部屋を決めよう
外観で足りないものはおいおい足せばいいか。
まずは部屋を使える形にせねばならない。
「部屋決めをしよう」
ユーマは庭をウロウロする3人に声を掛けると屋敷内に立ち入った。
ホコリはキレイに一掃され、飛び出していた釘はハンドパワー(物理)であるべき場所に戻り、頬ずりしたくなるほど漆喰の壁も清掃されていた。
全ての部屋の鎧戸と廊下の窓が開放され、涼しげな風が吹き込む。
まだ朝方だから日の入りはイマイチだが。
「ユーマ殿、本当にこのような良い場所に住んで良いのか?」
廊下が汚れるので、とWCと書かれたスリッパを履かされた七味が落ち着かない。
「ああ、気にせず住んで欲しい。仲間じゃないか」
そうか仲間なんだな、と自分で言っておいてユーマは再認識。
元々、話のタネの為にパーティーを組んだつもりだった。
「恩に着る。だが某は武功を立ててはおらん・・・・・・」
ゴブリン族の闘士なんたらの決まりらしいアレか。
ユーマは記憶の片隅に押しやった情報を漁る。
いかん、まったく思い出せん!
ユーマはネタになりなさそうな事はサッパリ忘れる主義だった。
武功、武功か。
「そうだな。じゃあ先行投資ってことにしよう。七味には期待しているからさ!」
「ユーマ殿・・・・・・」
七味のミニトマトみたい赤い瞳がウルウルし始める。
ユーマは狡猾な男だ。
前衛職として奮戦してくれることに期待はしている。ウソじゃない。
だがパーティーメンバーが橋の下に住み、香ばしい香りを漂わせながら町中を闊歩することには耐えられなかった。
世間体も気にする俗物であった。
「おお、見よ! 天井があるのじゃ!!」
クマさん柄でピンク色のWCスリッパをはいたマウスが一室を覗き、そして驚嘆する。
「いや普通は天井がある」
冷静にツッコミを入れるユーマをよそに部屋の中を闊歩し、窓から外を眺める。
「ここをキミの部屋にはできない」
ウキウキする幼女にユーマの口撃。
「な、なぜじゃ!? 好きな部屋を選べるのでは無いのか!?」
「無いです」
悲愴な面持ちで振り返ったマウスをさらに追撃するユーマ。
イジワルをしたいわけでは無い。
別に理由があるのだ。
ユーマは言葉で語らず背中で付いてこいと語ってみる。
さりとてマウスはエスパーでは無い。
少し歩いて振り返ると付いてきてはいなかった。
「みんなにプレゼントがあるんだ。ただ物によっては大きくて動かせない」
出来れば見る→驚く→種明かしをする、というサプライズコンボを決めたかったユーマだが、作戦は脆くも瓦解した。
短くため息をつくとネタ晴らし。
健全な生活を営むことで仕事・・・・・・ではなく日々のポテンシャルが上がる、といいなぁというユーマの策略である。
タダでモノをあげるほど聖人君子ではない。
感情の移り変わりが激しい仲間たちを引き連れ2階への階段を昇る。
横に3人並んでも余裕のある広い木製階段。
例えるなら学校にある無駄に広い階段、アレだ。
部屋数がそもそも多いから階段が広くてもおかしくは無い。
そんな階段の踊り場にも“ドラゴン像”置かれていた。
例のマウス父似だとかいうガーゴイル像だ。
誰だ室内に不気味なものを置いたのは!?
夜中に光源が月明かりだけだったら漏れなく失禁しかねない。
あとでお引っ越し願おう。
ユーマは設置した犯人であろう幼女を一瞥し、心に固く誓う。