うその調査報告に行く話
「何もありませんでした。はい。床が抜けるギミックはありましたが、恐らく溜まった雨水を下層に落とす仕組みかと」
「遺跡下部は、なみなみと水を湛えた貯水池があり―――」
翌日、ユーマ、マウス、七味、ウリウリの4人はハロワもとい職業案内所に来ていた。
疲れからか昼過ぎまで爆睡したユーマとマウスが寝坊したため、探索報告は昼下がりになってしまっていた。
遅い昼食をつつく中、ウリウリが受付で報告している。
「あのような謀り事は好みませんな」
謎のもも肉にしゃぶりつきながら七味が捻る。
「異界に行けると分かればロクでもない輩が荒らしに行くのは目に見えておる」
桃のジュースをぐびぐび飲みながら幼女がまともな事を言う。
あの後、祠の光をくぐった先は貯水池だった。
異世界で少なくとも数日経っていたはずが、戻ってきてみれば床が抜けて落ちた直後だった。
そう、ちょうどウリウリが水中でもがき、着水した七味が面食らっているところにマウス、ユーマと続けて着水したのだ。
ユーマでも足がつかない貯水池は水深2m以上あるようだ。
幼女とゴブリンは華麗な泳ぎで石畳の通路に辿り着き、振り返るとウリウリが何故か恍惚とした表情で溺れていた。
引き揚げてから一息ついて状況確認したところ、七味とウリウリは、床が抜けたあと数秒で着水したということだった。
ユーマとマウスは顔を見合わせる。
地下貯水池からレンガで出来た階段をぐるぐる昇ると例のパネル部屋の横に辿り着く。
マウスが壁の石板ことパネルを叩きまくった部屋だ。
すべての石板が元の位置に戻り、抜けたはずの床板も元通りになっていた。
「2人が落ちたあとオレも落ちたんだ。そしたら南国の島国みたいなところに飛ばされた」
「我は奥の部屋にあるアーチをくぐったら大木の町に行ったのじゃ」
今度はウリウリと七味が顔を見合わせる。
「面妖な・・・・・・」
脳まで筋肉で出来ていそうなゴブリンが唸る。
「んんんー? アーチってこれですか?」
ずかずかとパネル部屋に足を踏み入れ、そのまま奥の部屋に向かうウリウリ。
マウスを先頭に向かうと装飾ひとつ無いレンガで出来たアーチがあった。
ほのかに光を放っており、一般ピーポーであるユーマでさえ特別な何かである事を感じていた。
「それなのじゃ。こうブワァーって飛び込んだら・・・・・・むぎゅ!!」
ポンと手を打ち、実際に飛び込もうとしたマウスの前にウリウリが立ちふさがる。
豊かな胸部装甲にマウスは激突し仰向けに転倒した。
「断層ですね」
「ふむ。なんだそれは?」
アーチを左右から観察するウリウリにレンガの破片を掴んだ七味が尋ねる。
「聴いた知識しかないですけど、この世界とは別に他の世界が無数にあって、それぞれ薄い膜みたいなもので区切られているそうです」
一呼吸付くとレンガの破片を七味から受け取る。
「その膜ですけど何らかの拍子に裂け目が出来て、異なる世界がつながってしまうんです。原因はわかりません。意図的に膜を傷付けてつなげる事も出来なくないそうですが」
えいやっとレンガの破片をアーチの間目掛けて投擲。
一瞬、火花が散るように激しく光り、破片は空間から消滅した。
おお・・・・・・と一同から感嘆の声が漏れる。
「ということはですな。悪人どもが断層を使い、マウス殿が行った世界で悪事を働くこともできると?」
「そうですね。極端な話、版図拡大を模索する国があれば侵略戦争を仕掛けられます」
ただし、どこの世界に出るか分かりませんけど、と付け足した。
異世界につながるワクワクゲートでは無く、割とメンドくさそうな代物だと理解したユーマは唸った。
はたと手を打ち、声高らかに呼びかける。
「よし、帰って飯にしよう! 調査報告は貯水池がありました! 昔の貯水施設だろうってことにしておこう」
息を吸うようにウソを吐く男だった。
誰かしら「虚偽の報告はいけない」と反対するかと思われたが、そんなことは無かった。
「そうですね。ここは昔の貯水施設でしょうね」
「ふむ、そういう事にしておくよりありませぬな。好ましくはありませぬが」
「メシにするのじゃー!! ユーマが奢ってくれるのじゃー!!!」
奢るとは言っていない。
報告は後日でいいか。
ユーマはルーズな男であった。