大乱闘スマッ●ュ●ラザーズ
じりじり
ユーマは、とりあえず中腰で事の成り行きを凝視する。
数メートル先にウリウリの両手を掴んでぶら下げた赤黒いデブの巨人。
“何か刺激を”と、天井の神ハ●ーン様に願ったらやってきたヴォヴォンガ・オレオレオ・アッポポテイとかいうヤツだ。
瞬く間に戦闘民族3人が倒され、ユーマに死合えと強要してくる。
ウリウリは人質にされていた。
イライラ
中腰のまま微動だにしないユーマに巨人は、苛立ちを感じていた。
だが苛立ちのまま、人質をポッキリへし折ったりしない紳士であった。
ロッテンハイマー郊外の草原を涼しげな風が吹き抜けていった。
そのまま時間だけ刻々と過ぎてゆく。
「きゃーたすけてー」
とりあえず、ウリウリが黄色い悲鳴をあげる。
じりじり
イライラ
それでもなお、中腰のまま微動だにしないユーマ。
「・・・・・・のう、続きやっていいのかの?」
ブラウスが破れて、スク水姿に戻ったマウスが戻ってきて様子を見ている。
服は破れてもご本人にはケガ無しであった。
「どうすれば良いんですか?」
同じく戦列に復帰したミズホが薙刀を構え直す。
会敵早々に投げ飛ばされた七味は一向に帰ってこない。
どうしたものか。
「・・・・・・」
沈黙を破ったのは巨人だった。
イライラした顔でウリウリの法衣の裾を摘まむとおもむろに引き千切る。
まるでお菓子の袋を破るようにだ。
ビリビリィ
前垂れのようになっている部分が、裂かれてむしり取られる。
黒タイツに包まれたおみ足が露出した。
ウリウリが驚いたような、恍惚としたような、よく分からない顔をしていた。
(やはりHENTAIシスターは、ドMなのだろうか・・・・・・)
首を傾げるユーマの前にポイっとウリウリを投げ捨てると咳ばらいを一回。
「サア、シアオウゾ!!!」
ユーマを煽っても戦おうとしないことに落胆した巨人がマウスたちに向き合う。
そして駈け出した。
大地を蹴ると土くれが飛び散る。
「のじゃーーー!!!」
「てやぁーーーーー!!!」
動き出した巨人を確認したマウスとミズホも駆け出していた。
相変わらずベイ●レードのように4本の腕をブンブン振り回して戦う巨人に対して、立体軌道で飛び回るマウス。
舞うように薙刀を振るうミズホ。
しかし、豊満な肉体に薙刀の刃が通らず、泥臭い殴り合いに発展していた。
「ゆ、ゆーま様・・・・・・」
ウリウリがか細い声でないた。
もしや当たり所が?!
心配して駆けよってみると、よよよとユーマにしなだれかかり、
「ユーマ様・・・・・・私、満足しました・・・・・・」
HENTAIシスターは、ウフフと頬を紅潮させながら笑うと力尽きた。
髪の毛が乱れ、タイツが伝線し穴が開いていた。
大変えっちであった。
「ウリウリーーーーィ!!」
慟哭が青空に消えていった。
ユーマには何が満足したのかさっぱりだった。
彼女は微笑を湛えたまま微動だにしない。豊かな双丘が上下に動いているので死んだフリのようだ。
「なんだこの茶番は・・・・・・」
ユーマは殺意無き大乱闘スマッ●ュ●ラザーズを見ながら唖然としていた。
確かに変化を望んだが、こんな茶番があって良いのだろうか。
むしろ今じゃなくていい。
暑くて倒れそうなのに更に暑くされるなど冗談では無い。
ウリウリを腕に抱えたままユーマが立つ。
「きゃ♡」
片目をうっすら開けて状況確認したウリウリの甘い声が聞こえる。
決意に満ちたユーマはウリウリをお姫様抱っこしていたのだ。
「・・・・・・」
顔を少し赤らめて様子を伺っていたウリウリと目が合う。
スッと彼女が死んだフリに戻る。
ユーマは無言で腕に抱えていたそれを草原に安置。
マウス、ミズホ、巨人が、ドッスンバッタン乱闘を繰り広げる戦場に近付くと声高らかに宣言した。
「ユーマ・トワイライト参戦ッ!!!」
カッコいいポーズを決めると全員の視線が注がれる。
ゾクゾク。
ユーマは身震いした。
注目されるというのは、こんなにもエクスタシーなものなのか!
変な性癖に目覚めそうだった。
「オマエ! ヨイ心意気ダ!!」
巨人が不敵に笑う。
団子みたいな鼻から血が出ていた。
ほっぺにミズホの手形もみじマークが付いていた。
「「えええ―――ッ!?」」
女子2人が驚きの声をあげる。
非戦闘員が声高らかに乱入してきたのだ。
当然の反応である。
ユーマには勝算があった。
ハ●ーン様が面白半分で投入してきた“敵役”の巨人だ。
さっきから見ていると致命的な攻撃は一切繰り出してこないし、トドメを刺せそうなタイミングもすべてスルーしている。
つまり非殺の大乱闘スマッ●ュ●ラザーズなのだ。
とどのつまりスポーツ!
となればスポーツチャンバラで鍛えた剣技を披露せぬわけにはいかぬ。
そもそも死闘なら最初からみんな全力になるはずである。
悠長な名乗りなどせずだ。
かくして読みは正しかった。
巨人が繰り出すパンチは相対する相手によって強弱を変えてくる。
マウス相手だと全力だし、ユーマ相手だとガードして受け切れるくらいだった。
「キエエエェェェーーーイ!!」
ユーマは剣など持っていなかった。
ウリウリから受け継いだ(強奪した)ハンマーの鈍器部分をパージ、ただの棒切れを振り回していた。
「ハハハハ!! 楽シイナ!!」
巨人の顔はイキイキとし、振り回される棒を受け流す。
完全に遊ばれているが、ユーマも割と楽しかった。
恥も外聞も気にせず、大乱闘を繰り広げる。
青春の汗が飛び散る。
吹っ飛ばされたマウスやミズホが宙を舞う。
戦場を文字通り熱風が駆け抜ける。
もうお昼前だ。
ウリウリは爽やかな顔でスヤスヤ寝息を立てていた。
七味はいまだに戻ってくる気配がない。