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【ハロウィンナイトメアパーティー】後編

 ロッテンハイマーの秋といえば死霊祭ことハロウィンが風物詩だ。

 豊作を願い、今年の実りへの感謝をも祝う。

 とどのつまり収穫祭だが、異世界ハロウィンは訳が違う。

 なにがどうしてお盆祭りと融合してしまったのか。


 ハロウィン前日、屋敷の食堂(北向けの為、あんまり使っていない)に集合したユーマたち。

 何人か里帰りしていたり、依頼(クエスト)で遠方に行っていて全員集合では無かった。


 アウスティリア正統中央教会という世界的宗教団体に所属するシスター マ・クワ・ウリウリ。


 ウェンデェン山脈からやってきた古代竜の化身・・・・・・幼女マウス・トゥ・ヴェサ・エレクトロニカ28。


 自称誇り高きゴブリン族の闘士スゥジゥィヴィー・ロゴ・ヴォヴェル。言いにくいので通称 七味。


 南丞八雲(なんじょうやくも) 二輪五稜(にわごりょう)の名門 神居土家の次女カムイド ミズホ。


 そして、現代から自宅のトイレごと異世界転移させられたユーマ・トワイライト。もちろん偽名だ。


 5人がドラマに出てくるような超長い食卓テーブルをはさんで座っていた。



 豊作を祈り、祝う収穫祭とガチなアンデッドも大量に出回る闇の祭典が融合してしまったのが、異世界ハロウィンだ。

 祖先の霊は基本的に害は無いが、その他大勢の霊魂やアンデッドたちは生者を襲うのである。


 しかも何故かアンデッドは、オレンジ色の光に誘引されることから町中、オレンジ色の灯りで順路が出来る。

 こうすることで順路に近づかない限り、アンデッドからの被害を受けないという話だった。

 まるでコンビニ前の殺虫灯である。


 逆に黒い炎(燃料不明)の灯り(?)は忌避作用があるらしく、生者は黒い炎のランタンを常用するらしい。


 そして、この祭り最大の見せ場が、大量発生したスピリット系モンスターがカボチャかカブに憑依する。

 それをみんなで粉砕して回るというキャンペーンが行われるという点だった。

 カボチャモンスターを叩き割ることで翌年の豊穣が約束されるという伝説があるとか、悪霊が成仏できるだとか諸説あるらしい。

 とどのつまり、カボチャモンスターと戦う人たちであふれる活気ある祭りだそうだ。


 治安の良いことで知られるロッテンハイマー市だが、この期間限りは往来で武具を振り回し、徘徊し乱舞するカボチャモンスターと戦う地獄絵図となるのだ。

 ちなみにカボチャやアンデッドにやられてお亡くなりになると、翌年、アンデッドの仲間入りを果たすという。


「地獄だ・・・・・・」

一通り聞き終わったユーマは膝から崩れ落ちた。

 現代のハロウィンのなんと可愛らしい事か!

 コスプレして、ワイワイパーティーするだけの現代人ユーマにとっては過酷すぎる環境だった。


「というわけで、明日からこの町では死霊祭改めハロウィンナイトメアパーティーが開催されるわけです」

ウリウリが木の板の裏に書いた雑な説明書きにはオバケのイラストが踊っていた。

「なるほど。翌月はずっとお祭り、ということですな」

七味が、謎のもも肉に齧りつきながら相槌を打つ。


 このゴブリン闘士、整った顔立ちに人参みたいな鼻、筋肉ムキムキで腰ミノに革ジャケットというヘンタイスタイルだ。


「ええ。毎日バッタバッタと悪霊にアンデッドを粉砕しまくりましょう!!」

シスターが金髪ロングヘアーをかき上げ、イキイキとしていた。


(地獄だ・・・・・・)

バチバチの黒髪を撫でつけながらユーマはげんなりした。

 散髪屋らしきものが無い異世界で、髪が伸びたため適当にすいたらバチバチのウルフカットみたいになったのだ。

 以降、気になってつい手が伸びてしまう。


「なるほどの! そのアンデッドどもを粉砕★喝采★大爆砕する計画を立てるというワケじゃな!?」

緑色のポニーテールの少女というか幼女が身を乗り出す。

 青い瞳がキラキラ輝いていた。

 ユニタードタイプのスク水の尾てい骨付近から生えている尻尾がビュンビュン左右に往復する。

 生粋の戦闘民族である。


 アンデッドなら元々死んでいるものなのでやり過ぎなんてものはないんだよぉ!! みたいな感じになれるらしい。

 いやいや、いくら何でもそりゃないだろ。

 とか説明を聞く前なら思っただろう。


「大正解! マウスちゃん! さすがです!!」

椅子から立ち上がりシスターウリウリが拍手を送る。

 今日は、やたら深いスリットの入った法衣では無かった。

 クリーム色のタートルネックセーターに赤い生地のロングスカート。

 ただのキレイなお姉さんだ。


「いいですか。今回のハロウィン祭には数多の参加者がやってきます」

オバケのラクガキがぽいっと投げ捨て、新しい板にサラサライラストを描いていくウリウリ。

 デフォルメされたキャラクターのイラストが踊る。


「いかに効率よくカボチャたちを粉砕し、やられないようにするかが重要になってきます!」

本当に聖職者だろうか。

 喜々とした表情で戦闘スタイルを考案していくシスターを見やりながらユーマは困惑していた。


「ならば効率的にやるには移動を短縮・・・・・・」

「なるほど。裏庭じゃ! あそこは敷居が無いから裏庭でヤり放題じゃ!」

ユーマ宅の裏庭こと屋敷の西側には露天風呂があり、市郊外の荒れ地とつながっている。

 特に何者かが出入りすることも無いし、問題無いので柵などを設置していなかった場所である。


 冗談ではない!


 ユーマは恐怖した。

 裏庭の境界から続々と侵入してくるアンデッドとカボチャモンスター。

 それを裏庭を血に染めて、激闘を繰り広げようとしているのである。


(ハ●ーン様、アンデッドが入れなくなる柵みたいなのが欲しい! 超特急で!!)

心の中で天上にいるという神に願い祈る。


 異世界に飛ばされたユーマは心の中で神にテレパシー? を飛ばすと神から返答があるのだ。

 神はユーマの活躍に応じて付与されるゴッデスポイントというものを消費して、願いを叶えてくれる。


『よかろう。聖ロシア正教で作られたと書かれている庭用の柵を送ってやる』

ややあって神から応答があった。

 脳裏に響く声は、Zガン●ムに出てくるハ●ーン・カーンだった。

 故にユーマは神の事をハ●ーン様と呼んでいる。

 本名は知らない。


 眩しいほどの輝きを纏ったHamazonと書かれたダンボール箱に入った柵が転送されてくる。

(ハ●ーン様万歳!)

最近は願いが叶うたびに喝采している。

『・・・・・・フフン』

だいぶ俗物な神だった。

 まんざらでも無いのか少しだけ笑う声が聞こえ、プツッという音と共にテレパシーが途切れる。

 マウスたちからしたら見慣れた光景なので気にもしないのだろう。


 粛々とカボチャモンスター撲殺計画を立てる一同を尻目にユーマは駆け出していた。

 ダンボール箱を抱え、裏口のドアを開け放つと外に飛び出す。


 北側は切り立った崖になっており、新市街の端っこの民家の壁が上方にそびえ立っている。

 南側には芝生が生え揃った広い庭があり、崖があり、眼下にも街並みが広がる。

 東側には市街地につながる通りがあり、西側には裏庭が広がる。


 裏庭には、掘り当てた源泉と異世界で貰った種から育った謎の大木が露天風呂を構成している。

 木の根と幹が器用に浴槽みたいな形を形成しているのだ。

 もちろん真四角とか長方形では無く、いびつな形だが一度に6人くらい入れそうな広さである。


 一目散に境界線に駆け付けると箱を開けて高さ60cmほどの柵を設置していく。

 雨にも強いステンレス製であった。


 整然と並べられた柵を見ながら、とりあえずは安堵する。

 ユーマは屋敷の方を見やり、裏庭での戦闘行為を阻止すると心に誓う。

 そう家主であるユーマの発言権だけは強かった。

「裏庭でアンデッドに見守られながらの入浴とかご免こうむる」



 裏口のドアをゆっくり開けると

「じゃじゃーん! どうじゃ! ユーマよ! かわいかろう! 愛でても良いぞ?!」

灰色のオオカミのような耳に肉球付きグローブを付けたマウスが振り向き、すっ飛んできた。

 まるで飼い主に向けて疾走してくる犬のようである。



「ユーマ様も仮装しましょう!」

闇色のフード付きボロボロローブ姿のウリウリも振り返るとウキウキして顔で声を掛けてくる。

 ボロボロローブの隙間から肌色がチラチラ視界に入る。

 一言で言うとエッチだった。



「どうしてこうなった!?」


いやいや、キミたちさっきまで物騒な話してたよね?

 いつの間にコスプレする話になったの?!

 というかどこから・・・・・・と見回した視線の先に、いつぞの何でも注文できるギフトカタログが開かれて置かれていた。


(ぬかった!!)

そうユーマが裏庭に柵を設置しに行っている間に仲間たちは、ギフトカタログを思い出し、ハロウィンのコスプレを注文してたのである。

 何故そんな事になったのか、とんと分からぬ。

 だがユーマの所持しているゴッデスポイントからしっかりとコスプレ代が引き落とされている。


「えへへへ、八雲には仮装して楽しむっていう風習があるんです」

元は悪霊たちに連れ去られないようにするためですけど、と付け加えたのはミズホだった。

(おまえだったのかミズホ・・・・・・)

手に持ったダンボール箱をはたりと取り落とす。

 箱から白い包装紙が零れ落ちる。


 そんな彼女は伝線して破れまくったレギンスにキョンシーなのか和服なのか判断が付かないボロボロの衣装を身にまとっていた。

 またどこかに突撃したのだろうか。


 訝しげな視線を投げかけたことに気付いたのだろう。

「あ、この格好は八雲に伝わる“おみわさん”という幽霊です!」

お岩さんでは無く、おみわさん・・・・・・。

「どこかに突撃して服がボロボロになったまま幽霊になったとか?」

「違いますよー。時の権力者に捕まって処刑されてしまったという半妖の巫女さんです。庶民の間で人気があるんですよ!」



「ふふふふ・・・・・・にくきゅーというものはなかなかに・・・・・・クフフフ」

人狼風のコスプレをするマウスはグローブの肉球にご執心だ。

 ユニタードのスク水の上から灰色の短パンにノースリーブの上衣、なめらかなお腹は紺色の水着に覆われている。

 尻尾は、ドラゴンのそれだった。

 何という中途半端!



 死神なのかリッチなのかの姿のウリウリは、いつもより薄手感マシマシでエッチであった。

 ボロボロの隙間から見える肌色が気になって仕方ない。

 何故ならインナーとか下着がありそうな部分も肌色である。

 完全に痴女と化していた。


 そして、七味はかぼちゃを被っていた。緑のムキムキボディにオレンジ色のかぼちゃ。

 手には鞘に入った蛮刀、ジャケットを脱ぎ、腰ミノだけ。

「モンスターだ!!」

「某が!?」

ユーマは見た目に驚愕し、七味は大声に驚愕した。



 あらゆる文化を取り入れていくスタイルには感服しないことも無い。


 だがしかし、とにもかくにもこれ以上ポイントを無駄遣いされるわけにもいかぬ。

 ユーマは滑るような動きでギフトカタログを回収し、近くの戸棚にぶち込む。

 その間、わずか2秒。

 異世界に慣れ親しみ過ぎ、もはや人外の動きと化していた。


「さて、我らは準備万端じゃが・・・・・・ユーマは何の格好をするのかのぅ?」

両手のオオカミハンドをワキワキさせながらマウスが迫る。


「ああ、ここは妥協しないといけないのか・・・・・・」

裏庭でのアンデッド、カボチャ狩り禁止を厳守させる代わりにみなの着せ替え人形と化すのであった。

例の如く、現在の話が前編、回想が後編になります。


それでは皆様、ご一緒に!


\ トリックオアトリート!!! /

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