユーマのポイントが減るのだ。
さながらマウスが大技を使うための電池状態であった。
一際、激しい閃光が走り、大爆発。
「フフフン! すごかろう!! 技名はウリウリが考えてくれたのじゃ!! センスあるのう」
もうもうと土煙が舞う中、ふわりと着地したマウスがドヤった。
ダサい技名はウリウリ作であった。
「なんというか、ダサいネーミングだった・・・・・・」
制止を振り切り、勝手にポイントを消費されたユーマはチクチク言葉で報復するせこい小物であった。
「んなっ!? ダ、ダサい・・・・・・」
大きく目を見開くと幼女がショックを受ける。
「ダサイガ悪クナイ一撃ダッタ・・・・・・!」
やがて視界がひらけると表面がこんがり焦げた巨人は同じ場所で仁王立ちしていた。
カッと目を見開くとディスりつつも称賛する器用なヤツであった。
次の瞬間、巨人は踵を返す。
「残念ダ。時間二ナッテシマッタ・・・・・・」
悲しそうな目でどこかを見つめたあと、トボトボと歩き出す。
「遅れて相済まぬ!! 某ゴブリン族が闘士スゥジゥィヴィー・ロゴ・ヴォヴェル!! 迷子から帰参仕った!!」
全てが終わりそうになったその時、もうもうと土を蹴り上げ、七味が帰って来るや否や名乗りを上げる。
どうやら迷子になって、あちこち走り回ったらしかった。
玉のような汗が全身から噴き出していた。
「どこへ行かれる?! 貴殿、逃げるのか!?」
「逃ゲルンジャナイ、帰ルダケダ。残業手当ガ出ナイ」
一度だけ振り返った巨人が真顔で言い放った。
え、なんて?
残業手当?
「一時間分ダケシカ依頼料ヲモラッテ無イ。ワイハ帰ル」
生々しいセリフがユーマの思考を停止させる。
来た時とは逆に巨人は、両足に力を込めるとバネのように空高くジャンプ。
物理法則を無視したヤツは、どこまでも青い青い空の彼方へ飛び去っていった。
さながら3分間経ったら帰っていく光の戦士のようだった。
「む、無念!! 某、何も! 何もできなかった!!」
エンカウントと共に投げ飛ばされ、迷子になり走り回っただけの七味がガックリと肩を落とす。
色々な理由から全滅したっぽいパーティーの面々を見渡し、ゴブリンの慟哭が空に消えていった。
「いったい・・・・・・なんだったのじゃ・・・・・・」
よろよろと立ち上がったマウスが呟く。
特段ダメージを受けたわけでは無い。
技名がダサいとディスられただけだ。
「さあ・・・・・・」
神様が面白半分で送り込んできた刺客などとは口が裂けても言えぬ。
「きっとまだ見ぬ魔王の尖兵だったんだろ。うん」
この世界にいるのかも分からない魔王の仕業ということにした。
それと共に技名の事には、再度触れない優しさ溢れる紳士的対応だ。
さて、と独り言を言ってユーマは頭を抱える。
野盗に襲われたみたいに衣服がはだけたミズホが目を回して気絶しており、伝線した黒タイツに包まれたおみ足が露わになっているウリウリがスヤスヤ居眠りをしている。
マウスもブラウスがゴミになり、スク水にスカートという最初のコスチュームになっていた。
ひっくり返ったカバンから中身がこぼれ、草原のあちこちに散乱している。
「一度、帰ろう」
1日と4時間歩いて来たが、こんな状態で旅を続けられない。
仕方ないので帰ることになった。