きれいさっぱり
「任務完了」
「こちらも完了だ」
薄汚れた麻袋を下げた男たちが各自、得物についた汚れを拭っていた。
手にした麻袋は3つ。
それぞれ赤黒い血液のような汚れがベッタリと付着している。
「痕跡も消した。何のことは無い」
ホコリまみれだった廊下はキレイに清掃され、先ほどまで目立っていた複数の足跡はキレイに消し去られていた。
「よし撤収だ」
来た時と同じように音もなくドアをすり抜けると庭を駆け抜け町中に消えていった。
「帰りましたよ?」
黒ずくめの一団が立ち去って数分後、庭の隅にしゃがみ込んでいたシスターウリウリが声を掛ける。
「手際が良いのじゃ」
藁の山の中から顔だけ出したマウスが感嘆の声をあげた。
視線の先にはキレイに整備された庭が広がっていた。
「ホコリひとつ残ってないですな」
「まさかアフターサービスがあったなんて」
裏口の木製ドアがゆっくりと開くとゴブリン闘士の七味と家主になったユーマが連れ立って出てくる。
さすが始末屋を名乗るだけはある。
ものの2時間ほどで荒れ果てた幽霊屋敷は清潔感溢れる屋敷に変わっていた。
草がボウボウの庭と畑はキレイな土がむき出しの状態で均され、好みに応じてアレンジできそうだ。
芝生に覆われた庭がいいな、ユーマは緑のカーペットが美しい光景を夢想する。
裏の畑も土と肥料を混ぜれば家庭菜園に使えるかもしれない。
巨木の町で貰った謎のタネを植えたくて仕方がないが、始末屋の作業員が言っていたことも気になる。
“掘れば温泉が湧くかもしれん。保証は無いがな”と。
なるほど、夢と希望の埋まった裏庭とはこういう事か。
正面玄関には真新しい錠前が朝日を浴びて金色に輝く。
“別料金ですが取り替えますか?”と現地販売されたものだ。
何種類かの錠前を見せる始末屋の女作業員は、悪鬼すら殺しそうなアイシャドウがどぎつい眉毛の無いヤツだった。
見た目に反して気前が良く、丁寧な仕事ぶり。
壊れた錠前とカギはハンドパワー(物理)でねじ切られていった。
そして雑草に埋もれていた門柱。
その上には何か置くことができたので設置されたのは“ドラゴンの置物”だ。
これも始末屋の現地販売ラインナップのひとつ。
商魂たくましい彼らから“ドラゴンの置物”をチョイスして購入したのはマウスだ。
「父さまみたいじゃ」
と置物のブサイクな顔を見上げ幼女がゲラゲラ笑う。
白亜の門柱の上にたたずむ土佐犬サイズの“ドラゴンの置物”。
どう見ても“ガーゴイル像”である。
マウスの親父さんはガーゴイル顔らしい。
ユーマは少し賢くなった。
侵入者が出たりすると目が輝き動き出すんだろうな、とユーマは身震いする。
なんせ見た目が邪神像。
大きく開いた口、牙が4本、ヨーグルトのパックの底まで舐め回せそうな長い舌。
見開かれた瞳は白目をむき、おでこに第三の目がある。
大分マニアックな調度品だが商品ラインナップにある以上は購入する人がいるという事だ。
そんなヤツが2体、表通りに白目を剥き舌をベロンと出している。
はじめて訪れる人は思うだろう。
ヤバいところだと。
そんな白目の視線の先には可愛らしい赤いポストが新規追加された。
チョイスしたのはウリウリだが、そもそも郵便物とか新聞とかが存在するのだろうかと訝しむユーマ。
始末屋のリーダー、年配のおじさんの名前はワタナベさんです。
「八雲」國というところでニンジャというお仕事をされているそうですよ。
※ この世界のニンジャは我々が知っている忍びとは異なります。