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第十六話 握った砂の価値は

 動けなかった。

 何を言われたか分かっているはずなのに、それが、理解できない。

 正直、ここまでショックを受けている自分にも、少しだけ驚いていた。

「ちょ、ちょっと強引かもとか思ったんだけど、だって告白の返事だって貰ってないし」

 カナは照れたように視線を下げる。

「でも、手を繋いだりとか、あーんとか、基本だし、その、好きな人が出来たら…やってみたかったことだし……それで、我慢できなくなって……」

 彼女は、照れ臭そうに、嬉しそうに、語っている、自分が、消える為の手段を。

「……その事、卯乃原は知ってんの?」

「え?」

 モジモジ人指し指同士をつついていたカナが顔を上げた。

 辛うじて動いた口の中は、からからに乾いている。

「だから……カナが居なくなるかもしれないって事、卯乃原は知ってるの?」

 自分で語調が強くなったのが分かった。

 なのに、声は震えている。

 いや、体全部が震えていた。

 俺は、その事を悟られないように、拳を握りこむ。

「ううん」

「なんで?」

 辛うじて残っている理性が、俺の声を抑えていた。

 張り詰めた糸はほつれる寸前で、それでもなんとか線は切れずにいる。

「なんでって、絶対、止めるもん」

 あっけらかんとした言いように、思わず顔を上げていた。

「変だ……」

「……」

「だって、そんなの絶対変だ。消えたいとか。そんなん、だっ、このままで良いじゃん。このまま……消えるとかそんな事言わずにさ。卯乃原だって迷惑なんて思わないだろ」

「そうかも。うん、絶対カナエは迷惑なんて思わない」

「だったら……!」

 糸が、切れた。

 自分で表情が歪んでいくのを感じながら、みっともなく俺は叫んでいた。

 隠しようも無いくらい声が震えてる。

 本当の意味でカナと出会ってから、まだ一時間も経っていない。

 それなのに、彼女との別れを想像すると、凄く嫌な気持になる。

 焦ってしまう。

 それは、もしかしたら、指の隙間から落ちる砂に、ありもしない価値を見出しているようなものなのかもしれない。

 ただ単に何となく惜しいような気がして、ぎゅっと握り締めるような。

 その一方で、そうじゃないという確信みたいなものも、俺の中にはあった。

「でも、それはカナエの為にならないと思う。迷惑が無いからって、負担が無いわけじゃないし」

「それは……」

「それに、私、死んでるんだもん。今の状態の方がおかしいんだよ。だから消えなくちゃ」

「…………そんな事……なんで……」

 なんで、なんでも無いみたいに言うんだよ。

 どうしようもなく、声がかすれる。

 ……俺は、へタレなんだ。

 繁みから鳩が飛んだくらいで、驚いて吐いてしまうくらい。

 手を差し出されれば、カツアゲと誤解してしまうくらい。

 今まで、誰かを好きになることすら、怖くて出来なかったくらい。

 それでも……それなのに……こんな痛みに、耐えられるわけが無いじゃん。

 そんな風に、どこまでも自分本位な俺には、彼女の落ち着きが分からなかった。

 決然としている態度に、苛立ちすら覚えた。

 もしかしたら、彼女を睨んでいたかもしれない。

 自分が、酷く醜い顔をしている筈だと想像できる。

 カナは困ったように笑っていた。

 笑いながら、

「だって、カナエは弟だから」

 そう言った。

 ……あの子は認めてないけどね。

 言い添えて、カナは目を細める。

 写真の中で見た、自分だけで輝ける星の笑顔。

 俺は、何も言えずに、そこから顔を背けていた。


「なろう」でお世話になって二年近くになるんですが、未だにお話を作る際の鋳型のようなモノが自分の中で見つかっていません。

無理とは知れど、キャラクターと設定突っ込んだら、パキパキ物語が組みあがっていくような、魔法の設計図が欲しいです。

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