夜、月と町と妄想と
『有償ゴッデスポイント30000を付与しました! とても良い調子です! この調子で頑張りましょう!!』
夜も深まる頃、ウトウトし始めていたユーマがベッドから転げ落ちた。
ピカ●ュウな声が脳裏に響き、30000ポイントつまりは300万円が付与されたのである。
ユーマは恐怖した。
今日の朝日を拝めずに死ぬのでは、と。
いったい何が・・・・・・何が起こったというのだ。
眠気は吹き飛び、目がらんらんと輝く。
いや、今寝ないと遺跡調査の報告に行かねばならないでは無いか。
しかし寝たら二度と目覚められない気がする。
彼は自宅のトイレで寝ることをやめ、カワセミ亭という宿屋の一室を借りていた。
ざっと6畳くらいの部屋にテーブル、いす、寝心地の良くない木製ベッドが並ぶ。
時計やカーテンなどは無く、窓は鎧戸を閉めるだけの簡素なもの。
金貨1枚を月初めに支払う形だ。
そんな簡素な部屋で、壁の木目を数えながら朝が来るのを待っていた。
時が経つのが遅い!
電灯などというハイパーテクノロジーは存在しない。
ロウソクの灯が燭台の上で揺らめく。
鎧戸の隙間から月の光が差し込む。
町の喧騒は聞こえず、かすかに虫の声が聞こえる。
ユーマはバイト戦士だった。
ゆえに一度に大金を手にしたことが無いのだ。
(ゴッデスポイント残高確認)
きっと300万円付与など聞き違いだろう。
心の中でハ●ーン様なのかピカ●ュウなのか分からぬ存在に呼びかける。
『有償ゴッデスポイント30000、無償ゴッデスポイント500だ。無駄遣いするでないぞ』
ハ●ーン様の声が脳裏に響く。
やはり305万円あるらしい。
なんだか分からない不安感に苛まれたユーマは、そっと廊下のドアを開け外に出る。
施錠し、廊下を抜け、夜間無人になった受付を横切り、表通りに出た。
月がきれいな夜だった。
辺り一面が白と黒の2色で、そういえば田舎はこんな感じだったな。と思い出す。
石畳で舗装された道路をあてもなく歩く。
日中、荷馬車が行きかう道や軒を連ねる露店、道行く人でごった返す大通りも人っ子1人見当たらず静寂が支配していた。
ときおり、しゃなりしゃなりとモデル歩きをするネコと出会うが見向きもしてくれない。
領主の館を中心に南側に扇状に広がっている旧市街、館の北側はL字型に家々が連なり新市街と呼ばれている。
新市街の近くを西から東に向けてグヌッフ河が流れており、流れに乗れば海まで出れるらしい。
ユーマが散策しているのは新市街だ。
職業案内所も新市街にある。
かたや伝統のあるような建築物や施設、教会や図書館、例の地下下水施設は旧市街に集められている。
(305万円か・・・・・・)
実感が沸かないが大金が手元にあるのだ。
もしも何事も無く朝を迎えることが出来たら何をしよう?
ユーマは迷信を信じ込むタチであった。
(今は無事に朝を迎えることが大事だ・・・・・・)
妄想の中の襲撃者を警戒しながら大通りを往く。
静寂と月明かりの元、たったひとり佇むと世界に自分しかいないんじゃないだろうかという錯覚に陥る。
意味も無く大通りを通り過ぎ、河岸の防壁上をブラブラ散策する。
中世ヨーロッパの城塞を彷彿させる防壁は治水対策の一環だ。
グヌッフ河の川幅は約2000mあるらしく、数年に一度やってくる大規模な嵐で氾濫するのだ。
川上から肥沃な土壌を運んできてくれるが、周囲の町は水没の危機に瀕する。
そこで堅牢な防壁の出番である。
外敵から町を守るために設置してあるわけでは無いので、軍が駐留していることも無い。
絶好の散歩道でもあるのだった。
防壁の全長はおよそ22000m。
市街地はそんな彼方まで続いていないが、穀倉地が延々と連なっているためだった。
『クエストを受諾しました。ゴッデスポイントについて調査せよ』
河に映る月を見ていると突如として、オー●ド博士っぽい声が脳裏に響く。
久しく聞いていなかった声に感動少し、困惑少し。
(調査、とは?)
調査せよ、と言われても何をどうすればよいのか。
『そうじゃ。調査を手伝って欲しいんじゃ。この図かn』
どこかの旅立ちで聞いたようなアカン声が聞こえ掛け、途切れた。
沈黙。
(月がきれいですね)
洒落た言葉を神に投げかける。
沈黙。
(クエスト開始・・・・・・?)