帰路
見るからに金属武器の通り無さそうなボディ。
無論、拳で語り合うにしても岩石相手ではケガをするオチが見える。
魔法攻撃かマウスのブレス攻撃くらいしか効かなそうなヤツと不毛な争いをする必要性を感じなかったからだ。
何より最大の理由は、祠の守護者というより徘徊しているだけにしか見えない点だった。
ズムンズムンと低速で移動し、地面の土ごと苔をむしゃむしゃ。
しばらく口をムグムグ動かした後、再び歩き出すと低木の枝をバリバリ食べてはウロウロ。
「そっと素通りしておさらばだ。わざわざ無益な殺生はしたくない」
もっともらしい事を言ったユーマ。
「まあオレも割に合わねぇこたぁしたくねぇな。ってことで賛成」
損得の計算が速い男リュオが同調する。
またも落胆したマウスが、昨日もいでおけば良かった、とごちていた。
「それじゃあ、ここでお別れだね。ありがとね!」
いくら低速で歩き回っているだけとはいえ、ストーンドラゴンに万一かじられでもしたら大ケガ待ったなしだ。
少し離れたところで今生の別れを告げる。
異世界の異世界だ。
再び出会うことは無いだろう。
ダメもとでスカウトしてみようか、とも考えたが結論は
「ああ、楽しい旅だった! 元気でな!」
ヒマワリのような笑顔が眩しいリディアにユーマも爽やかな笑顔で応じる。
今回はパンツ一丁ではなく割と決まっていた。
特にストーンドラゴンは襲ってくることも無く、祠に辿り着くと中を覗き込む。
高さ約1m20cm、マウスですらかがまないと入れない石の通路の奥に輝く光が揺らめいていた。
「アンタにやるよ」
幼女が四つん這いで中に入ると思い出したようにリュオが何かを投げてよこした。
拳大の黒い鉱石が放物線を描き、振り返ったユーマの手に吸い込まれる。
「短い付き合いだったが、ま、がんばれや」
へらへらと笑いながら手を振り踵を返すと曲がり角に消えてゆき、大きく手を振った後にリディアが続く。
「ありがとう」
姿の見えなくなった2人に礼を言うと研磨されていないピーナッツ型の鉱石をポケットにねじ込む。
夜の闇を封じ込めたような漆黒の石だった。
「ユーマよ!! ユーマ??? おおい、付いて来とらんじゃろ?!」
祠の中から幼女の声がこだまする。
「いるよ! 狭くて通り辛いんだ!」
身長179㎝の体を小さく小さく縮めると祠の中に進入する。
奥の光に触れて、何も起こらなかったら物理的に出られないのでは。
ユーマは最悪を想像し、身震いしながらも奥へ奥へと進む。
視線の先にマウスの尻が見えていた。
やがて、マウスの尻が光に飲み込まれ、視界から消えてゆく。
そして―――。
この話を最後にリディア、リュオは出てこなくなります。
リディアが主人公の読み物は別途投稿予定ですので気になった方は是非どうぞ!!(宣伝)