新たな仲間(候補)が押し掛けてきた話
唐突に旅行に出掛けたくなることがある。
よく分かる。
ユーマも一年ほど前に突然、遠くに出掛けたくなり取り立ての免許片手にバイクを転がしたものだ。
あの時は秋の京都に行った。
鴨川を見ながら団子を食べ、勢いのまま鞍馬寺まで爆走しようとして道を間違えた。
辿り着いた先は大原三千院。
来てしまったものは仕方ない。
三千院は三千院で見ごたえがある。
なかなか乙だなぁ。
などという思い出に浸るユーマの前には黒髪おさげの東洋人が正座していた。
年のころは10代後半、巫女服というか侍というか何とも言えない出で立ちの少女が真剣なまなざしを向ける。
コスプレと言えばコスプレのような見た目。
訳あってノースリーブになってしまった上衣、いくども破れ修繕した結果、極度に短くなってしまった袴。
すり減った下駄にやたら手入れの行き届いた薙刀。
「別に某は構わぬが・・・・・・」
背もたれ椅子に深く腰掛けた七味が大物オーラを漂わせる。
「迷い子を保護するのも強きオスの矜持とやらではなかろうか? のう、ユーマよ?」
屋敷住まいになり、シスターウリウリから変な本を借りてばかりいるマウスが口をはさむ。
「うーん、別にパーティーメンバーが増えるのは良いんだけど」
紙ペラ前衛にちょっと強そうな武道少女が加わるのだ。悪くは無い。
だが・・・・・・。
「なんで異様な借金があるのかが気になって気になって・・・・・・」
「あうう・・・・・・」
黒髪少女が目を逸らす。
ウリウリの紹介でパーティーメンバーに加えて欲しいとやってきた少女“神居土ミズホ”さんは膨大な借金を抱えていたのだ。
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引っ越し完了から数日。
少しずつユーマの趣味に染まっていく庭には生えたての赤ちゃん芝生が伸び始めていた。
夢と希望の埋まった裏庭は、毎日マウスと七味が採掘し続けている。
が、まだお湯は沸いてこない。
ウリウリはシスターとして教会にいないといけないことも多く、屋敷と教会を行ったり来たりしつつ、細々としたクエストに同行してくれていた。
クエストと言っても特筆すべきことのないものばっかりだ。
商隊の護衛という名の荷物運びや商店の開店準備手伝い。
今日は今日とて、畑の農作物を荒らす野生のコニャーンという動物を捕まえたり追い払ったり。
狐のような耳が生えたネコ型の動物で尻尾はタヌキというハイブリッドアニマル。
決して人には懐かず、畑の小麦や大根のバリバリ齧るのだ。
しかも足が速く、アクロバティックな動きをする。
ガラガラ派手な音がなる棍棒みたいなものを振り回し、大声をあげながらコニャーンを追い払う。
シュールな見た目でシュールなクエストをこなして帰ってきてみると邪神像に組み伏せられ頭を齧られている不審者がいた。
「た、助けてくださーい」
不審者が涙目で訴える。
やはりガーゴイル像じゃないか。
不審者に噛みつくのか。
これは頼もしい。
一応、不審者とはいえ放置するわけにもいかない。
都市警備隊に引き渡すつもりで引き剥がしてみるとウリウリから紹介されたというガチな冒険者という職種の人だった。
表通りから様子を見ていたけれど、誰も出てくる気配が無い。
とりあえず玄関を叩いてみようと敷地に入ると
「「GYOWAAAAAAAAAAAAAA------ッ!!!」」
と玄関前の邪神像が奇声をあげ飛び掛かってきたのだ。
不意打ちを受け、今に至る。
ちょうど畑でコニャーンを奇声をあげながら追い回していた時分の話だった。
「助けて頂き、まことにありがとうございます!」
「あなたがユーマさんですね!? あたし、カムイド ミズホと申します! 生まれも育ちも南丞八雲国の二輪五稜! 家業は戦巫女をやっています! 年は今年で16歳! これでも立派な成人です! シスター・マクワさんよりご紹介いただき馳せ参じました!!」
ガーゴイルの口から救出した和装少女は崩れた衣服を整えると、生えかけの芝生の上に正座すると早口で自己紹介を始めた。
馳せ参じた、と言われても呼び出したわけでも無い。
そもそもウリウリからの紹介といわれても事前に何も聞いていないので反応に困る。
様子を見る限り、パーティーに加えてくれ、とかそういう事だろう。
どうしようか、そもそもパーティーメンバーの募集なんてしてないしお断りしようか。
とりあえず自然な流れでお帰り頂くには、疲れていてお話を聞ける状態ではないアピールをする必要がありそうだ。
実際、コニャーンを追い回し疲れていたユーマは眉をひそめる。
そして、チラリとマウスと七味を見やった。
視線に気付いたマウスが片目を閉じ、バチコンとウィンクを決めた。
よしよし、オレたちの仲だ。意思疎通もバッチリだ。
「のう、ここだと暑いので中に入らぬか?」
マウスのおでこをわざとらしく手で拭う。
ん?
「然り。外で話をするには暑いですな」
すかさず七味が相槌を打つ。
「ユーマよ。それと、ええとカムイドンじゃったか? 中で話を聞こうでは無いか」
お帰り頂くつもりが、意思疎通の失敗により邸宅内に招き入れるハメになってしまった。
なんだその怪獣みたいな名前は、とツッコみかけたが威勢の良い返事をしたミズホさんが玄関に消えていく。
まあ、仕方ない。
とりあえず話だけでも聞くか。
聞いたうえで芳しくなければお引き取り願おう。
ジリジリとした暑い昼間の事だった。
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11部屋あるうちのひとつ。
日当たりがイマイチのリビングの代わりに使用している部屋に4つの椅子が並んでいる。
のじゃロリドラゴン幼女マウスがドヤ顔で座り、その隣に営業スマイルを浮かべるユーマ、そして腕組みをして大物オーラを漂わせているゴブリン族の闘士七味の姿があった。
対して置かれている相対するように置かれているイスの横、床の上に正座しているのは黒髪おさげの少女、神居土ミズホの姿だった。
八雲国はいわゆる日本みたいなところらしく、イスに座るより床にペッタン座りする文化があるようだ。
両者とも無言で見つめ合う中、ミズホが差し出した紹介状を見やる。
木の板に黒インクで地図が掛かれ、ウリウリの洒落たサインが踊っていた。
「紹介状・・・・・・?」
どっちかというと簡単な地図だ。
裏返してみるとロッテンハイマー産リヴゥ 20kgと書かれている。
リンゴの木箱か・・・・・・。
とりあえず、どういう事か分からない。
「シスターから話を聞いてないんだけど、どういう話になっているの?」
ユーマはとりあえず切り出す。
はい! と元気よく返事をしたミズホが語り出す。
“どこか遠くに出掛けたくなり、旅行のつもりで国外へ行ったら、謎の借金を背負うハメになった。毎月返済しないと奴隷市場に売り飛ばされてしまう。お金を稼ぐために冒険者になったが、下宿先の賃料を払えなくなり追い出された。救いを求めに教会に行くとユーマ宅を紹介された”とのことだった。
ユーマ達が冒険者で前衛職は大歓迎、とウリウリが言ったらしい。
確かにまともな壁職人が欲しいのは事実だ。
しかし、間違っても生足が出ていて、ヒラヒラの巫女服っぽいコスプレみたいな紙装甲を求めているわけでは無い。
「ワケあって冒険者になったのですが、先日、下宿先を追い出されてしまいまして・・・・・・」
早速イヤな予感しかしないユーマの表情が曇る。
また無一文じゃなかろうな・・・・・・。
リアル知り合いから「清楚系で黒髪の巫女さんキャラ出して」というコメントをいただき、トトロ♞/雪柳 司(@TotoroK21)氏からのご意見で創られた新キャラ登場でございます。
気軽にコメントして頂くとキャラクターが増えますよ!!