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第八話 遠山桜の四つの箱

 あ、分かった。

 市中引き回しってこれの事だ。

 じいちゃんが生きてた頃に、一緒に時代劇で見たことがある。

 お白洲に罪人を並べて、調べを終えたお奉行が宣告する。

「市中引き回しの上打ち首獄門!」

 被害者のちりめん問屋の娘お玉は泣き崩れ、悪代官どもは首をがっくりと項垂れる。

 これにて一件落着。ちょんちょん。

 な、なんて恐ろしい刑だったんだ。

 こんな事させるなんて、ちょっと見損なったよ金さん!

 しかし、遠山桜に文句を言った所で、現状はいっこうに変わらない。

 現在、俺は学食に向って歩いていた。

 昼休みに、校内で、卯乃原と、手を繋ぎながら。

 いつ、どこで、だれと、なにをした。

 四つの箱から引いたカードは、百回引いたって出て来ないようなお題だった。

 しかも、手の繋ぎ方が、お互いの指をがっちり絡めあった恋人繋ぎ。

 逃げようとしたら、即指攻めも出来てしまう。

「あいつら……ヒソヒソ」

「男同士で……コソコソ」

 歩いていると、なにやら、ひそひそ話が聞こえて来た。

 時間は昼休みの四分の一が過ぎた頃。

 当然、廊下にも人の姿はあって、男同士でやたらベタベタしてる俺達は、当たり前みたいに視線を集めていた。

 どんな顔になってるか気になって隣を見上げてみれば、にこにこと、やたら嬉しそうな笑顔がそこにある。

「やっぱりちょっと照れる」

 俺の視線に気が付いた卯乃原は、子供にするように俺を見下ろして、照れくさそうに頬を掻いた。

「そう? 良く分からないよ。だって俺の精神はもう死んじゃったから」

 事実だった。

 やがて、永遠に続くかと思われた行進も、学食に到着するとその足が止まった。

「ふーーん」

 入り口の前で、卯乃原が物珍しげに声を上げた。

 周囲に視線をやったり、恐る恐る中を窺ったりしている。

「カナ、学食くるの初めて?」

 名前を呼んだ所為か、一瞬シビビってなりかけて、卯乃原は慌てて首を振った。

「え、ううん。そ、そんなわけないじゃん。もうバリバリだぜ!」

 言ってる意味は分からなかったけど、とりあえず頷いておいて、俺達は学食の中に足を踏み入れた。

 その途端、学食に居た人たちからどよめきが起こる。

(ま、そりゃそうだ)

 場所が廊下から学食に変わろうと、そこに居るのは変わらぬ十代の男女。

 食事のマナーよりも、色恋に興味があるのは俺だって同じだ。

 ただ、その対象にされるというのは、かなり落ち着かない。

 俺は、へー、とか、はー、とか、一々感心している卯乃原の大きな手を引いて、急いで川添の姿を探した。

 昼休みも半分くらいまでくると、学食も随分空いている。

 奥まった席に川添の姿を見つけて、俺は慌ててそちらに駆け寄った。

「わるい、ちょっと遅くなった」

 川添の前に置かれていたトレーは、既に食後の状態だった。

 俺は片手をあげつつ、川添の向かいの席に腰掛けた。

「や……そりゃ別に良いんだけどさ」

 俺の隣の席を確保した卯乃原を見て、流石に川添も驚いたみたいだ。

 普段からは考えられないくらいニコニコしてる彼を、珍獣を見るような目で見つめていた。

「卯乃原……だよね?」

「こんにちわ」

「こ、んにちわ」

 お、おお、珍しく川添が困惑している。

 最初の発言は"らしい"けど、微妙に噛み合っていない返答をされて、狐につままれたハトが豆鉄砲喰らったみたいな顔をしてた。

「あ、あー、そだ、浮塚、これ食券」

 さりげなく視線を逃がした川添が、俺の顔を見て、思い出したようにポケットから食券を取り出した。

「ありがと」

 俺はそれを受け取って立ち上がる。

 その光景を座ったままジッと見つめていた卯乃原に、俺は入り口を指差した。

「あそこ、入り口に券売機があるから、あそこで好きなもの選んで、あっち、カウンターでおばちゃんに食券渡したら、直ぐ出してくれるから」

 やたら子供に言い含めるような感じになったのは、いつもと違って俺が彼を見下ろしていたからだろうか。

 卯乃原はコクコクと素直に頷くと、手を離して立ち上がった。

 その拍子に、何かがズボンのポケットから落ちたが、それには気が付かずに券売機の方へと駆けていった。

「なんだこれ?」

 拾ってみると、それは紙片だった。

 メモ帳のページの半分くらいのサイズで、千切った後がある。

 二つ折りにしてあり、中に何か書いてあった。

 何気なく、開いてみる。

「どした? なにそれ?」

 川添が声をかけて来たが、俺は答えられず首を振った。

 書き殴ったみたいな、二列の文章。

「……マジでわけわかんね」

 それでも俺は目が離せなかった。

 そこには、こう書かれていたから。


『ウキヅカアキラに会った

 フォローしとけ』


お話を書く際のモチベーションは、勿論書いてらっしゃる方それぞれお有りでしょうが、僕の場合は自分が読みたいと思うものを書いております。

自己満足と言われればその通りなのですが、今の所それ以上の理由は無いと思います。

これから先、なるべく読んでいただいている方も楽しんでくださるような自己満足をやっていくつもりなので、宜しければお付き合いくださいませ。

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