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【外伝】ありのままのわたし ~ マ・クワ・ウリウリ ~

HENTAIシスターことマ・クワ・ウリウリさん15歳の読み切り外伝です。

 午前中はカラっと晴れていたのにお昼の鐘が時を告げるころには、どんよりとした雲が空に広がっていた。

 一雨くるかしら、木桶に水を汲む作業を中断し、曇天を仰ぐ。

 さらりとした彼女の金髪が風に揺れる。

 わずかに湿った空気のにおいがする。

 長雨になるか、ただのスコールかどっちかな、とシスターは思案する。

 アリアス王国領商業都市クルスト、季節風が上空でぶつかり合いやすいらしく、1年のうち特定の季節はダラダラと長雨になることが多いのだ。

 アウスティリア正統中央教会の青い法衣に身を包んだシスター マ・クワ・ウリウリはため息をついた。

 恵みの雨ではあるけれどジメジメ湿気るし、外に出掛けることもできない。

 やれることとしたら割り当てられた小さなMy教会にこもって、祈りを捧げるくらいだ。

 とにかくヒマなのだ。

「一雨来る前に買い出しでも・・・・・・」

 木桶を棚に戻すと財布を掴み、一路市場へ向かっていった。

 長雨になるならせめて美味しいものでも食べようと思ったのだ。


 教会から市場までは子どもの足でも5分も掛からないくらい近所だ。

 商業都市というだけあり、商店が街路の左右に軒を連ね、路上販売も行われている。

 天候が悪くなってきているとは言え、喧噪は絶えない。

「おいしい果物! リウーの実にネギギ、ロメロンもあるよ!!」

 色とりどりの瑞々しい果物や野菜、燻製の肉や魚、お酒の類。

 教会の戒律で肉食禁止になっている宗教もあるらしい。

 彼女の所属するアウスティリア正統中央教会には、禁止食物は無い。

 むしろ制限することで、健康な生活を害する方が悪とまで言われているのだ。

「さぁさぁ、世にも珍しい国外から取り寄せた絵本だ! 物語が綴られているよ!!」

「おやっさん、5つ買うから100負けてくれよ!?」

「タラの乾物3つ買ったら1つおまけしとくよ!!」

 マは、このうるさくて無秩序な町が好きだ。

 物心ついた頃には両親がいなくて、シスター長ミハイルニィニィが親代わりだった。

 兄弟姉妹もいなかったが、同じ教会にいる同年代の子たちがいた。

 いつもうるさいくらい賑やかな教会だった。

 秩序はあったけど。

 今は、みなそれぞれの担当する地区の教会で日々を過ごしている。

 もちろんマもその一人だ。

 少し寂しくなりかけた彼女の足が止まる。

 そして、一点を凝視。

「シスター、物語に興味があるのかい?」

 ひげ面のクマみたいなおっさん商人が呼びかける。

 マの視線の先には、本の山が詰まれ、一番上の表紙が青い法衣のシスターだった。

 見慣れぬ外国語が書かれているが、恐らく絵本か偉人伝だろう。

「あ、ええ。これは?」

「外国から取り寄せた物語の本だよ。中身は見て無いけれど、まあ絵が主体となっている本なんて珍しいんじゃないかい?」

 本といえば「文字がびっしり書かれている」ものだ。

 挿絵が入っている本なんて、この上なく珍しい。

 それが当たり前だし常識だった。

「全部! 全部ください!!」

 思考すること0.8秒、気付いた時には衝動買いしていた。

 食料を買い込むために持ってきた麻袋にすべて詰め込むとはやる気持ちから足早に帰宅する。


 分厚いものから薄いものまで合計68冊。

 仮に数日雨が降ってもヒマにはならないだろう。

 とにもかくにも買ってきた本を自室に運び込むと表紙をチェックしながら並べていく。

 驚くことに主人公と思われる人物はみな女性だった。

 シスターをはじめ、甲冑をきた女性、東国ヤクモの民族衣装に身を包んだ女性。

 英雄伝や偉人伝の本といえば、だいたい男性だ。

 女傑と呼ばれる著名人もいるがごく少数である。

「すごいすごい」

 シスターは小躍りしていた。

 そして、好奇心から薄い本を一冊手に取るとパラパラっと捲る。


 時が止まった。


 超常的な意味では無く、シスターは呼吸することも忘れたように固まった。

 ややあって顔が真っ赤になるのが分かった。

 心臓がバクバクする。

 変な汗がだらだら出てくる。

 しかし本の中身から目が離せない。

 やばい呪いの本であろうか。

「え、え、ええ、えええ・・・・・・!!!」

 シスターは自身の目がグルグル回る錯覚に陥る。


 薄い本はエロ本だった。


 穴が開くほど見つめる先には、半分剥かれたシスターのアレな絵が描かれていた。

 底知れぬ背徳感と未知との遭遇に恐怖と好奇心が入り乱れる。

 マの心に大暴風が吹き荒れた。

 雷鳴が轟き、大嵐がやってきたのだ。

 固まった手がゆっくりと動く。

 ページをめくる。

 未知との遭遇。


 グワラガラドッッッシャーーーーーン!!


 落雷からの立木が炎上。

 ページをめくる。


 ビュゴゴゴオオオオーーーーーッ!!!

 茅葺の家が吹き飛ばされ空中でバラバラになる。

 心臓の音がバクバク聞こえてくる。



 やがて捲るページが無くなるころ、マはぐったりと石畳に倒れ伏していた。

 謎の興奮と共に汗だくになり思考が定まらない。

 魔に魅入られたシスター マ・クワ・ウリウリ15歳は昼夜問わず残る67冊を読破するのだった。


 結果、性癖が歪んだ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ウリウリちゃんが、かなりのキワモノで大好きになりました。 文体や表現の仕方に、独特の"憎めない毒"みたいなものがあって、所々でクスリとさせられました。 ウリちゃんだけじゃなく、他の女性陣も…
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