第十一話 朝、メモ。
「アキのお姉ちゃん美人だねー」
「……うん」
「ちょっとアキと似てるよね」
「……そう?」
「寝癖の所とか特に」
「……ああ」
「あ、それでさ……」
俺の生返事も気にした様子も無く、楽しそうに卯乃原は喋り続ける。
間が持たないとか、沈黙がイヤだって感じじゃなくて、魚が泳ぐみたいに口が動いていた。
俺は半ば呆然と卯乃原の顔を見上げながら、ひたすら話題の尽きない彼の言葉に「ああ」とか「うん」とか答えながら足を動かした。
右手は今日もしっかり卯乃原の大きな手に握られていた。
今度こそ、本当に市中引き回しだ。
普通の登校時間よりも少し早い事もあって、幸いにも生徒たちの数は少ないが、それでも行き会った人たちには遠慮のない好奇の視線をぶつけられてる。
俺は足を止めた。
つられるように、卯乃原も足を止めてこちらを向いた。
繋いだ手の先に不思議そうに見てくる顔がある。
俺はポケットを探って昨日拾った紙を取り出した。
繋いでいた手を外して、そこに紙片を乗せる。
「これ、昨日拾ったんだけど、何?」
歩きながら、直接聞くのが一番の早道だと気が付いたのだ。
自分でも、驚くほど自然な行動だったと思う。
徹夜明けで、ナチュラルハイとか言うヤツになっていたのかもしれない。
卯乃原はそれを受け取ると、成績表を開くみたいに両手で抓んで、「んげっ」と零した。
サッと俺のほうを向いて、笑いながら頭を掻いた。
「あ、あはははは、お、俺知らない、こ、こんなの初めて見た……」
「ポッケから落ちるトコ見た」
「うっ……」
しばらく何か言おうと口をパクパクさせてたけど、やがて諦めたようにがっくりと肩を落とした。
でかい体が小さくしぼんでいて、そのまま消えてしまうんじゃないかと思った。
実際はそんな事が起こるわけもなく、卯乃原が顔を上げる。
「アキ……今日昼休みに話すからさ、それまで勘弁してもらえないかな?」
「……わかった」
俺はコクリと頷いた。
「よかった…ありがとう」
卯乃原はそう呟くと、泣きそうな笑顔を俺に見せて、どこからかペンを取り出し、さっきの紙切れの裏に何か書きはじめた。
俺の身長じゃ内容は見られなかったが、書き終わってしばらくそれを見つめた後、卯乃原は小さく頷いた。
紙切れをぐちゃぐちゃっと握り締めて、ポケットに突っ込んだ。
「んじゃ、先行くわ」
告げるというより、投げるようにして置いたその一言を残して、卯乃原はあっという間に小さくなっていった。
別に早歩きでもないのに、俺の歩く倍以上のスピードで背中が遠くなっていく。
俺はそれを見送ってから、一つ溜息を付いて、歩き始めた。
普段より、いくらかゆっくりと歩いた。
ようやく折り返し地点です。
あとがきは昨日あんな事になったので自重中。




