いっぱい食べるキミ達
道中、出会う人出会う人みなが、ウリウリに声をかけ笑顔で去っていく。
慕われているというよりは、近所でかわいがられている猫のような感じがした。
「顔見知りが多いんだね」
「いえ、半分近くは知らない方です」
「知らない人でも挨拶するのか・・・・・・」
「誰かと出会ったら挨拶する。されたらもちろんする。普通ですよ」
そんなものだろうか、とユーマは首を傾げる。
少なくとも現代にいた頃は両隣の人と顔を合わせても素通り、ご近所さんには会釈するくらいだった。
人間関係が希薄なユーマにはいまいち分からなかった。
「挨拶を交わすって『私はここにいるよ、あなたもここにいるよ』っていう存在を認め合う行為でもあるんです」
「へえ・・・・・・」
挨拶を交わさない現代では人間関係が希薄になるのは必然なのだろうか。
「って、まじまじ見つめないでください。シスター長の受け売りです!」
へえ感慨深いことも言うんだな、と感心して見つめるユーマの真剣なまなざしに慌てるウリウリ。
「・・・・・・もしや卑猥な事を考えて・・・・・・!?」
が、イイ感じの事を言ったのに最後には台無しにしていくスタイルである。
卑猥な考えに至るのはユーマではなくウリウリである。
どうしてこんな残念思考なのだろうか。
ユーマは深いため息をつくとそそくさと待ち合わせ場所の職業案内所前に急いだ。
「寝坊か!? 寝坊じゃな!! 遅いぞ、ユーマ!!」
職業案内所前のマウスと七味が仁王立ちしていた。
「ああ、悪い。寝坊した」
夜中に出歩いて夜更かししたのが原因だが、寝坊は事実である。
素直に謝るスタイルだ。
「そうかそうか! 実は我も寝坊したのじゃ! ごめんなのじゃ!!」
「お前もかい!!」
思わずツッコミを入れたもののこちらも素直なロリだった。
「某が探しに行ったのですがな・・・・・・。居所を探すだけで2時間ほど浪費してしまいましたな」
一体どこで寝泊まりしているのか、ユーマの中で疑問が鎌首をもたげた。
「まずは報告に行きましょう! あとお腹が空きました!」
パンと手を打つとウリウリが皆に声を掛ける。
陽が中天を回っているので既に午後だ。
とりあえず4人掛けのテーブルに向かうとウリウリは受付に報告、みんなのお財布ユーマが食べ物を調達に行く。
行儀良くイスに腰掛けて待つ幼女とゴブリンの姿を見ていると、まるで休日にイ●ンモールに来ている親子連れだ。
だが異世界アラドにイ●ンモールは出店していない、のでそれっぽい感じというだけ。
とりあえず、みんなよく食べるので一日の食費が日本円換算で10000円を超えるなんてのはザラだ。
間違っても職業案内所はレストランでもサ●ゼリアでも無い。
クエストを受発注するところなので食事も簡素でお安く提供されている。
のにだ!
何故か食費がスゴイことになるのだ。
焼き麦飯の香辛料和えとかいう謎の名前が付いているが、とどのつまり焼き飯である。
メシ部分が麦にとって変わっただけでお値段、銅貨15枚。
日本円にして150円ほどだ。
やはり、食品のお値段は東南アジア諸国だった。
テーブルに戻るとマウスと七味が待ってましたとばかりに両手を挙げ、ヨダレを垂らしながら食事を受け取る。
そして、あとは飲み食いする音だけがその場を支配するのだ。
ガッガッガッ!
カチャン!
ゴクゴクゴク!
いっぱい食べるキミたちが好き。
小さな体のどこに入るのか。
マウスは最大おかわりを11回くらいするし、七味も最大10回くらいする。
これでざっと3000円分ほど飛ぶ。
さらに飲料水も1ガロン・・・・・・約4リットル当たり銀貨5枚、約500円。
これもガブガブ飲みまくる。
トドメはスイーツを所望してくることもあり、トータルで1食5000円ほどが、町の経済を潤すこととなる。
その点ユーマはよくておかわり含めて2回ほど、ウリウリは4回ほどと低コストだ。
果たして4回ほどおかわりをするウリウリが低コストなのか怪しいところがあるが。
「スイーツを食べたい気分なのじゃ!!」
「某もよろしいかな」
ダメです、と断れないユーマは軟弱者だった。
情けないヤツ! と誰か罵ってくれれば少しは決断ができたかもしれない。
そうして、マウスは食後の桃のジュースを、七味は謎のもも肉をデザートにウリウリの様子を眺めるに至るのだった。
もも肉はデザートでは無いと思うが、文化の違いだろう。
ユーマは大らかな心の持ち主だった。
ロッテンハイマーのお食事の値段ですが、数年前のインドネシアの屋台とかの値段を参考にしています。
ちなみに初めてインドネシアに行くとお腹をやられるんだぜ()