カニ鍋召喚の儀
振り返るとイイ笑顔をしているウリウリと目が合う。
ほんわかとした緩んだ表情をしているが、両目は期待からかギンギラギンというかランランというか、とりあえず目力がすごかった。
“ついに次は私ですね!”
目から伝わる言葉。
ユーマはついにエスパーに目覚めてしまったのだろうか。
「実は、何がいいのか見当もつかなかったんだ」
一応ウリウリ用の部屋、1階の突き当り角部屋、つまりは畑側の一室に案内する最中に真実を告げる。
「・・・・・・え?」
キラキラした両目が急速に光を失う。
まるで死んだ魚の目だった。
「だから、ここから好きなものを選んで欲しい!」
スッと取り出し渡すのは【選べるギフトカタログ】だった。
困った時の最終兵器、相手に欲しいものを選んでもらうという荒業だ。
ウリウリの部屋も他メンバーの部屋と同じ家具を設置してある。
しいて違いがあるとするとワードローブでもタンスでもなく、本棚という点くらいだ。
あとは、この世界にとっては恐らくオーバーテクノロジーの収納機能付きベッド。
ハ●ーン様万歳!!
何でもポイントさえあれば召喚できるシステムに感謝。
カタログを手渡され、フラフラと背もたれ椅子に座ったウリウリが沈み込む。
気怠そうに手元のカタログに視線を落とす。
色鮮やかな表紙に様々な家具や美味しそうなものが描かれていた。
まるで干し大根みたいな顔をしていたのが、あっという間にツヤツヤのテカテカになる。
「ええ、何ですかコレ! え、どれでも良いんですか?! 文字読めないですけど!!」
カタログは日本語で書かれている。
読めては世界の法則が乱れる。
「ああ、好きなものを選んで教えてくれるか?」
「いくつか良いですか!?」
このシスター、かなりのちゃっかり者である。
他メンバーのプレゼントが結構なお値段なのだ。
ユーマは、差別するほど性根が腐ってはいない。
「ああ、全部はダメだけど4、5点くらいならいいよ」
高いものばかり選ばれても諭吉さん5人くらいの犠牲で済む。
今のユーマには力(金)があった。
「そうですね。まずはコレ! 今のままだと少し肌寒いんですよー」
ウリウリはカタログの1ページをユーマに見せ、指差す。
その先には金髪のお姉さんが着ているレオタードがあった。
「私、下着を・・・・・・持ってなくて」
顔を赤らめて途中ポソポソとカミングアウトしたウリウリ。
ユーマは、「あんまり」という言葉を聞き逃して戦慄した。
え、やっぱりウリウリさん、裸タイツなの・・・・・・?!
ユーマの心臓が早鐘を打つ。
健康な男子であるユーマの脳裏にイケない妄想が浮かび、消えることなく、次々・・・・・・。
「次は、このかわいいのが良いです!」
イケない妄想の沼にハマりかけたユーマは現実に引き戻される。
次にウリウリが指差したのは、フワフワの毛玉のような飾りが付いているムートン風ショートブーツだった。
流れるようなページめくりでチョイスされていく欲しいもの色々。
約一時間ほど経過。
気付けばウリウリの左右からマウスと七味がカタログを覗き込んでいた。
ひとつ、またひとつとチョイスされていくアイテム。
その数は、いつの間にか20点を超えている。
おかしい、確か4~5点くらいと伝えたはずだが・・・・・・。
「待つのじゃ! 我はこのスリッパが良い! モフモフじゃ!」
マウスがカタログに載っている黄色いクマさんっぽいフォルムの室内用スリッパを指差す。
「某はこのフカフカのガウンのようなものがよろしいな!」
七味が指差すのは、お金持ちがシャンパンのグラスを片手に風呂上がりに着るようなバスローブのことだ。
「冬は寒くなりますから・・・・・・このひざ掛けも良いですね!」
赤と白、緑のもみの木柄のアクセントが入ったクリスマスっぽい感じのひざ掛けが召喚される。
ユーマの心では引っ切り無しに減っていくゴッデスポイントの残高が告知され続けていた。
まだだ、まだ破産はしない・・・・・・!
ジリジリ減っていくポイントと反対に、各自が気に入ったアイテムがモリモリ召喚され増えてゆく。
元はというとウリウリが黒のレオタードに続いてブーツ、そして可愛らしいブラジャーを指定してきたためだ。
ポイント交換で召喚するのに心の中でイメージする。
健康な男子たるユーマはウリウリが指定した黒のアダルティなブラジャーを連想し、危うく鼻血を噴きかけた。
結果、念じるのがこっ恥ずかしくなり、選んだものが即出てくるようにしたのだ。
大いに失敗だった。
いつの間にか様子を見に来たマウスと七味がカタログに食いついたのだ。
あとは、アレが良いコレが良いと今に至る。
何とかして現状を止めねばならない。
何か、何か無いか!?
ユーマの視線がさ迷う。
「それはそうと」
名案が閃いた。
「そろそろ朝ごはん食べない?」
つい、うっかりしていたが朝ごはんを食べていない。
カタログを見てキャッキャッウフフと騒いでいた3人が顔をあげる。
キラキラ宝石のように輝く6つの瞳。
「おお、そうじゃ! 何も食べておらぬ! でかしたぞユーマよ!」
「どおりで小腹が空くわけですな」
「そうですね! 美味しいご飯にしましょう!」
カタログのページを閉じ、席を立つ3人。
計画通り。
ユーマがほくそ笑む。
席を離れたあとカタログを回収して終いである。
なんという自然でスムーズな動き。
「そうじゃ、さっきスゴイのがあったのじゃ!」
席から離れかけた3人。
突如、何かを思い出し、マウスが踵を返す。
そのままカタログを開き、カニ鍋セットを召喚した。
ウリウリの部屋の真ん中に降臨する大型の冷凍ズワイカニが2匹。
そして、豆腐、菊菜、糸こんにゃくなどなどが神々しい輝きを放ちながら並んでいく。
シュールな光景にマウス以外、目が点になっていた。
『ゴッデスポイントを200消費した。倹約せよ。使い過ぎだぞ』
お母さんのようなハ●ーン様の声が脳裏に響き終わるころ、キラキラ輝きながら土鍋が天から降臨。
だがコンロだけはそこに無かった。
(ハ●ーン様、コンロが欲しい)
もう出てきてしまったものは仕方が無い。
送り返したりはできないだろうし、感嘆の声をあげている面々の興を削ぐほど無粋な男でも無かった。
ならば存分にカニ鍋を堪能すべきである。
『それはできない相談だな。世界の法則が乱れる。恥を知れ俗物ッ!!』
なぜだ!? なぜ怒られた?
散々、中世ヨーロッパっぽい世界にオモシロアイテムを出してくれていたのに何たることか!
ユーマは憤慨した。
「このお鍋、土を捏ねて作ってあるんですね。火にかける・・・・・・と良いんですか?」
マウスが見ていたページを見ながらウリウリが土鍋を調べる。
「我が炙ってやるのじゃ」
ユーマが心の中で神と戦っている間にコトが進む。
マウスは幼女のなりをしているが、一応ドラゴンである。
「ユーマ殿! 鍋というものを致しますぞ」
七味からはボンヤリ立ち尽くしているように見えたらしい。
ゴブリンの手がユーマの手を引く。
「あ、あぁ」
何故だろうか。
一体何を間違えたのだろう?
朝っぱらから異世界でカニ鍋をつつくことになった現状に、疑問しか浮かばないほどユーマの心は疲れ果てていた。
試しに文字数を3000ほどにしてみました。
普段は1400時前後にしていますが、どちらの方が読みやすいでしょう。