キノコをソテーに変えるお話
「我はイヤじゃ! こんなジメジメしたところにいとうない!!」
幼女は激怒した。
「あたしもイヤかなー」
リディアも地面に突き刺さったキノコマンをじろりと見ると苦言を呈する。
「よし、もう少し落ち着けるところに行こう」
ユーマは即断した。
切り替えの早い男でもあった。
キノコマンを放置して大木の町らしきものがある方に歩き出す。
「我はマウス。マウス・トゥ・ヴェサ・エレクトロニカ28じゃ! よろしくの、ええっと・・・・・・」
「よろしくね。あたしはリディア・ミリアル・シルフィよ。一応、学生よ」
「リディアか! 学生とは学び研鑽する知識人、良い仕事をしておる!」
女子2人、仲良く握手を交わしていた。
「連れと北大陸までの船旅してたんだけどね、船が沈んじゃって」
「災難じゃったな。連れも無事であると良いな」
「ありがと。まあ、あいつらなら無事じゃないかな。1人は水の上でも走りそうだし」
同性だと話がしやすいらしく、これまでのダイジェストが聞こえてくる。
ユーマは静かに聞きながら先頭を往く。
「なら良いがのぅ。しかし人の子は空を飛んで逃げられんから不憫よの・・・・・・」
「マウスちゃんは飛べるの?」
「おうともよ。我は雷を司る竜族ぞ?」
無い胸を張り、ふふんと自慢するマウス。
どうみても幼女である。
「マウスが竜の姿をしているところ、見たことないんだけど」
ユーマが静かに突っ込んだ。
爬虫類っぽい尻尾とドラゴンっぽい翼なら見たことはあるがドラゴンそのものは見たことが無い。
「ほほう? 我の本気を見たいと? 止まれんぞ?」
幼女が意味深にニチャァと笑った。
どうせロクな事ではないだろう。
ユーマは乾いた笑いを浮かべていた。
「ねぇ、見て見てキレイね」
ふと足元を見下ろすとコケとかリンドウみたいな花が淡い光を放って光っていた。
さながら光の道標だ。
「ああ、キレイだ」
昔、田舎の河原で見た蛍の群れのようだと思った。
さすが異世界、コケも光れば、花も光る。
そしてキノコも光っていた。
「うわぁぁぁ、ボクを置いていくなんてヒドイよぉぉぉ!!」
先ほどのキノコマンだった。
「なんじゃ、お主死んだんじゃなかったのか」
ほのかに発光するキノコマンを一瞥したマウスが毒を吐いた。
「死んでないよぉ。ちょっと知らない河原で死んだおじいちゃんと遊ぶ夢を見たけどぉ」
リディアが露骨にイヤそうな顔をしていた。
手足をフリフリし、傘を揺らしながらキノコマンが抗議する。
黄色い胞子がキラキラ光りながら宙を舞う。
「そうか。で、何の用じゃ?」
白けた目で動きを追いながらスク水幼女の冷めた一言がキノコマンに襲い掛かる。
「えぇ、何ってボクたち旅の仲間たちってやつだろぉ? ひどいや」
半開きのアヒル口がパクパク動き、そしてプックプクプーとふくれっ面を見せてきた。
かわいい子ならかわいいが、キノ〇オをさらにブサイクにしたようなヤツである。
正直ぶっ飛ばしたい衝動に駆られるが理性が働く。
マウスも露骨にイヤそうな顔をしていた。
それから大きく息を吸い込むと
「ぬしよ。ぱーてぃーを組んだ覚えはないのじゃ。失せよキノコ!」
一喝した。
空気がビリビリ震える。
キノコも表面がプルプル震える。
「そ、そんな! エルフちゃん、あんまりだ!」
一瞬、涙目になりかけるが立て直しは早かった。
「! そうだ! まだ自己紹介してないから仲間じゃないんだ! ボクはマドレーヌ・フォン・リブランシア! ピッチピチの53歳さ! あ、もちろん人間換算年齢だよ。趣味は観察、特技はクリエイティブさ! こう見えてボク、職人なんだよ!!」
キノコおじさんがはきはきし、饒舌に自己紹介した。
ユーマ達は恐怖を覚えた。
「ヤるぞ、ユーマよ。こやつは消さねばならぬ」
青ざめたマウスが小声で囁く。
「ああ、何だかヤバいヤツだ。どうすれば良い?」
恐怖で顔が引きつったユーマも囁き返す。
「あたしも魔法使えるよ」
一歩後ずさりながらリディアが話に入ってくる。
不穏な相談をする3人を気に留めることも無く、キノコおじがキャピキャピと自分語りを続けていた。
「小娘が一撃加え、ひるんだところに我のブレスをぶち込む! ユーマは我に魔力を貸すのじゃ!」
どっちが小娘なのかよく分からないが、マウスから見るとリディアが小娘だ。
静かにうなずき、そそくさと行動に移す。
(ゴッデスポイントを魔力に変換。マウスに提供)
ユーマは心の中でハ●ーン様に語り掛ける。
『よかろう。力を行使するごとにゴッデスポイントを消費する。心して使え』
目くばせし、リディアが両手をキノコおじに向ける。
「であるからボクは・・・・・・ん? 握手かい?!」
「始原の炎よ、彼のモノを穿つ槍となりて中略! ファイアジャベリン!」
嬉々として歩み寄ろうとしたキノコおじを60㎝のビニール傘くらいの火炎槍が襲う。
2mくらいの距離から命中。
こんがりとした美味しそうな香りが漂う。
醤油を掛けると美味しいだろうか、ユーマの脳裏をバーベキューのシイタケがよぎる。
「ひれ伏せ俗物っ!」
ドラゴン的な翼と尻尾が現れたマウスが宙を舞う。
空飛ぶ幼女!
刹那、青い放電を伴う閃光が幼女の口から放たれた。
さながらどこかのアニメのハイ●ーメガ粒子砲のようだった。
「ほわぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーッ!!!!!」
マドレーヌ・フォン・リブランシアことキノコおじが閃光の中に消えていった。
そしてユーマしか見えないゴッデスポイントの残高がグッと減った。
「大勝利じゃ!」
「大赤字だ!!」
マウスとユーマが同時に叫んだ。
少し離れたところでリディアが肩で息をしていた。
「とにかく不気味なヤツじゃった。きっと悪の尖兵じゃ」
マウスが消し飛んだキノコおじのいた辺りを見て吐き捨てる。
無論すべてが閃光の中に消えていき、何も残っていない。
地面は表面が黒焦げになっているだけで大爆発も何もしていない。
環境にやさしい必殺ブレス。
「マウスちゃん、本当にドラゴンなんだね」
爬虫類的な翼と尻尾をペタペタ撫でながらリディアが感心したような声をあげる。
「おうともよ。本気を出せば辺り一帯大爆発じゃ!」
物騒な一言である。
兎にも角にもこれで怪しいキノコおじさんに絡まれることは無くなった。
のどに刺さった魚の小骨が取れた気分のまま一行は、樹上の町に向かうのだった。
跡形もなく消し飛んでしまったのじゃ!!!