ウソも方便
ややあって職人や商人たちでごった返す食堂街でユーマは目をむいていた。
500円分の銀貨しかないので、これで食べられるものを。とメニューを見ずに頼んだのである。
そうしたらどうだ。
次から次に料理が運ばれてくる不測の事態に陥った。
木の皿に山盛り盛り付けられたチャーハンみたいな何か、鶏っぽい鳥の丸焼き香草添え、サラダっぽいもの山盛り、謎の肉の目玉焼き添え、リンゴジュースっぽいなにかなどなど。
もしや、ここの物価は東南アジアことインドネシア並に安いのでは、と思ったところで出される食事は止まらない。
食物を無駄にするのは良くない。
食べかけのラーメンの無念の形相が脳裏をかすめる。
夕食を満喫するフリをしながらユーマは考えた。
うまいうまいげっぷ、うまいうまいうっぷ、うまいうま・・・・・・ぐぬぬ。
食べる速度より増える料理の方が速い。
こんな時、マウスあたりが通りかかってくれないだろうか、とも考える。
チラッと店内を見渡すがいない。
直後、ユーマに電流が走る。
物理的な電流ではない。ピキーン、とかいう閃き的なアレだ。
新人類に目覚めたのかは定かでは無いが、ユーマはよく通る声でみんなに呼びかけた。
「今日はオレの誕生日なんだ! みんな、オレからのおごりだ! 遠慮なく食べてくれ!!」
一瞬、店内が静かになり、誰彼構わずユーマを祝福した。
「お? にいちゃんめでたい日か! おめでとう!」
「おめでとう。名も知らぬ友人よ」
そして、小山のようになった料理を皆がつついていく。
(計画通り)
ユーマの口元が形よく歪んだ。
今日は誕生日でも何でもない。
限りある資源に優しく、空気を吸うようにウソをつく狡猾な男であった。
誕生会という名目の元、どんどん運ばれてくる料理を人海戦術で片付ける。
いい気分になり、お酒が入った他の客を尻目にそそくさと離脱。
「おいおい、にいちゃん待てよ」
しかし回り込まれてしまった!
顔が真っ赤になったゴリラのようなおっさんが立ちはだかる。
見つめ合う2人。
愛は芽生えない。むしろ芽生えて貰っても困る。
そういう趣味は無いのだ。
「誕生日祝いだ。良い木が育つぜ」
ゴリラは朱色の巾着をひとつ投げてよこす。
バナナではない。
中からそら豆大のタマネギらしきものが入っていた。
どうやら植えろという事らしい。
さすがは森の民。
一応、礼を述べるユーマに背を向け立ち去っていった。
満天の星空と2つの満月が白く白く輝く夜だった。
ジャバの物価はインドネシア並です。
ちなみにジャワから取ってきたネーミングではなく、洗濯機がジャバジャバ回っているところかららしいです(古い古い設定メモより)