キノコに襲われたあとの話
『勇者よ目覚めるのです』
ピカ●ュウの声が聞こえる。
-なんじゃ、またやらかしたのか?-
-ごめんよ。人間、初めてだったから珍しくて、つい・・・・・・-
ユーマの両足を誰かが掴み引きずっていく。
ぼんやりした意識の中、どこかで聞いたような少女の声が聞こえる。
そしてキノコマンの声も。
-なんじゃ、ユーマではないか。我の連れじゃ-
後頭部が地面のゴツゴツに当たって痛い。
「ユーマよ。早う起きんか」
右頬をぺちぺち叩く幼女はマウスだった。
『ゴッデスポイントを50消費して胞子耐性を付与した』
脳裏にハ●ーン様の声が響く。
またも勝手にポイントが消費された。ガッデム!
うっすらと意識が鮮明になってきたユーマの目には、見下ろすスク水幼女ならぬマウスとキノコマンがいた。
キノコハウスのドアの前、近くには縄でぐるぐる巻きにされたリディアがのたうち回っていた。
ひどい絵面である。
「なんだこれ」
ユーマの率直な感想だ。
「ごめんよ人間。生きてる人間って初めて見たんだ。珍しくてついヤっちゃった!」
恐らく男だと思われるキノコがてへぺろしながら詫びてくる。
本体サイズに対して顔に当たる箇所が妙に小さく恐怖を覚える。
あとでソテーに変えてやろう。
ユーマの心に鬼が住み着いた。
「分かった。済んでしまった事は仕方ねえ。で、どう落とし前付けるんだ?」
とりあえず、ユーマは寛大な男を演じてみたが、本音が漏れていた。
損失に関しては人一倍敏感であった。
どこかのドラマに出てきそうな893のようなセリフを吐く。
「落とし物したのかい? ごめんよ、ボクも探すから」
通じなかった。意味が。
「いや、いい。それより彼女のアレ、さすがにヒドイ」
ユーマは落とし前の説明を断念した。
メンドくさがりな男でもあった。
代わりにぐるぐる巻きにされているリディアを指差して、キノコマンの対応を批判した。
ギャグマンガのような縛り方だ。もっとこう艶めかしい縛り方があるだろう、とか思ったが、口には出さない。
女の子になんてひどいことを、という意味で言ってみた。
ユーマはむっつりだった。
「そうだよね。もっと艶めかしい縛り方の方がいいよね・・・・・・」
キノコマンがしょぼくれる。
キサマ、エスパーか!!
「いや、女の子にああいう事するのは良くない。ほれ、ほどいて」
至って平静を装いながら指摘する。
「我も女の子なんじゃが?」
横で傍観していたマウスがにじり寄る。
「うんそうだね」
抑揚の無い返答。
キノコマンがぐるぐる巻きのリディアを開放しに行っている間、マウスと状況確認をすることにした。
ユーマの足元の床が抜けたあと、マウスが振り返ると誰もいなくなっていた。
寂しさのあまり、おーいおーいと濁流のような涙を流しながら遺跡内を探して回ったところ光が溢れている部屋があり、入ってみると森の祠につながっていたという。
そして森の中を歩いていると先のキノコマンが現れ「エルフだ! うわああぁぁぁぁぁーッ」と叫んで飛び掛かってきたそうだ。
尻尾アタックで迎撃したところ尖った鼻が歪んだ、と説明された。
本当か? ユーマは訝しんだ。
「その祠というのは?」
概ね合っていればマウスが号泣したかどうかとか探し回っていたかは些細な事だった。
そもそもマウスはエルフではない。
「ここの大木群の奥の方じゃ。なんじゃか石のドラゴンがおってな。言葉が通じんかった」
シュッシュッとパンチを繰り出すモーションを取りながらマウスが答える。
言葉というより肉体言語の事だろう。
そりゃムリだ。
「ゴーレムか?」
「遺跡の守り神さまがいるんだよぉぉぉぉぉぉぉアァぁァ!!!」
ユーマが下あごに手を当てたまま呟くとキノコマンが横を7回転半しながらブッ飛んでいく。
ダイイングメッセージを残して地面に突き刺さるキノコ。
顔を真っ赤にしたリディアが回し蹴りを放ったポーズのまま唸った。
「ソテーにするわよ!」
気が合うな、ユーマは好感を覚えた。
「ヤるんじゃろ?」
スク水幼女がカマキリの構えを取る。
これだから戦闘民族はイヤだ。
「無用な戦いは避けたい。というよりこのままでも良いような気がしないでもない」
ユーマは考えた。
うんと考えた。
いろいろ考えた。
元?の世界に戻ると待っているのは半裸の脳筋ゴブリンに変態思考のシスター、戦闘民族のスク水幼女との狂騒曲だ。
そもそも元の世界というなら現代日本の我が家である。
食べかけのラーメンとプレイ中のネトゲのある、懐かしいマイホームだ。
異世界の中でさらに異世界に来てしまったのなら居心地が良い方が良いに決まっている。
リディアとマウスを交互に見て思う。
相方なら多少腕っぷしが強くても常識人っぽいリディアの方が良いに決まっている。
何よりかわいい。
ユーマは真剣に考える表情を見せながら不埒な妄想に浸っていた。
むっつりスケベであった。