健康は睡眠から
屋敷の部屋は1階に7部屋、2階に4部屋あり、あとは調理場やリビングにあたる広間が存在する。
個室はすべて南側に配置され、それ以外は北側に集中している。
元々、どんな住民が暮らしていたのかは知らないが、もしかすると異世界版アパートだったのかもしれない。
そして、なぜかトイレは単独で外の小屋に設置してあった。
階段を昇り切り、廊下を曲がった突き当りの部屋の前に立つ。
木製の重厚そうなドアは焦げ茶色だ。
「都合上、マウスの部屋はここだ」
「天井はあるんじゃろうな・・・・・・」
天井が無い生活ゆえか不安になるポイントが違い過ぎる。
幼女はドアを押すと・・・・・・まったく開く気配が無い。
「ん? んんん???」
一瞬、怪訝な顔をしたあと、涼しげな表情のまま全力で押し始める、が開かない。
「マウスちゃん、引くドアじゃないですか?」
鼻息荒くドアを押しまくっていたマウスが固まる。
「外開きのドアですな」
隣の部屋のドアを開けながら七味が淡々と喋る。
「お、おう。そうじゃな。そんな気もしておった!」
そうして踏み入った部屋の中にはベージュ色の丸テーブル、背もたれ椅子が2つ、たぶん使わないだろうが4段のタンスが設置されている。
そして、爽やかな風が天蓋付きのお姫様ベッドのカーテンを揺らしていた。
いつぞにマウスが欲しがっていたヤツだ。
「お、おおお? うおおおぉぉぉぉお???」
両手をゾンビのごとく前に突き出したままマウスがフラフラ歩み寄っていく。
両目がキラキラ輝く。
「な、なんじゃこのスゴイのは!?」
そっとカーテンをめくり、ふかふかの布団をぺしぺし叩き、いそいそとWCスリッパを脱ぎ、飛び込んでいった。
感嘆の声かよく分からない声が響く中、ユーマは心の中でハ●ーン様に感謝の言葉を述べていた。
始末屋さんたちが屋敷の汚れを始末している間、一番最初に清掃が終わったこの部屋の飾りつけをし始めた。
天蓋付きのナントカベッドと言っていたのを思い出したユーマは、心の中で神に念じる。
(ハ●ーン様、天蓋付きのベッド、お姫様ベッド? みたいなのが欲しい)
ハ●ーン様を呼ぶのも久しぶりな気がする。
あまりにも呼び出さなかったからか応答が無い。
拗ねてしまったのだろうか・・・・・・ユーマが首を捻るころ返答があった。
『よかろう。画像検索でトップに出てきたコイツを送ってやる。ポイントを300消費するぞ』
聞き違えかもしれないが、画像検索と聞こえたぞ?
俗物すぎるのでは無かろうか、と思うと共に神が勝手にチョイスした物が送られてくることに不安を感じる。
パイプベッドじゃないだろうな、と思ったのは杞憂であった。
光の粒子が集まり、一度激しく輝くと重厚で重そうな土台のベッドと四隅に支柱、高級感あふれる装飾にフリフリふわふわのカーテンが付いたお姫様ベッドが召喚された。
しかも組み立て済み。
有能過ぎる。
あとはマウスが気に入るかだけだった。
結果、マウスは大喜びし、カーテンの向こう側でバインバイン跳ねまわっている。
「ふふふ、ユーマよ。褒めて遣わすぞ。近こうよれ。・・・・・・なんちゃって!! クフフフ!!」
うっすらとシルエットだけが透けて見えるベッド上でお姫様ごっこをし始めるマウスを3人は微笑ましく見つめる。
「これはこれは、某の方も期待できそうですな」
幸せ全開の幼女をホワホワした目で見つめていた七味がユーマを見上げる。
「ああ、たぶん気に入ると思う」
そっと部屋を出て、2階の反対側の突き当り部屋に案内すると中を覗き、素っ頓狂な声をあげるゴブリン。
七味の部屋にもベージュの丸テーブルと背もたれ椅子が2脚、ブラウンカラーのワードロープ。
そして、ゴブリンもダメになるクッションが鎮座していた。
休むとき、寝る時に座ったままが落ち着くらしい七味に最適ではなかろうか。
「な、なん・・・・・・うおお? 面妖な・・・・・・まるで母に抱かれているような・・・・・・こ、これは」
ユーマに勧められるまま、ダメになるクッションに座り、そしてダメになっていった。
「感謝、いた・・・・・・す・・・・・・ぐう」
赤色のダメになるクッションキングサイズに抱かれたゴブリンはすやすやと寝息を立て始める。
やはり、普段眠りが浅かったのだろう。