日記帳を生成する話
寝付くまでの間、ユーマはキャンパスノートに物語を綴っていた。
インクの無くならない脅威のテクノロジーで出来ているペン。
防水防炎防塵、さらには破損個所が自己再生するキャンパスノート。
これに物語を綴ると翌朝か真夜中にゴッデスポイントが増えるという謎の仕組みだ。
最近は、物語を綴らなくても少量のゴッデスポイントが貰えることに気付いてしまった。
ログインボーナスか?
一度、何もせずにぼんやり空を眺めるだけの日を過ごしてみたら1ポイントも貰えなかったので、何か活動しなければならないのだろう。
働かざる者貰うべからず。
「日記?」
お宿備え付けの緑色のワンピース姿のリディアが姿を見せ、問いかけた。
日記、といえば日記かもしれない。
「どっちかというと物語? 自叙伝?」
ユーマは首を捻りながら答える。
疑問形だった。
「ふーん。作家なんだ。面白そうね」
作家なのか、そうか。そうなのか。
ユーマは自問自答して納得した。
まあ、物語として綴ると忘れてしまいそうな出来事も記録として残る。
きっといつか懐かしく思うこともあるのだろう。
「あとで見返す思い出になるかな。リディアも書いてみたら?」
ユーマはペンを机に置くと、とある事を試してみようと思った。
ゴッデスポイントを通貨に換えられるなら物品に変えることもできるのでは? と。
物は試しである。
(求ム、おしゃれな日記帳とペン。無限のインクと防水防炎防塵加工で)
沈黙。
割と要求が多すぎただろうか、いつもなら即時返答があるはずだが、何も起こらないし返事も無い。
「おもしろいかもね。日記帳を手に入れるところからスタートしなきゃいけないけど」
この異界の製紙技術がどの段階なのかが分からないが、宿の帳簿が羊皮紙だった。
とどのつまり紙では無いので、製紙技術が発達してない可能性だってあるわけだ。
ややあってハ●ーン様ボイスで返答があった。
『よかろう。今日のゴッデスポイントはもう無い。今後は計画的に使え』
ふと手元を見るとキャンパスノートとは別に四葉のクローバーが描かれた青い日記帳とダサいクマっぽいストラップの付いた万年筆が増えていた。
チョイスがおかしいファンシーと狂気の合わせ技。
おまけにローンの宣伝のような一言まで付いている。
(御意)
ユーマは武士のような返答を心の中ですると何食わぬ顔をする。
「この日記帳、ページが増えるんだよね。だからもう一冊はあげるよ」
ユーマは心の中で返事をした後、リディアに召喚した日記帳セットを押し付ける。
「え、え? いいの?」
「ああ、もちろん」
ユーマはカッコいい顔をしていた。
今度はパンツ一丁では無かった。
アンティークなランタンの灯りに照らされ、何となく男前だった。
「えへへ、ありがと。じゃあ物語が出来たら、いつか読んでね」
きっと読む機会は無いだろう。
窓ガラスの無い窓から差し込む月明かりがきれいだった。