トイレの先の異世界
思い返せばトラックに轢かれて転生したとか、手違いで死んで詫びチートを貰ったとかでは無かった。
ある週末の昼下がり、ネトゲをしつつラーメンを食べていたらトイレに行きたくなった。
で、用を足してトイレのドアを開けると異世界だった。
なんの面白みも無ければ、駄女神のチュートリアルもない。
小一時間、トイレと異世界を往復したが変化なし。
あったのは便器のふたの上にキャンパスノートが一冊置かれていたこと。
開くとメモが一枚“これに汝の旅の記録を記すべし。さすればゴッデスポイントを進呈する”と。
読み終えると同時に脳裏に何者かの声が響いた。
『無償のゴッデスポイントを進呈する。500ある。有意義に使え』
この声は・・・・・・! 某版権の俗物おねえさんだ! 間違いない。
土足でヅケヅケと他人の心に押し入ってくる。
おねえさんの響くような声が続ける。
『ゴッデスポイント使用の際は呼びかけよ!』
とだけ聞こえた。
ユーマはニュー、では無くエスパーにでもなってしまったのか、と疑問に思ったが現状を打破できないことを悟ると思考を放棄する。
そうして、とりあえず異世界の街に繰り出した。
履物が無いので便所のスリッパで、だ。
トイレのドアをくぐると青い空、白い雲、活気のある市場。
石造りの家々が立ち並び、色とりどりの屋根、石畳・・・・・・。
一言で言うとヨーロッパ風のどこかだった。
もしかするとドッキリ企画か何かだろうか。
意を決して、大通りに踏み出す。
道の左右には店舗が並び、路上に敷物を敷いた露店、何台かの馬車行き交う事から道幅はかなり広い。
現代の4~6車線道路くらいかな、とユーマは考える。
ブラブラ散策しながら値札を見ると明らかに日本円では無い価格表示。
“リヴゥの実 50B”
リンゴそっくりの見た目の果実が山盛り売られている。
50Bとかなんだ? バーツか?
半分も食べていなかったラーメン。
今頃冷めて、伸び切ってしまっているだろうラーメン。
当然のように腹が減って仕方ない。
「お、にいさん今朝採れたてのリヴゥうまいぞ! 50ブロンズだ。新鮮で安い! どうだ! 5個買えば1個おまけするぜ!!」
ユーマの熱い視線に気付いたおっさん店主が呼びかけてくる。
ブロンズという響きからして銅貨だろう。
これで変化球の白金だとか黄金とかいうパターンだとしたら神は性格が悪い。
(お金を手に入れないと。ハ●ーン様、ポイント使う)
『そのような名前ではない。私のことは勇冥野稲荷―――』
(え、イサオメイ・・・・・・? なんて?)
『イサオメイヤイナリ』
(イサオメイナリヤリリ・・・・・・?)
『もうよい! 下がれ俗物! チグサと呼べ。様を忘れるな!!』
オコであった。
でも舌を噛みそうな名前を初見で詠唱できない。
(チグサ様、ポイント使う)
『ゴホン! ゴッデスポイントを換金するが良いか?』
強く心から求めると再びチグサ様の声が聞こえる。
どうやら“強く念じる”と良いらしい。
やはりニュータ・・・・・・では無くエスパーかもしれん。
(日本円1万円分くらいに換金したい)
そもそも1ポイント何円くらいなのかとか換金以外の用途は何なのかとか疑問は尽きない。
とりあえず今は現金が欲しい。
『ゴッデスポイント100を金貨10に変換する。残400.まだ何か必要か?』
ゴッデスポイント100が1万円、金貨1枚は1000円のようだ。
となると普通に考えるとシルバー(銀貨)みたいなものがあり、恐らく銀貨1枚100円だろう。
銅貨1枚は10円だろうか。
銅貨50枚・・・・・・リンゴみたいな何かは1個500円!?
た、高い・・・・・・。
ユーマはニヘラと笑い、買わずに立ち去る。
おっさんの舌打ちが聞こえたが無視。
(他に使用用途は?)
『ナビが変わります―――』
ポケットの中に本物を見たことは無いが、金貨が10枚確かに入っていることを確認しつつ呼びかける。
『無償ゴッデスポイントは通貨、一部のスキルポイント、各種道具と交換できる。有償ゴッデスポイントは多岐にわたるため述べ切れない。一例として水道代、電気代、ガス代、ホームシステムの拡張などにも使用可能』
どこか軽快な口調で喋るおじいちゃん声だ。
その内、ここに3つの玉があるじゃろ、とか言い出しそうな声である。
水道代・・・・・・?
(・・・・・・水道代とは?)
『現在だと、お前のトイレの水が影響を受ける』
時々、怪しいネタセリフとかが出てきます。