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旅ときどき巨人

 突き抜けるような青い空、どこまでも続くかのような緑の丘、爽やかな風が吹く中、ユーマ達は南へと歩を進めていた。

 歩いてきた道の後ろにロッテンハイマーの街並みが小さく見えていた。

 小高い丘の斜面に造られたロッテンハイマーに対して、ほぼ平坦な道がひたすら南に続く。


 陽の光がジリジリと一行を炙る中、汗でおでこに髪の毛が張り付いた幼女が口を開いた。


「のう、我は飽きてきたのじゃ」

流れる汗でスク水がお肌に張り付いたマウスがグチる。


 歩き始めてから1日と4時間。

 ひたすらに同じ風景が続き、スライム的な何かすら出てこない牧歌的かつ平和ボケした旅に飽きても不思議ではない。

 変な奴らに襲われたくないなぁなどといらぬ心配をしていたユーマでさえ、変化が無さ過ぎてグロッキー気味なのだ。

 精神的にくじけそうだが、それよりも足が痛い。



 七味に至っては足元の砂利を数えながら歩くという虚無モードに入っているし、シスターウリウリは糸のような目でどこかを見つめている。

 2人のおでこに汗が浮かび、流れ落ちていった。


「オレもだ・・・・・・」

ユーマが相槌を打つと、隣を歩くミズホが深くうなずく。


 昨日までは、はしゃぐ子犬のごとく動き回っていたのに、今や布に包まれた薙刀を杖代わりにしてフラフラ歩いているようなありさまだ。

 結局ノースリーブのままのミズホの肩に汗が浮かぶ。


 幸い初夏ということもあり、驚くほど暑い、ということも無い点だけが救いだった。

 まあ炎天下、遮るものもないので暑いは暑いが。


 ユーマ達は、ミズホに謎の大借金を負わせた相手を求めて、南の商業都市マハールに向かっていた。

 ロッテンハイマーから南に約80kmほどのところにあるとの事だが、都市間を行き来する乗合馬車の類は無い。

 というのも商人が買い付けた品をロッテンハイマーに持ち込みに来る事はあっても、わざわざマハールくんだりまで出掛けていく人が少ないためである。



 ぶっちゃけ巨大穀倉地帯に放牧、グヌッフ河で魚が獲れるロッテンハイマーは完全に自給自足していた。

 市内に温泉が湧いているし、多種多様な職人が住んでいるのだ。

 わざわざ、よその商業都市に出掛けるメリットが無い。


 そんなこんなでロッテンハイマー発、マハール行きの乗合馬車は存在しなかったのである。


 そうなると歩くしかない。


 ということで昨日、屋敷の戸締りをした一行は夜営を一度はさみながら一路マハールに向かっているのだ。


 とはいえ同じような風景が続き、色々と飽きてきた。

 すると今度は気力が削れてきて沈黙が支配するようになる。


(そろそろ変化が欲しい。ハ●ーン様、なにか! なにか変化を!!)

だんだん暑くなる中、ユーマは神に念じる。


 何でも良かった。


 とりあえず変化があれば気が紛れるだろうと思ったのだ。


『よかろう。試練をやろう。乗り越えてみせよ!』

突き抜ける空からハ●ーン様の声が降ってきたような気がした。


(試練・・・・・・?)

空を見上げたユーマの視線の先に黒々とした塊があった。

 というかどこかからか飛んできたのだ。


 ドズゥゥゥ―――ン!!


 謎の塊がユーマ達の鼻先に着地。

 もうもうと砂ぼこりが舞う。


「・・・・・・失礼した。お、おわぁーーーーーーーー!!!!」

足元の砂利を数えながら歩いていた七味が塊にぶつかる。

「オマエ、ヨソミカ? マエヲ見テ歩ケ!!」

塊がむっくりと体を起こすと身の丈3mほど、腕が4本、赤黒い肌は下腹がたるみ雄っぱいが豊満だった。

 七味と同じような顔だが、彼が二枚目なら塊の方は超絶ブサイク。


 足にぶつかった七味を摘まみ上げると一喝した後、投擲。

 七味が草原の彼方に消えていった。


「ワテノ名ハ、ヴォヴォンガ・オレオレオ・アッポポテイ!! 栄エアル巨人族ノ闘士デアル!!」

塊もとい突如湧いてきた巨人が仁王立ちするとガハハと豪快に笑う。


(なんでやねん!!)

ユーマは心の中で神にツッコんだ。

『ふふふ、たまにはたくましいところを見せてもらわんとな』

天上の神の楽しそうな声が脳裏に響く。


「わー、ジャイアントですよ! 弱い方の!!」

糸目になっていたウリウリが正気を取り戻すと叫んだ。

「おお、面白そうなヤツなのじゃ!!」

死んだ魚の目になっていたマウスがイキイキとし出す。

「・・・・・・ハッ! 敵襲ですか!? すみません! ぼんやりしてました!!」

一呼吸遅れてミズホも臨戦態勢をとる。


 視線を感じる。

 ヴォヴォなんとかという巨人と残り3人の。


「わ、わー。巨人だー! ・・・・・・これで良いか?」

どうやら心の中でツッコみを入れただけで無言だったユーマを気遣ってくれたらしい。

 いや、そんな気遣い無用だから!!


 ユーマは心の中で嘆く。


「名乗レ! 小サキ者タチヨ!!」

巨人が臨戦態勢を取りつつ、名乗りを強要する。

 心は武士だった。


「我はマウス! 超絶美少女じゃ!!」

「私はウリウリでっす!! 同じく超絶美少女です!!」

「あたしはカムイド ミズホ!! 同じく超絶美少女です!!」

各々ファイティングポーズを取り、視線だけユーマに注ぐ。


 目と目が合う。


(オマエ、サッサトナノレ!)

巨人の鼻息が聞こえてくるようである。

(ユーマ様! はやく!)

ウリウリがよからぬことを考えている顔をしている。

(お肉食べたい)

豊満なお肉を見たマウスの心の声が漏れていた。

(あたしは馬車馬あたしは馬車馬あたしは馬車馬)

呪いの声が聞こえる。


「・・・・・・」

どうしたものか。

 ユーマは考える人のポーズで固まる。

「・・・・・・」

 4人の熱い視線が注がれる。

『どうした? ユーマよ。フフフ・・・・・・』

ええいままよ。


「オレの名はユーマ! ユーマ・トワイライト!! ただの一般人だ!! 非戦闘員だから戦闘民族同士で戦ってくれ!!」


丸投げした。


 しかし的確に必要な事は伝わったはずだ。

 満足げなユーマを見なかったことにした巨人が駈け出した。

 お腹のお肉がブルンブルン揺れる。


 繰り出される拳を薙刀の柄で防いだミズホが後方に吹っ飛ばされた。

「ハハハ!! 闘争ノオモムクママ二!!!」

巨人が4本の腕を振り回す様は、ベイブ●ードのようだった。


「戦略的撤退!!」

情けない声をあげたユーマは数メートル彼方へ走って逃げる。

 戦闘民族でもない一般ピーポーがヘンタイ巨人の相手などしてられぬ。

 一目散に駈け出していた。


「おうともよ!!」

逆にマウスは地を蹴り、跳躍するとグルグル回る巨人の顔に拳を叩きつける。

 一瞬、巨人は苦痛に歪んだ表情をしたあと、マウスの尻尾を掴み、ぶんぶん振り回したあと投擲。

 地面に叩きつけられたマウスは、若草付きの土くれと共に宙を舞う。


「そーーーれッ!!」

腰を落として、低い体勢を取ったウリウリがいつぞの大玉スイカ3個分くらいのハンマーをフルスイング。

 ブルンブルン揺れる豊満なお腹の肉にめり込み、そして弾き飛ばされた。

「きゃあああーっ!!」

ウリウリの黄色い悲鳴が響く。

 ハンマーもろとも吹っ飛ばされ、草原をごろごろ転がる。


「フハハ――ッ! 鋼ノ肉体ニハ効カヌ!!」

ぼよよんと揺れる鋼の肉体。

 形状記憶合金的な意味合いだろうか。


 ずしずしと転がったウリウリに近付くと掴み上げ、ユーマに見せびらかすように掲げた。

「戦エ! 青年ヨ!! サモナクバ コノ娘ヲ辱メル!!」

「あわわわーっ! 大ピンチです!! たすけてゆーまさまー」

吊るされたウリウリが頬を紅潮させながらイキイキとしていた。

 “たすけて”の下りはほぼ棒読みである。


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