さわやかな朝と生臭い話
排ガスとかとは無縁の世界なのだろう。
葉っぱにたまった夜露が妙にまろやかな味がするらしい。
朝露とリヴァの一番搾りなるジュースを一気飲みする。
リヴァとかいう果物は見た目ラ・フランスで味はリンゴだった。
まろやかかつ爽快な味で目が冴え渡る。
塩コショウで焼いた鳥肉を挟んだバンズは何となくコメの味がする。
寝起きのマウスが無言でバンズを4つ平らげる。
リディアとユーマは2つ食べた。
一応食べ放題らしい。
そしてプライスは宿代と朝食3人分で60000PA。
PAはパシファルと読むらしいが、ざっと10PA=1円らしい。
つまりは約6000円にということになる。
3人で6000円ならユーマには安い買い物だった。
日記帳を召喚する前に交換した通貨をPONと支払った。
リディアが驚愕していたところを見るとこの世界の給与水準は低いのだろう。
「のう、仲間探し、明日にせんか・・・・・・?」
腹いっぱいになり、背もたれ椅子で伸びているマウスが樹上の町を眺めながら呟いた。
朝の爽やかな日差しが爬虫類系幼女から気力を奪ってゆく。
「みんな無事なのか心配だけど・・・・・・この場所に来てるか分からないし・・・・・・」
同じく背もたれ椅子上でだらしなく手足を放り出したリディアも呟く。
先日の疲れと美味な食事が彼女の気力を奪ったらしい。
「まあ、みんながそれでいいなら特には」
同じく背もたれ椅子に沈み込みながらユーマも呟いた。
隣の巨木の枝の上を誰かが歩いているのをぼんやりと眺める。
枝と言っても4車線道路くらいある、はずだ。
そうそう足を滑らせて転落、とかいうマヌケは無いだろう。
たまには、ぼんやりするのも良いな、とユーマは深く考えるのをやめた。
そっと2人を見ると寝息を立ててすやすや二度寝していた。
そう、たまには良いか・・・・・・意識を手放し掛け、慌てて捕まえる。
まずい! 何もしないとゴッデスポイントがもらえない!!!
ユーマは恐怖した。
そして、飛び起きると「ちょっと散歩してくる」と書置きを残し、立ち上がる。
部屋の入り口のスライド戸を勢いよく開け放つとスパ―ンという良い音をたてる。
廊下を突き抜け、ストックされている綿毛を掴むと一切の躊躇なく、外壁の階段手すりを乗り越えフライング。
風に乗って漂うタンポポの綿毛よろしく、ユーマを乗せてゆらゆらと地上に向かって降下していく。
朝から巨木の町の住民は働き者だった。
住民はジャバ神族というエルフではない何か。
少し肌の色が茶色く、瞳の色は総じて空の蒼、髪の色は緑系が多いらしいが、最近は多様化してきているらしく赤やピンクのもいるらしい。
宿屋の親父は赤だった。
彼らジャバ神族は、命綱無しで巨木の枝の上を行き来する。
うっかり転落してお亡くなりになることを“自然に還る”というそうだ。
島の中心に生えている世界樹という巨木中の巨木を神として崇めていると聞いた。
何でも世界樹の根は、星の中心にまで到達しており、そこには世界を創造した神が眠るという伝説があるらしい。
そんな彼らはせっせと出店の準備を整えていた。
はるか眼下では巨木と巨木の間に畑があり、せわしなく動いているのも住民だろう。
爽やか風が吹き抜ける。
きっと良い出会いがあるに違いない。
のんべんだらりと暮らしたいものです。